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神となる

「これは····」

「フィエルン!」


 気を取られていたフィエルンは、真横からの攻撃を聖女の光で間一髪で撥ね付けた。


「気を付けて」

「ええ、ごめんなさい」


 エスタールとフィエルンは神の背後に回って戦っていた。そこには獣の尾のようなものが根元から分かれて、幾つもの細い触手となっている。それ自体が生き物のようにウネウネと蠢き2人を執拗に狙っていた。

 こちらへ引き付けておいて、少しでもシュヴァイツから気を逸らさせる魂胆だった。


 闇の神の全身からか細く漂っている黒い霧は、神の姿を構成するものであると共に神としての力が体現したものだ。それがゆっくりとだが確実に魔王の元へと流れていき、身体へと取り込まれていく。

 神もまた魔王を取り込みたいようだったが受け付けることができず、その身に吸収しようとする前に反転して彼の身体に戻って行く。


 彼はきっとどちらの神が現れて自分がどうするべきか考えていたのだろう。最初に聖女の力を奪ったことも計算ずくだった。闇の神は、そのせいで魔王から力を吸い取れないのだ。


 フィエルンは自分の浅はかさに打ちのめされる思いだった。彼がどう動くかなんて考えず、自己中心的なことしか頭に無かった。


 ましてシュヴァイツが我が身を犠牲にするなんて信じられなかったから。


 どのくらい時間が経っただろう。フィエルンにはとても長く感じた。尾の攻撃はいつしか止み、エスタールは地上に着地して大地に突き立てた剣を支えに呼吸を整えていた。


 地上で立ちすくんだフィエルンは、言葉も忘れて彼の姿を見ていた。


 神の姿は薄くなり、遂に空気に溶けるように消えていった。

 対照的に、取り込んだ神の力が彼の身体を縁取るように黒く霧立ち昇る。銀色の瞳は黒よりも濃く染まり、その身に禍々しい力が宿り今にも膨れ上がりそうになっているのが分かった。


 肉体の限界。神の力を、受肉した身に無理やり取り込んだが長くは保てない。


 ドン、と落下と等しい速さで着地したシュヴァイツは手を付いて俯いている。


「ぐ·····」


 暴れ出しそうな神の力を押さえ込む身体は悲鳴を上げているはず。微かに震える腕を見て、フィエルンはエスタールへ顔を向けた。


「エスタール、感謝の言葉をどう伝えたらいいか」

「いいんだ·····行くのか?」


 本当は「行くな」と声にしたかった。だけどフィエルンの静かに微笑む様子に、もう止められないのだとエスタールは悟った。


「後悔はしないんだね」

「私は、ずっと後悔ばかりだったの。でももうしない」

「分かった。ルルはこちらで預かるよ。もう使うことは無いかもしれないけど」


 頷いたフィエルンが、聖剣を握るエスタールの手に一度触れた。


「エスタール、後ろを振り返らず遠くまで走って。そしてどうか幸せになって」




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