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第2話:異世界での目覚め

 降り注ぐ眩しい日差しが雪白玲奈を目覚めさせる。

「ん……。ここは……?」

 周囲を見渡す玲奈の視界に映ったのは澄み切った青空に燦々と輝く太陽、そして草原に倒れている先輩2人の姿だった。


「大神先輩!宮本先輩!大丈夫ですか!?」

 急いで2人を起こそうとしたした玲奈はそこでふと違和感に気づく。

(あれ、2人ともこんなに若かったっけ……? あ、そういえば……。)

 その時玲奈はようやくここに来る前の大介の言葉を思い出すが、それと同時にあの地獄の光景がフラッシュバックした。黒ローブの集団と倒れる仲間たち。そしてそれを眺める藤大介の姿を思い出した玲奈は思わず心の内を吐き出す。

「藤先輩はなんであんな事を……。尊敬してたのに……。大好きだったのに!!」

 大介の裏切りによって仲間たちが犠牲になったあの時、玲奈は恐怖で脚がすくんで動けなかった訳じゃない。確かにあの時はとても怖かった。だけれど、それ以上に……

「私は藤先輩に……大好きな人に裏切られたのがショックだったんだ」

 その言葉を口にした時、玲奈の瞳から涙が溢れた。


 玲奈の懇願を無視する大介の眼は酷く冷たくて、同じ署で一緒に働いていた時とは別人のようだった。その変貌ぶりは、まるで何かに取り憑かれたかのようで……。

 そこまで考えた玲奈は1つのアイデアを思いつく。

「そうだ! 私が藤先輩に何があったのかを調べて、元の先輩に戻せばいいんだ! そうすればきっと昔よりも距離が縮まってそのまま……!」

 先ほどまでの暗い感情は吹き飛び、玲奈は自分の完璧なアイデアに驚きながら決意を固める。ガッツポーズをしていた玲奈はそこでようやく、いつのまにか目覚めていた優二が少し呆れた顔で自分を見ている事に気がついた。


ーーーーーーーーーーーーーー


 誰かのしゃべる声で目が覚めた優二は寝転んだまま軽く周囲を見渡し、その声の主である雪白玲奈を見つける。海翔も近くに倒れているが、静かな寝息をたてており特に問題は無さそうだ。

「…………! そうすればきっと昔よりも距離が縮まってそのまま……!」

 ふふふふ……。という笑い声と共に玲奈の欲望丸出しな独り言が聞こえ、その内容に優二は呆れ返る。

 玲奈は優二の後輩にあたる女性警官だが、そんな彼女と一緒に仕事をして約2年、1つわかった事があった。

 それは“雪白玲奈は馬鹿である”ということ。

 いや、正確には馬鹿というよりとても素直なのだろう。思ったことはすぐ口に出すし、しかもその内容がとてもポジティブなものだから一緒にいると笑いが絶えない。

 今だって、優二1人ならきっと思い詰めてパニックになっていただろうが、玲奈の独り言のお陰でとても落ち着いて考えられている。


 そんな事を考えていると、優二が目覚めている事に気づいた玲奈が慌てて挨拶をする。

「みっ宮本先輩いつから聞いてたんすか!?起きてるなら言ってくださいよぉ!」

「あはは、ごめんごめん」

 玲奈は普段丁寧な口調だが焦ると少し口調が砕け、創作に出てくる下っ端ヤンキーみたいな口調になるのがまた面白い。

 そんなこんなで笑いながら起き上がる優二は、そこで改めて周りを見渡した。


 基本は見渡す限りの青空と草原だがよく見ると少し先に集落のようなものがあり、そしてそのさらに奥には城のような建造物も見える。しかし、それよりも今注意せねばならないのは……。

「あれなんだろう。鹿みたいな動物を、変な大きい生き物が襲ってる……のか?」

「え!? あ! ほんとだ! エグいっすねぇ……」

 優二と玲奈の視線の先には3メートルほどの高さはあるだろう巨大な生き物が、鹿らしき動物を襲い捕食しているのが見える。見るからに肉食で尚且つ獰猛。もしあれがこっちに来たらかなり危険だ。

 (普通に考えれば海翔を引きずって早く逃げるべきだけど……)

 この時、普段からライトノベルやアニメなどのオタク文化に触れている優二の脳内は、既に現実離れしたこの光景への興味が恐怖を上回り始めていた。


 あんな生き物を日本では見た事がない。いや、おそらく世界中どこを探しても見つからないだろう。少なくとも“元の世界”では。

(大介との会話、彼らの使った魔法のような力、そして異形の怪物。僕たちもしかして本当に異世界に来ちゃったの……!?)

 興奮で徐々に冷静さを失っていた優二の意識は、たまたま荷馬車で近くを通った行商人らしき男性に声をかけられる事で現実に引き戻される。

「おい兄ちゃんたち、そんなとこで何やってんだ!? あそこの異岩蟹〈ロッククラブ〉に見つかる前に早くこいつに乗りな!」

 そこでようやく“逃げる”という選択肢を思い出した優二は、少し後ろ髪を引かれながらもその言葉に甘える事にした。あのロッククラブとかいう生き物はまだこちらに気づいていない。今ならば海翔も一緒に逃げられるだろう。


「ありがとうございます! 助かります!」

「おじさんありがと〜! マジで助かるっす!」

 優二と玲奈が男性に感謝を伝え、眠ったままの海翔を荷台に乗せたその時。

「きゃあっ!」

 足元にいた大型の蟲に驚いた玲奈が大きな悲鳴を上げ、ドタドタと荷台に乗り込む。それは、鹿を食い尽くし新たな獲物を探すロッククラブの関心を引くのには十分な騒ぎだった。

「まずい! 兄ちゃん、早く乗り込め! 出すぞ!!」

 こちらに向かってくる大きな影が見えた優二は急いで荷馬車に乗り込む。みるみるその姿が大きくなると、先ほどまでは分からなかったロッククラブの細部がよく見えるようになった。


 その姿は端的に言うと、岩の様にゴツゴツとした分厚い甲羅を纏う蟹である。接近するほどに増してゆく地面の揺れはその体重の重さを表しており、ぶつかればひとたまりもないであろう事を伝えてくる。

 そして何より目を引くのは1メートルはあろうかという長さの鋏だ。その鋏には何かを切り裂くような鋭利さは無いものの、人間程度ならば挟んで押し潰すことは容易だろう。間違ってもそんな死に方はしたくない。

 しかし走り出した荷馬車は思っていたよりも早く、それに多少の精神的余裕を感じた優二は再びこの世界についての思考の海に潜ってしまう。そのため優二は玲奈の怒号にも、目を覚ました海翔の姿にも気がつくことはなかった。


 優二はもう完全に、自分たちが異世界に来たのだと考えていた。突然見た目が若返るのも、黒ローブたちの手から爆炎が生まれるのも、ましてやあんな巨大な蟹がいるのも、全て元の世界の物理法則ではありえない。どんな世界かはまだ分からないが少なくともここは、今までの常識が通じないであろうことは間違いないだろう。

 で、あるならば自分たちには何か特別な力が授けられているのではないだろうか。ここにくる前、大介が“アーツ”と呼んでいたあの力。今まで読んだラノベだと、無条件に与えられたチート能力で冒険するのが定番だったから、どうしてもそういったものに期待してしまう。

(もしかしたら腕を伸ばして“ファイヤボール!”とか叫んだらあのロッククラブくらい倒せるんじゃ!?)

 自分が英雄になる事を妄想でドキドキが止まらない。

 つり上がる口角を必死に下げながら優二が背後を振り返ると視界に入ったのは、既に真後ろまで接近していたロッククラブ。そして右腕を失い、上半身を貫かれた海翔の姿だった。

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