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邂逅

 自室の寝台の上でフィエルンは膝を抱えて座り込んでいた。夜も更けていたが緊張で眠れるわけがない。


 明朝、フィエルンは一軍と共に北へ出発する。エスタールも一緒だ。一人ではないことは心強かったが、不安が大きい。


 しばらく両手の平を眺めていたが、諦めて自分の膝に頭をつけた。


 私は皆を守れるだろうか?


 自分が死ぬことよりも、誰も守れないかもしれないことが不安でしかたがないのだ。

 リシャリーニは私のことを案じて泣いていた。優しいあの子やエスタールが苦しむ姿など見たくない。


 テネシアもこんな気持ちだったのだろうか。勿論聖女の力を充分に扱えた彼女は私とは違う。でも、彼女も人間だった。人並みの感情を持っていたはずだ。


 力を貸して欲しい。

 自分に残るテネシアの欠片に祈りを捧げずにはいられない。


 両指を交互に重ね額に押し付けた時、扉がノックされた。


「フィエルン、私だ」

「っ、エスタール」


 彼女はすぐに開けると、自分から彼の胸に飛び込んだ。


「すまない、私が力及ばず君を危険な場所へ行かせてしまう。本当にすまない」

「私怖いの、皆を守りたいのに」


 彼の服を握るフィエルンをエスタールは安心させるように抱きしめてくれた。


「君を守るから…………魔王など私が倒してみせるさ」

「エスタール…………」

「私は強いんだ。必ず勝って帰還して君と式を挙げる」


 三国を一夜にして滅ぼした存在など人間が太刀打ちできるはずがない。彼も分かっているのに、それでもフィエルンの為を思い言ってくれる。


 ああ、エスタールは私をこんなにも大事に思ってくれている。今のフィエルンにはそれが尚更辛い。私の為に死んでほしくないから。


 ふいに何かが聴こえた気がして、彼女は身を離すと耳を澄ませた。


「フィエルン?」

「来た」


 直後轟音が響き、建物が上下に激しく揺れて調度品が落下した。立っていられず床に両手を付いたフィエルンは血が沸き立つような感覚に襲われて戸惑っていた。


「一体何が…………」


 彼女の肩を支えていたエスタールが息を止める気配をみせた。無意識か、腰に携えた聖剣を掴んでいる。


「フィエルン、動けるか?ここは危ない、安全な場所まで移動しよう」

「ええ」


 部屋の軋んだ扉をエスタールが蹴破り、揺れの続く建物内を手を引かれてフィエルンはなんとか走った。

 倒壊した柱を越えると、女官達に守られるようにして避難するリシャリーニがいた。


「お兄様!お姉様!」

「良かった、無事か?」


 王女は泣きそうだったが、どこも怪我はないようでホッとしたフィエルンは横にあるテラスへと目をやった。そこからなら城下の町が見渡せる。


「フィエルン?」


 崩れかけた手すりの間から、昼のように明るい町が見えた。それは彼方まで続いて煌々と夜を侵していた。


「あ…………そんな」


 リシャリーニが悲鳴を上げて泣き出した。


 滅びの焔が国を覆っていた。

 陽光にも似たそれが静かに全てを無に還す美しく残酷な光景に、王女の泣きじゃくる声だけが重なる。


 金色の焔は、王宮の辺りに近い所では次第に暗色を帯びていて、更に城塞の下では黒なのだと解った。


 城塞の上に誰かがいる。その足元から焔が広がっているようだった。視線に気付いたのか、その者がゆっくりとこちらを向いた。


 遠くて見えないはずなのに、その者はフィエルンを見て笑みを浮かべたようだった。


「あ…………」


 フィエルンは逃れるように、手すりの陰に膝を付いた。ポロポロと涙が零れ、自分でもなぜ泣いているのか分からない。


 恐怖ではなく、怒りでもない。


 ただ、また逢えたのだと感じた。













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