【猫である以外異常なし!】
魔核。
それは魔力の心臓とも呼べるもの。
魔法が使えるようになった者の体のどこかに出来る魔力の源である。
それは死んでも残るもので、生命体から剥がされた魔核は魔石とも呼ばれている。
つまり。死なないと剥がせないもの。
治療がしにくいものということだ。
「それは……」
【なるほど、持っていた魔石に刻んだ魔法陣で自分の命を代償に移したんですね。普通は拒絶反応が凄いはずですが余程魔力の高い者だったのでしょうか。それとも魔法が私に相性が良すぎたか……】
こういう呪いは種類も多く、相性というものがある。
相性が悪ければそもそも拒絶反応が出て下手をすれば廃人の可能性だってあった。
襲撃犯はむしろそれが狙いだったのかもしれない。
体はむしろ快調なほどで。
それから代わる代わる私やお師匠様と同じ【色付き】の魔法使いや王宮医師が来て診察された。
結果。
【猫である以外異常なし!】
「なぜ得意げなんだお前は」
ふんふんと鼻を鳴らして尻尾を揺らす私にお師匠様は呆れ返る。
【しかし元人間とはいえ今は猫。称号は返還が妥当でしょうか】
「魔法行使にも問題はないが、人が禁呪で猫になった例は無いからな」
【お師匠様! 今の私ってもしや伝説のケット・シーでは!?】
「ええい。すぐに脱線する癖を治せを言っておろうが」
ケット・シーとは妖精と猫の間に生まれた子供で、猫の姿でありながら魔法を巧みに操り、そして人の言葉を話すと言う。
元々魔法というのは妖精や精霊から教えられて発達したものだ。
人間という器では貯まる魔力量に限りがある為、妖精はともかく精霊が扱う魔法は人間には扱えない。それほど威力がある。
そこへ、誰かが部屋をノックした。
お師匠様が確認すると、息を呑む音が聞こえた気がした。
「陛下、王女殿下……!」
「すまないな。急に押し掛けて」
「アリスが目が覚めたって本当!?」
相手はどうやら陛下と姫様だったようだ。
王宮魔法使いとして一室が与えられているとはいえ、臣下の寝室だ。
【色付き】は王宮に基本応接室と寝室構成の部屋を与えられているのだが私は寝室のみを希望したので、入るに入れないのだろう。
お師匠様の顔はだからきちんとした部屋を貰っておけばよかったのにと書かれていたが、スペースがあると物を増やしてしまう人間なので勘弁して頂きたい。
そもそも生涯こんなことになるとは思っていなかったのである。
「恐れながら【紅】は本人の希望で寝室のみを賜っております。また詳しい話はこちらから伺わせて頂きますのでーー」
「同じ女性だもの。私は良いわよね!?」
そう言って姫様は半ば強引に部屋に押し入ってきた。
「アリス!!」
愛称で私を呼んでくださる姫様。
目尻に涙を浮かべて寝台の上の私に駆け寄る。
「私の、せいで。なんて姿に」
膝を折って寝台の上にいる私を抱き寄せながら、姫様は声を振るわせた。
姫様に爪を立てるわけにはいかず、私もされるがままだ。
【姫様。泣かないでください】
私の背中に顔を埋める姫様に私は念話を繋いだ。
姫様は私が王宮でお師匠様の弟子として生活するようになってからというもの、身分としては失礼ながら姉妹のように育った。
私がこのような姿になったのは彼女を庇った為だ。
姫様としてもお辛いに……。
「……」
【姫様?】
姫様のご心労はいかばかりかと考えていると、ふいに姫様から反応がないことに気付いた。
それどころかさりげなく手が怪しい動きをしている。
なんだろう。
吸われているような。
【姫様。私で動物介在療法はお辞めください】
「ふへ!?」
バッと顔を上げた姫様は幸せそうで。
思わずジト目になったのは許してほしい。