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聖女の遺志

「私と彼との戦いは、神々にとっては世界の循環の為に必要なこと。ですが、それが滞ったら彼等はどうするか。私達が互いを殺さずに100年以上の時が経ってしまった。以前より周期は短くなっているから、私の代で起こる可能性が高いし仕向けます」


 目を臥せ話すフィエルンは、どこか近付きがたい雰囲気を漂わせ冷徹にさえ見えた。


「魔王と聖女は常に一対。命尽きれば次が生まれるけれど、存在している間は新たな者は誕生しない。それが世界の法則だから私達がいる限り代理者は立てられない。ならば調整者である本人が降りるしかないでしょう」

 

「本気なのですね」


 ローネンシアの声が震えるのは当然だとフィエルンは思った。あまりに畏れ多いことを、まさか聖女が口にするとは思ってもみなかっただろう。


「私を責めて下さって構いません。こんなことを実行しようとするなんて聖女と名乗る資格もないでしょう」

「いえ、いいえ、あなたを責めるなど…………」

「正直何が起きるか分かりません。どちらか一方か、或いは両の神が降りるかも。闇の神のみが降りた場合、人間は滅びるかもしれません」


 これは賭けだ。人間全てを巻き込む規模の非道な賭け。

 世界の創世期に神が降臨したのと同等の状態に持っていき、従来の代理者の役目を消去する。そして世界の循環の有り様を一新する。魔王と聖女の必要のない世界にするのだ。


「フィエルン様。『蝕』が起きれば貴女もどうなるか分かりません。それをご承知で」

「天罰を受ける覚悟はあります。犠牲は必要でしょうから。それで人々を守れるなら構いません」


 厳密には光の神は慈愛の神ではない。自らに反する者は徹底的に排除する。そこに情けや赦しはなく、時に闇の神よりも残酷性を見せる。おそらくそれは自らの代理者である聖女でも同じだろうとフィエルンは考えている。


 ローネンシアが、彼女の手をそっと握った。ビクリとするフィエルンを痛々しく見つめる。


「貴女が決めたことなら従います。ずっと苦しまれたのでしょう?私にできることはありますか?」

「……………ローネンシア様」


 勝手なことをと罵られることも想像していたフィエルンは思わぬことに俯いた。


「うまくいけば、貴女は解放され自由に生きていけます。今よりもっと幸せになれます。それは喜ばしいこと」


 ローネンシアは「神官長失格ですね」と微笑みを浮かべて彼女の背中を擦った。


「感謝します。それに……………お許し下さい」


 気持ちがスッと軽くなり、力が湧くのを感じた。

 二人でひとしきり話し合うと、フィエルンは退出する為に扉に手をかけた。


「フィエルン様、貴女が為さること…………本当は全て()の為なのですね?」


 扉を見つめたままフィエルンは答えた。


「はい。その為に私は再び生まれたのですから」







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