告白
「断る」
「今更反古にするの、シュヴァイツ?」
賛同してくれたのではなかったのか。
テネシアは心底がっかりして、再び自分が暗い沼に沈んでいくような気分を思い出した。
「また私達、戦わなくてはならないの?」
腕を組んで平然としている彼が憎らしい。信じたからこそ、彼の用意した領域で暮らしているというのに。
神の分身なら永久に繰り返す戦いでも平気なのだろう。
でも私は人間だ。疲弊した魂が安楽を求めてはいけないのか。祝福だと思ったのは最初だけだ。
「違う」
「どういうこと?」
シュヴァイツに背中を向けると、テネシアはテーブルに置いている聖剣に手を置いた。返答次第では抜くつもりだった。そして早く終わらせよう。
「そうじゃない、テネシア。俺は友人ではいられないと言っただけだ」
背後から魔王の両手が伸びてテネシアの腹と鎖骨に回った。背中にシュヴァイツの身体が密着して、彼の体温が服越しにじわりと広がっていく。
こんなふうにされると、テネシアはどうしてだか動けなくなってしまう。
「意味が分からないわ」
「鈍い女め」
「っ!」
唇がうなじを掠める感触に、テネシアは、びくりと肩を揺らした。次いで耳朶を噛まれれば小さく悲鳴を上げてしまう。
「な、何?」
カアッと全身が熱くなって溶けてしまうようだった。
「よく聞け、俺はお前が欲しい」
「え…………え?」
耳に唇を当てたまま囁かれ、テネシアは小さく身震いした。今、とんでもないことを聞いた気がする。
そんな反応を、またこの男は楽しんでいるのだろう。
更に深く抱き込むように身体を寄せてくるのだ。
「俺はお前を殺したいほどに…………お前になら殺されてもいいと思うほど、お前が……………」
目映い光にエスタールは目を凝らした。
彼の身体のすぐ側から発せられる光は、地面に突き立った聖剣からだった。
「これ、は?」
魔王の攻撃を防いでくれたらしいが、こんな力は初めてだ。
だがこちらへ手を向けたフィエルンから聖女の力が光となって聖剣に届くのを見て理解した。これは彼女の意思に従う聖剣なのだ。
あまりの光の強さに魔王の目が焼け爛れている。
「ルル!」
フィエルンが聖剣に向かって名らしきものを呼ぶと、跳んできたそれは魔王の腕に刺さった。
弛んだ腕から素早く抜け出したフィエルンは腕を振り上げた。
「シュヴァイツ!」
小気味良い音にエスタールは目を丸くした。
平手打ちを魔王に見舞ったフィエルンは泣きながら叫んだ。
「私を、フィエルンとしての私を否定しないで!」




