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対峙

 胸の前で手を組み俯いたフィエルンが、ゆっくりとその両手を前方に見える燃え盛る町へとかざした。


 黄金のカーテンのような光が城塞の外を覆い、みるみる焔の光が、真の光に上書きされていく。

 近くから地平の彼方の自国の端まで流れていった光は、しばらく残って蝋燭の灯りが尽きたように、やがて消えた。後には残骸が空虚に佇むだけ。


 いつものフィエルンなら、それを見て絶望し悲しんだはずだ。でも今は違う。

 

 ただ悔しかった。もっと早く力に目覚めていたら、こんなことにはならなかった。

 きっかけをもたらした男を見据える。


 止めなければ。

 破壊や死を世界にばらまくのは難しいことではない。だが再生や死者を甦らせることはこの世の秩序、理に反することだから聖女の力でも不可能なのだ。

 だからこそ、根元を絶たねば。


 自分の意志でありながら、それに同調する何かが彼女を奮い立たせる。


 ふわりと事も無げに降り立ったフィエルンは、着地で屈んだ状態のまま片手を素早く伸ばした。観察でもしているかのようだった魔王の顔面めがけて聖女の力を放った。

 影が移動するように軽やかに避けられ、立ち上がった彼女は更に攻撃しようと狙いを定めた。


 その手首を、魔王が捕まえた。視認できない速さだった。


「く…………」


 そのまま引かれ、フィエルンはその顔を間近で見ることになった。


 黒い睫毛に彩られた銀に、彼女の姿が映っている。何を考えているのか分からない。

 神の一部である魔王に、人間らしい感情や思考があるはずがない。自分の物差しでこの者を計ってはダメだ。例え、その表情を淋しそうだと感じてもだ。


 隙を見せてはいけない。その瞬間に私は死ぬ。


 意識を自らの掴まれた腕に向け、そこを黄金の光で包んだ。

 ジュッと焦げた音と共に魔王の手が緩んだ。フィエルンが手を振り払い、急いで後退する。次の攻撃に打って出ようとした彼女だったが、視界に捉えたものに動きを止めた。


 光の神の恩恵を受けた力で、魔王の彼女を掴んでいた指先から二の腕までは激しく焼け爛れていた。

 その腕を軽く上げて眺めた魔王は、いきなり紅色の舌で自らの傷を舐めたのだ。


「っ…………」


 治す為じゃない、眺めている間に既に治りつつあったのを見ている。逆なのか?まるで治るのを惜しむように…………


 なぜか頬に熱が集まるのを感じて、フィエルンは目を逸らした。

 私は何か大事なことを忘れている。


 腕を下ろし、魔王が一歩踏み出した。ハッとした時には、地を伝い闇の光が迫っていた。咄嗟に同じように真逆の光で受け止めて防ぐと、両手の指で聖女の力を幾つも繰り出し撃った。


 どのくらい経っただろうか。

 無我夢中で戦っていたフィエルンは、おかしなことに気付いた。


 いつしか魔王との戦いを楽しんでいる自分がいるのだ。ただ純粋に。

 相手を止め、あわよくば消滅させる意志は薄れ、自分の力を魔王がどう返すか、防ぐか、次はどんな反応をするのかが気になった。


 魔王は魔王でフィエルンに率先して攻撃してこない。してきたとしても、彼女が難なくやり過ごせるものだ。


 本気を出していない?遊ばれているのか?

 いや、彼もまた楽しんでいる?


 そこまで考えたフィエルンは、手の平に浮かぶ光を消した。

 すると魔王もピタリと動きを止めた。


「あなたは……………一体何を考えて?」


 なぜ気を緩めてしまったのだろう。フィエルンは直ぐに後悔することになった。


 魔王の指が、彼女の額に触れた。


「あ……………」


 ふらりと脱力した彼女の腰に、あろうことか魔王の腕が回り同時に足を掬われた。


 まさか抱き上げられた?


 瞼が重くて確かめることも儘ならない。


 只、この浮遊感に身を任せるしかフィエルンには為す術は無かった。



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