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呪われた日

 この大陸は4つの気候に分かれており、気候に沿って国が4つに分かれている。

 その中でも常春の国。エアル。

 今日は目覚めの日と呼ばれるエアル国の建国祭だ。

 建国祭の時期は1年の中でも特に寒い時期ではあるものの、厚着をするほど寒いというわけではない。

 薄手のカーディガンを着るくらいでちょうどいい。

 そんな季節。


「今日は目覚めの日に相応しい晴天に恵まれ──」


 王宮のバルコニーでエアル国王陛下の演説が始まった。

 1年の中で唯一王宮の広場が一般開放される日であるこの日には、陛下の演説をもって建国祭が始まる。

 長い長い演説を行っている陛下の後ろでは、公爵家から嫁がれた王妃殿下を挟んで王太子殿下と王女殿下が用意された王族用の椅子に座っていた。

 その後ろでは【色】を拝命した王宮魔法使い達が並んで立っている。


【ねぇ、アリス。アリスったら】


 王宮魔法使いの一人の脳内に語りかけてくる可憐な声があった。

 念話と呼ばれる初歩的な魔法である。


【如何致しましたか、姫様】

【お父様の話って長くてつまらないじゃない。暇潰しに付き合って】

【またそのようなことを……】


 今は演説中である。

 語りかけてくる人物も自身も表情一つ動かすことはない。


【だって毎年毎年こんなに長い話をする必要ないと思わない? お兄様が国王陛下となった暁には変えてもらわなきゃ】

【国民が陛下のお声を唯一聞ける機会と言っても過言ではありません。そのような……】

【あ~はいはい。もうっ、最近のリリィったらお兄様みたい】


 アウローラ・エアル。

 それが語りかけてくる可憐な声の主の名前。

 エアル国第一王女であらせられる姫様はちらりと念話相手を盗み見て微笑む。

 陽の光を浴びて輝く金髪はウェーブを描いている。

 悪戯っ子そのものである純粋な空色の瞳は、猫のように細められていた。

 肌は雪のように白く、見た目だけは極上の姫様。

 その実は悪戯が大好きな純真無垢な少女。

 御年花盛りである16歳だ。王家の姫ともあって箱入りなのだから仕方ないとも言える。

 加えてこの大陸が4つの国にまとまってからというもの、戦争という概念は無いに等しい。

 魔物の発生や貴族の反乱ということはあれど、国同士が手を取り合って回避してきた。

 このままの姫様であってほしいと願いのは一人だけではない。


「こほん」

【では、姫様。また後ほど】


 魔法というものは可視化もできる。

 魔力には流れというものが存在し、念話には糸のようなものが伸びるのだ。

 魔法の可視化が当たり前のようにできる王宮魔法使いともなれば、二人が念話をしているのもわかるだろう。

 一方的に念話を切って素知らぬ顔をしたものの、筆頭王宮魔法使いにはこっそりと睨まれた。

 姫様からの念話であったのに理不尽とは思うが仕方ない。

 後で叱責は甘んじて受け入れようと私は考える。

 アマリリス・スティ。

 それが姫様が念話をしていた相手である私の名前。

 赤よりも濃い紅色の髪を結い上げ、王宮魔法使いであることを示す黒地に銀のローブを着ている。

 金色の瞳はまるで猫のようと姫様に評されたこともあった。

 王宮魔法使いであり【紅】の名を拝する魔女、ちなみに彼氏なし。

 今年の建国祭も何事もなく終わると思っていた。

 誰もかれもが。

 姫様と念話をしていた私だからこそわかった違和感。

 姫様に向かって伸びる一筋の細い魔力の痕跡。

 それは念話ではないことを理解して、私は走り出した。


「──チッ」

「なにを!?」


 魔法でなんとかしようとしたが、間に合わないと判断する。

 ガタリと姫様と私の間に入ろうとした騎士を押しのけて、私は魔法と姫様の間に割り込む。

 発動寸前の魔法を止めるには、同時に詠唱を行うか。

 それとも魔法の延長線上に割り込むか。

 詠唱が間に合うはずもなく、私にできることは姫様の壁になることだけ。

 その瞬間、脳内が揺さぶられる感覚が私を襲った。


「アリス!!」


 姫様が驚きに瞳を大きく開いて絶叫する。

 そして、私の意識は暗転した。

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