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魔王と聖女の永遠なる消滅

「逃げないのだな」

「誓わせておいてそれは無いでしょう。最後まで一緒にいるわ」


 首を垂れて動かないシュヴァイツの前に腰を下ろすとそんなことを言われた。

 フィエルンは、その腕を支えるように手を添えた。酷く体温を冷たく感じる。

 体内は軋み苦痛を覚えているはずなのに、彼は落ち着いて囁くように話す。


「あの言葉だけもらえたら十分だった」


 泣きそうになるのを堪えたが、声が上擦るのは抑えられなかった。


「嘘ね」


 ふっ、と笑った彼が顔を上げた。

 黒い瞳が虚空を眺めると、ふいに空気が変わるのを感じた。


 僅かな間、時が止まったような感覚がした。フィエルンが辺りを見回すと、大地も空も何も無い白い世界が広がっている。一切の風の音も砂の匂いもしない。


 彼女がシュヴァイツを振り返った時には、世界は元に戻っていた。


「.....お前の望みは叶うだろう」

「シュヴァイツ」


 神の力を利用し、彼が何かをしたのだと気が付いた。


「魔王と聖女の業は、この世に生まれた全ての者に均等に背負わす。次にお前が生まれる時はただの人になっているだろう」

「あなたは?」


 今まで苦労したことが嘘のような呆気ないほどの世界の改変を、フィエルンは簡単には喜べない。


「私はあなたと一緒じゃなければ嫌よ」


 両の頬に手をやり上向かすとシュヴァイツは驚いたようだった。目を見開き彼女を見つめていたが、直ぐに目を伏せてしまった。


「神の力を奪ったのだ。俺はもう····」

「いいえ、どんな形にせよ試練は越えた。だからきっと一緒よ·····きっと」


 フィエルンのことだけを優先してばかりだ。役目として犯した行いは許されないが、彼のそんな一面を知っているからどうしても恨めない。どうしても傍にいたい。


 シュヴァイツの首にしがみつき堪え切れず啜り泣いた。


「私は誓った。だからあなたがいなければ、今度は必ず私から迎えに行くわ」


 神々は消え去るわけではなく、本体はフィエルンの知る由もない次元に今尚存在する。神の力を借りたシュヴァイツには、聖女の運命を変えることだけで精一杯だったのだろう。あとのことは神々が決める。試練を鑑みて判断をするのだ。


「そうだといい」


 両腕でフィエルンを包むシュヴァイツの身体から、黒い霧が徐々に勢いを増して昇る。身体の内部から漆黒の光が溢れ、心臓の位置を中心に手足の先にまで灯っていく。


「ああ、そうだ。言ってなかったことがある」


 思い出したように呟いた彼は、泣いているフィエルンの顔をよく見ようとするように覗き込んだ。


「愛している、おそらくずっと前から」

「そんなの」


 分かっていた。言葉よりも行動で、その表情で。伝わらないほうがおかしい。

 でも彼が自らの心を自覚したことが嬉しくて、伝えようとしてくれたことが震えるほどに幸せだった。


「知っていたわ」

「······そうか。そうだったのだな」


 安心したように囁くと、シュヴァイツの指は彼女の顎を掬った。


 闇の神の力が魔王の肉体から溢れ、本来の持ち主に還る反動で爆発を引き起こした。


 直ぐに何も感じなくなった。


 甘く唇を重ね合わせた記憶が最期だった。
















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