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もう後悔はしない

 絶え間ない落雷は、未だ魔王を許そうとしない。

 地面に両膝を着きはしたものの苦痛の呻き一つ漏らさずに彼は罰を受け続けていた。全身は赤く爛れ血を流し、肉の焦げた臭いと煙をくゆらせて尚、微かに開いた片目で天上を睨んでいた。


 耳をつんざく鋭い音がして、また一つ神の制裁が下された。喀血してよろめいた拍子に右腕がボトリと地面に転がった。


 魔王の作った壁を隔て、フィエルンは不鮮明ながらも全てを目の当たりにしていた。身動きの取れない中で、光の神に彼を許してくれるようにと懸命に叫んだ。


 元より罰は自分が受ける覚悟だった。最初にシュヴァイツに戦いを止めることを持ちかけたのは自分であることは間違いようがなかったし、彼と共にあることは自らが望んだことだ。


 だからこそ、こんなことあってはならないのに。


 辛うじてシュヴァイツが肉体を保っていられるのは、フィエルンから奪った聖女の力を活かしているのだと何となく理解できた。

 以前から彼女なりに推測していたことだが、聖女の色を纏わず生まれた自分と同様に彼が持つ闇の力の純度も薄くなっているはず。だからこんな芸当が可能になったのだろう。


 でももう充分だ。


 壁に手をついて一心に光の力を込める。彼に似て頑固な壁はなかなか消えてくれない。でも彼が弱っていくのと比例して少しずつ脆くなってきたのに気付いた。


 何度も魔王を殺してきた。

 それなのに今はシュヴァイツが傷ついた姿に気が狂いそうになる。光の神に初めて憎しみを抱くほどに。

 過去の自分はなぜ彼を殺せたのか。フィエルンにはとても信じられない。


「こんなのは嫌」


 目を逸らすことも正気を手放すことも自らに許さなかったのは、もう二度と後悔したくないからだ。

 だからといってやり直しもいらない。


 神は罰を与える間もフィエルン達の行いを取り零さずに見ていて判じている。

 この世界に生きるものは(すべか)らく『試練』の元に生かされている。

 だから····


「ああああ!」


 残る力を振り絞ると、フィエルンは壁を破壊した。瞬間彼女から爆発的な光が溢れ、地を縫うようにして広がった。


「シュヴァイツ!!」


 血溜りが駆け寄る彼女の足を赤く染めた。


 とうとう四肢もなく肉塊に成り果てた彼を、フィエルンは両手で掬い上げると胸に抱き締めた。

 みるみるうちに魔王の血で、彼女の身体は朱に染まっていった。






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