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全てが私だった

 

「フィエルン、君が好きだ。君が聖女とか以前は違う君だったとしても、フィエルンである君が好きだよ。だから例え生まれ変わるとしても君がいなくなるのは耐えられない。君はその時君自身ではなくなるし、私はいないのだから」


 両肩を掴んだまま、エスタールは項垂れてしまった。


「君は·····フィエルンとしての君は、本当に魔王を好きなのか?あれほど残酷で人でもない者を?」


 ただ好きなだけなら、生まれ変わっても尚心を波立てさせたりしないだろう。


「·······エスタール、今世の私にあなたがいてくれて良かった」

「フィエ·····」


 彼のこめかみに手を添えて、その額に口付けを贈ると一歩下がった。


「私を見てくれて、すごく嬉しかった。ありがとう······本当にありがとう」

「フィエルン?」


 甲板の端に寄りかかると、異変を感じた彼が手を伸ばした。


「でもね、私はフィエルンだけどテネシアで、どんなに姿が変わっても全て私だった」


 手が届く前に、トンと船縁に後ろざまに跳び上がると、エスタールが息を呑んだ。


「な、何を!」


 例え記憶を失ったままだったとしても、魂に突き刺さった存在から離れることはできない。運命や縁といえば聞こえはいいが、呪縛に等しいとも思えた。


 不安定な足場の直ぐ後ろは何も無い空中。地表は遠く、飛空挺の下を雲が群れを為していた。


「フィエルン、ダメだ!こっちへ来るんだ」


 青ざめる彼に微笑む。


「エスタール、また会いましょう。どうか幸せに」


 彼から目を離さずに背を反らすと、足を蹴るようにして飛空挺から飛び降りた。


「行くな!フィエルン!」


 バタバタと衣服がはためき、髪が舞い上がる。

 飛空挺はあっという間に小さくなっていく。


 この選択に後悔はないと言ったら嘘になる。でも既に前世において大きな悔いを残したから、自分のすべきことは決まっていた。


 泣いているエスタールを思い、上空へ片手を伸ばした。肩から腕を伝い、金色の聖女の光が指先まで行き渡る。


 これでいいとフィエルンは思う。

 神へ反逆した時から許されぬ罪を背負っている。それは自分一人が被ればいい。



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