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囚われ

 

 まだ夢の中なのか、それとも自分は死んだのか?


 フィエルンは身を起こしたが、真っ暗な只中にいて自分がどうなっているのか分からなかった。

 試しに意識を自らの手に向けると、ふわりと光が生まれて身体を包んだ。


 それを頼りに自分を見ると、薄い寝間着はあちこち汚れて、裾は破れやほつれでボロボロ。おまけに裸足という酷い格好だった。


 だが傷らしい傷はなく、何より生きている。

 魔王に突かれるようにされた額を撫でるが、掠り傷もない。


 殺されると思ったのに。


 立ち上がると、足元から全方面に光を流してみる。

 とても広い空間らしい。光はかなり遠くまで行き渡り、天井も王宮のホールよりも高い。

 つるつるした床を歩いてみると、ペタペタと足音だけが聴こえた。風の抜ける音も外の音もない。


 私をすぐに殺さず、どうする気なのだろう。恐ろしい想像ばかりがよぎる。これが牢獄なのは分かりきっている。


 そこでようやく気付いた。視界も音も遮断された部屋だが、誰かがフィエルンを見ている気配。


「……………いるのね?」


 足を止めて探ると、彼女のすぐ後ろに誰かが立った。両手に光を集めたフィエルンは、振り向き様にそれを続けて放った。


「魔王」


  魔王の頬から赤い血が流れる。人ではないが肉体を持つ証だ。

 油断してはいけないと決めていたのに隙を見せたのは、相手の思考が読めず調子が狂うせいだ。

 忘れてはならない。国をいとも簡単に滅ぼす者が正義や倫理、まして情なんて持ち合わせてない。

 自分を生かしているのも、ゆっくりと遊び殺す為かもしれない。


「ジグレットを、私の国をあなたは滅ぼそうとした。絶対に許さない」


 ピクリと彼が瞳を揺らしたように見えた。


「許さない?」


 口を開いたと思ったら、真っ直ぐにフィエルンへと近づいて来た。恐怖よりも彼から伝わる怒りのようなものに気圧される。

 後退しつつ光を繰り出せば、魔王は片手でそれを弾いた。


「許さない、お前が?」

「何?」

「俺が、許さない」


 縮まる距離に、急いで腕を弓を射るように構える。指を開いた途端に無数の光の矢が一斉に降り注ぐ。目だけを動かした魔王が全身に黒い膜を作り阻んだ。


「許さない…………なぜ……許せない」



『許さない』という言葉に反応しているのか、なぜ急に声に怒りが混じるのか、フィエルンにはさっぱりだ。ただ夢の中でも同じ事を言っていた彼に、気分がざわざわとする。


「分からない、何を言っているの、あ!」


 トン、と見えない壁に背がぶつかった。こんなに近くに無かったはずなのに、壁が作られたということか。


 魔王の手がフィエルンへ差し出される。


「やめて!」


 焦って目の前で光を炸裂させれば、衝撃を受けた彼の肘から先が無くなった。


「あ…………」


 額から垂れた血が、魔王の目に滴っているにも関わらず閉じもしない。すぐに再生された腕は、尻餅をついた彼女に怯むことなく伸ばされた。


「やめ、来ないで」


 倒さないといけないのに、いざ怪我を負わせたら動揺している自分が情けない。

 逃げ場を失い、顔を背けるしかなくなったフィエルンは目をギュッと瞑った。


「………………お前、俺に近付こうとしたのだな」


 静寂の後、魔王がぽつりと溢した。フィエルンは、髪を触られていることに気付き、目を開けた。


「え?」


 彼の指が横髪を一房軽く持ち上げて、指先で撫でる。


 腰を落とし、じっと髪を眺めていた魔王がフィエルンの瞳を覗く。


「そうか、テネシア」


 瞳に魔王を映し、彼の黒蒼の髪を見て言葉が出なくなった。そこで自分の銀の髪が日光の当たらない所では黒に見えることに思い至ったからだ。


 有り得ない。聖女の色彩を帯びなかったことで、どれだけ肩身の狭い思いをしたきたことか。


 まさかその理由が、よりにもよって魔王の色彩に近付く為?


「そんな……………どうして」


 自らの髪に思わず手をやれば、彼に手首を掴まれた。














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