第0話:異世界
ガタガタという騒がしい音と連続する衝撃が無理矢理意識を覚醒させようとする。謎の騒音と激しい振動。眩しい光。そして誰かの怒鳴り声。
こんなに騒々しい目覚めはいつぶりだろうか。もしかしたら警察学校での訓練に匹敵するかもしれない。
未だ寝ぼけた頭でそんな事を考える男ーー大神海翔はここでようやく一つの疑問を浮かべる。
(ここ、どこだ…?)
その瞬間、周囲の状況が一気に頭に流れ込んでくる。
目の前に広がるのは一面の青空と平原。そして海翔の乗る馬車を追う巨大な…蟹!?
(なんだあれ!?何が起こってる!?意味がわからん!!ていうか何で蟹が草原走ってんだ!?)
海翔は混乱した頭で思考を巡らせるが考えは纏まらず、その間にも巨大な蟹は異様な速度で接近してくる。このペースだとあと数十秒で追いつかれる事だろう。
あまりに現実離れした光景し咄嗟にあたりを見渡すと、先程の怒鳴り声の主が見つかる。
「やばいやばいやばい。これってもしかして、僕たち本当に異世界に来たの!? ってことはもしかして…」
「おじさん!この馬車もっと早く走れないの!?このままじゃやばいって! ってか宮本先輩ブツブツうるさいっ!」
「これ以上早くするのは無理だ! それよりお嬢ちゃん口閉じてろ。舌噛むぞ!」
同じ署に勤める後輩警官である雪白玲奈が荷馬車の運転手を急かしながら、海翔の同期である宮本優二を怒鳴りつける。だが当の優二は酷く興奮しており、玲奈が怒っている事には一切気づいていないようだった。
「これはどういう状況だ!? 一体何が起こっ…た……?」
海翔が二人に尋ねようとしたその時、すぐ背後に迫っていた巨大な蟹の鋏が右腕ごと海翔の上半身を貫き、抉り取る。吹き飛んだ右腕は数メートル先に ぼとり、落ちた。とそれを認識した瞬間、海翔に激しい痛みが襲いかかる。
「…っ!?」
あまりの苦痛に叫び声をあげようとするが、抉られた肺は既に空気を送ることすら出来ずただゴボゴボという血液の音が聞こえるだけで、逆流する血液を吐き出すことすら出来なかった。
「え…? 海翔!? 海翔!! ねえ!!」
「大神先輩! そんな…。せっかくあの地獄を生き残ったのに、こんな事って…」
海翔の状況に気づき必死に叫ぶ叫ぶ二人の姿が徐々に霞み、叫び声は遠く聞こえる。
(俺は…こんなところで死ぬのか。誰も救えず、大介を…止めることすら出来ずに)
海翔は走馬灯の中で、子供の頃憧れたヒーローを思い出す。もし、全ての人々を救うあのヒーローだったらこんなところで倒れはしないだろう。
(俺に、ヒーローの力があれば…)
やがて心臓が完全に止まると、異形の蟹は次のターゲットに狙いをつける。
その後 海翔の死体に突き刺したままの巨大な鋏を引き抜こうとした怪物は そこでようやく異変に気づく。
既に息絶えたはずの男が両腕で巨大な鋏を掴み、凄まじい力でその動きを止めていた。
体が貫かれたままだという事すら気にせず、海翔は魂の限り吠える。
「俺は絶対に仲間を守る。例えこの身を犠牲にしてでも、今度こそ守り抜いてみせる。蟹ごときが、ヒーローを殺せると思うな!」
この日、大神海翔は異世界でヒーローとなった。その代償が何であるのかも知らぬまま…。
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はじめまして。絵空言と申します。普段はイラストを描いていますが、今回初めて執筆に挑戦させていただきました。
読みにくい点など多々あると思いますが、どうかお付き合いいただけると幸いです。




