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【私の前足を嗅がないで頂けます?変態ですか??】

「ごめんなさい。余りにも触り心地がよくて」

【相手が私で良かったですね。本来ならば獣相手に襲われても致し方ありませんよ】

「アリスが私を襲うなんて有り得ないわ!!」


 反論して頂けるのは有難いが、王女として慎み持って欲しいものだ。

 じとっとした私の視線に彼女は咳払いをする。


「これからアリスはどうするの?」

【取り敢えずは【色付き】の返還でしょうか。呪いがいつ解けるか分からない以上、お役目を果たすことは出来かねますし】

「そんな……」


 淡々とした私の説明に姫様の方が泣きそうな顔になる。


【例え肩書きが無くなろうとも、今まで過ごした日々は無くなりません。遠くの地より姫様の幸せをお祈りさせて頂く所存にございます】

「そんなの、嫌よ!!」


 せめて病気だ呪いだ近寄らせてはならないと見知らぬ貴族から言われて疎遠になる前にと、私は別れの言葉で畳み掛ける。

 孤児という身分だった私からすれば烏滸がましいが、姫様は妹のような存在だから。

 話せるときに話してしまいたかった。

 すると、子供のようにわぁっと姫様は泣き出してしまった。


「馬鹿弟子。姫様を泣かすでないわ」

【しかしお師匠様。1人の為にいつまでもその席を空けておく訳にもいかないでしょう】

「だからというて言い方があるだろうに」


 呆れてものも言えんわとお師匠様がため息をこぼす。

 昔からよく私は姫様を泣かしていた。

 淡々と事実を述べているだけなので非難される謂れはないのだが、王族に対してなんたる不敬と怒る貴族もそこそこにいる。

 もっとも、気安い友人兼相談役としても幼い頃からそばにいるので見逃してもらうことの方が多い。

 見知ったものからしたらまたかという感じなのかもしれない。


「ねぇ。アリスは大丈夫なの?」


 ぐずっと鼻を鳴らした姫様にハンカチを差し出そうとしてーー泣いた後の姫様にハンカチを差し出すのはいつも私の役割だったーー猫の手ではハンカチすら持てないと自分の前足を見つめる。

 こればかりは猫になって後悔する事かもしれない。

 察した侍女が姫様にハンカチを渡していた。

 そんな中でも私を置いていって姫様とお師匠様で話は進む。


「魔核に呪いを受けたようでして、解呪は今のところ難しいかと。魔法の行使に問題はないものの、獣の姿に御座いますれば」

「魔法の行使に問題ないなら良いじゃない!」


 イヤイヤと彼女は首を振る。


【姫様……】

「アリス。遠くに行ってしまうなんて嫌よ。お願い。そばにいて欲しいの」


 私の前足を掴んで懇願する姫様。

 幼馴染という欲目も無しに姫様は世界で一番愛らしい方だと思う。

 元孤児である私にも隔てなく接して。

 侍女も下女も関係なく優しくて。

 騎士たちの評判も良くて。

 家族からも愛されている。

 私の、自慢の姫様。


【で。私の前足を嗅がないで頂けます? 変態ですか??】


 自慢の……姫様?

 ちょっと揺らいでしまいそうだが。

 前脚を嗅いで尚且つ肉球を堪能しているがそれでも姫様は、私の、じま……自慢ですよ?


 うちの姫様は全く私をシリアスにさせない天才ですね。


「なら、格は下がるが専属魔法使いとして私に仕えないか」


 部屋の扉から聞こえてきた声の主は、これまたよく見知った人物だった。

 姫様と同じ色彩の髪と瞳は正しく血族だと分かるもの。

 けれど、姫様を月の姫と呼ぶほどにか弱く美しいと評判なら、彼は月の王子と呼ぶにふさわしいだろう。

 姫様と並んだ肖像画は飛ぶように売れているそうな。

 我が国の王太子殿下は、侍従に止められながらも扉にもたれて中の様子を伺っていた。


「淑女の寝室に無断で入るものではないが、我が妹が泣いていたみたいでな。部屋に入っても?」

【もう入ってるじゃないですか。どうぞ】


 許可を取ろうが取るまいが入ってくる癖に。

 幼馴染その2なので遠慮というものがまるでない。

 声をかけて入ったのは他の人もいるからだろう。

 これが数年前なら下の階に住んでいる【翠】の弟子を脅して早朝に窓から忍び込んでくるに違いない。

 そして、稽古だなんどと叩き起こされるのである。


「お兄様……」


 先程まで泣いていたとは思えないほど低い声音が部屋に響く。

 外向きの姫様しか知らない王太子殿下についている新人近衞騎士なんて目を白黒させていた。


「何故、お兄様の専属なのです?」


 地響きの様に低い姫様の声音の後ろで兄妹喧嘩の始まりであるゴングが聞こえたなんて。

 そんなこと、あるのかもしれません。


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