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聖女ではなくても

 この世の救世主、至高の存在、唯一の光。


 誰もがそうだったように、小さい頃のエスタールも聖女のことを普通の人間ではないと思っていた。足元にも及ばない光の神の御使いに、崇拝と憧れと畏怖を抱いていた。


 だからこそ他国で聖女を発見し、このイグニッド王家で保護すると聞いた時の驚きと興奮は例えようがなかった。


 だが国王直々に出迎えた少女は、エスタールの目にはとても小さく見えた。自分の置かれた状況がよく分かってなかったようで、両親から引き離されて泣きそうなのを懸命に堪えている表情をしていた。


 その潤んだ空色の瞳を見てしまったら、彼女を聖女として扱うなどエスタールにはできなかった。


 黒かと思った髪は、日光の中で鮮やかな銀に輝いていた。花園の片隅で蹲る少女の背を流れる銀糸に、ついエスタールは見惚れた。

 だが少女が目を拭っているのに気付いて、慌てて前に回りこんた。


「フィエルン?」

「あ…………エスタールさま」

「さまは、いらないよ……………泣いているの?」


 驚いて顔を上げた少女は、涙に濡れた瞼を急いで擦った。髪と同色の睫毛は長く、小さいが形の良い鼻筋や桜色のふるりとした唇。フィエルンは派手さはないが充分に綺麗だった。


「私は聖女様みたいに金色を持ってないから…………だから………」


 また兄だろうか、それとも他の者か?

 まだ子供だからと、面と向かって謗る輩がいる。曰く『本当に聖女なのか?』と。


 物静かな少女は肯定も否定もできず、ただ心を痛めた。

 どうしてこんなにも綺麗で優しい子を傷つけられるのか。


「フィエルン、泣かないで」


 啜り泣く小さな肩をギュッと抱きしめる。


「エスタール」

「私は君の味方だよ。私は君が聖女ではなくても構わないんだ。だから気にしなくていいんだよ」


 フィエルンを守ろう。大人になって強くなって認められて、常に傍にいて彼女を全ての悪意から守ろう。


「私はフィエルンがフィエルンならいいんだ」


 このまま魔王なんて現れなくて、彼女が聖女の力を使うことなんてなくて、ずっと一緒に、平凡でいいから穏やかに時が過ぎていったら……………そう淡く願っていた。



「フィエルン!!」


 無情な朝は瓦礫の散乱する煤けた町を明らかにした。その地を、エスタールはあてどもなく走っていた。


「どこだ?どこにいる?返事をしてくれ!」


 眠りにつく寸前、金の光を纏ったフィエルンをエスタールは確かに見た。

 神気を帯びた彼女は雰囲気までも変わり、鮮烈な美しさと強さがエスタールの脳裏に焼き付いた。


 そして分かってしまった。フィエルンは自分の手からすり抜けていく存在になったのだと。


「返事を……………フィエルン」


 信じない。魔王に連れ去られたなど信じたくない。


 がくりと膝を付くと、黒い灰が舞った。


 もし…………もしも聖女が命を脅かされて終えても、また生まれ変わる。だが次の聖女がフィエルン自身であるはずはない。

 ただの人であるエスタールなど転生しても再び巡り会えることさえ難しい。


 ならばどうして諦められる?


 エスタールは自らの額に手を強く押し当てた。


「捜すから、絶対に見つけるから、どうか無事で」


 光の神の加護を、エスタールはこの時初めて祈った。



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