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混じり合う

 遥か昔、その力はどこまでも深く澱んだ闇色だった。


 今や魔王の身体を纏うのは透んだ光。地上の全てを滅するものは神々しいほどの美しい漆黒の焔。

 夜に浮かぶ浄化の黒を足元に、シュヴァイツは自らの掌を眺めた。


 いつからだったか。

 闇に光が混じったのは。


 何度も何度も聖女と出逢い戦い、果てに命を奪い合い、気付けば闇も光も互いに混じり合い区別のつかない曖昧なものになってきた。


 決定的だったのは、彼女の黒みがかかった銀髪。自分が光に近付きつつあるように、彼女もまた徐々に闇に近づきつつある。


 だからこそ惹かれたのは必然。


 どんなにフィエルンが拒もうが、逃げ切れることは叶わない。それは自分も同じこと。


 腕を下ろした彼は小さく口角を上げた。


「シュヴァイツ」


 声と同時に、地上を焼く焔が嘘のように立ち消える。空中に静止した自分と同じ高さに降り立つ気配。


 銀色の瞳を横に動かすと、いつも変わらぬ眼差しをした聖女がいた。


「その様子からして全て思い出したのだな」


 頷いたフィエルンも、シュヴァイツの様子をつぶさに窺う。静溢なる彼の表情に、最初の時の狂気は鳴りを潜めているようだった。


 それはテネシアの死の真実を受け入れたからだろう。


「······私が自分から死んだと思っていたのね 」


 熱せられた風が吹き上がり、フィエルンは広がる髪を片手で押さえた。


 メネヴェはどうしたか聞こうとした唇を結ぶ。殺したも同然のことをしたのだ。安否を気遣う資格など無い。


 純粋に神を信じ役目を果たしていた頃は、自分を悪の翳りの一つとしてない聖なる存在だと誇っていた。魔王の名すら知らなかった無知で愚かなほど従順だった聖女に比べ、今の自分は善人ではなく利己的で非情にもなれる人間だ。


「ねえシュヴァイツ、私はあなたと共に過ごして幸せだったのよ。ずっといたいと思っていたのに死を選ぶはずないでしょう?馬鹿ね」


 笑おうとしたが上手くできなかった。


 フィエルンは輝ける金の光と髪と瞳を失くした自らに悔いはなかった。苦しみと悲しみは増しても自分らしいと感じるから。


 シュヴァイツがこちらに身体ごと向いたのと、フィエルンが躊躇いがちに手を伸ばしたのは同時だった。


 抱きしめられ、フィエルンはその背にしがみつくようにして唇をわななかせた。







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