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異質なもの

「こうしていると、あなた人間みたいね」


 シュヴァイツの腕の中で、テネシアは少し不思議そうに話した。


「私も普通の人みたい」

「そうでありたいのか?」

「ええ」


 彼女の黄金の髪を指で横に梳いていたら、顔を上げたテネシアが彼の頬に触れた。


「あなたこそ魔王のままで生きたくないから、私と同盟を結んだのでしょう?」

「別に。単調で決められた生き方に飽きただけだ」


 彼女の指がこめかみを辿り、くすぐったさを覚えたシュヴァイツは、その手を捕まえた。


「自分がどんなに表情豊かになったか知らないでしょう?このまま人間になったりして」

「馬鹿らしい」


 掴んだ手を自分の胸の上に置いて握ったまま、彼は目を伏せた。その肌の温もりを心地よいと感じてぽつりと呟いた。


「俺はお前といられるならそれでいい」

「でも私は····」


 言葉を呑み込むと、テネシアは逡巡して結局恋人の唇に自ら拙い口付けをした。


「私も·····私もずっといたいわ」


 何が言いたいのかは分かっていたが、長い長い時間の先を考える気にはなれなかった。


 縫い止めるならこの時を。


 唇を寄せて、シュヴァイツは唯それを思う。






 こんなに早くその時が来るとは思わなかった。なぜずっと共に過ごせると思い込んでいたのか。


 抱えたテネシアの口からタラタラと鮮血が溢れ落ち、流れる黄金の髪が染まり行くのをシュヴァイツは眺めていた。


「う····あ····」


 もうまともに話せまい。勝手に毒を呑んで自死を選ぶとは腹立たしいにも程がある。


 やはり闇の神の分身を受け入れることが嫌だったのか?穢らわしいと思っていたのか?それとも役目を果たさなかったことを後悔して次の生に託したか?

 俺のことなど、どうでも良かったのか!


 問い質して光を失いつつある瞳を睨みつけようとしたが、ざわざわと気分が波打ってどうでもよくなった。


「テネシア」


 ポロポロと涙を零し、彼女は微かに笑ってから目を固く閉じた。


「テネシア」


 冷たくなる身体を抱き締めていると、息苦しくてたまらない。


 まあいい。またどうせ転生して俺の前に姿を現すだろう。その時は、この手で殺してやる。死を選ぶのなら、俺が手にかけてやらなければ。絶対に許しはしない。


 だが何故こんなにも虚しいのか。


 青白い彼女の頬を流れた涙は乾いたはず。それなのに、なぜ濡れるのだ。


 まさかと思った。

 魔王である自らが涙を流すなど。


「俺を置いて逝くな」


 恨み言の代わりに懇願が口をつく。

 そして、はっきりと気付いた。


「ああ·····そうか。そういうことか」


 くく、と嗤い、彼女の首元に顔を埋めた。


「これが愛するということなのだな····テネシア·····テネシア」













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