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荒くれ紳士パンダマン  作者: 海月大和
3/5

自称紳士のプラン

 ダニエルとジョニーは並んで大通りを歩いていた。ジョニーはバットを肩に掛け、奢ってもらったホットドッグを齧りながら。ダニエルは火の着いていないタバコを咥えながらだ。


 カラフルな壁が続くセンター街やや東寄りの地区は住宅と店舗の比率が

半々といったところ。都会じゃないが田舎ほど芋っぽくない、垢抜けない街並みとそこそこに綺麗な身だしなみの通行人に今更なにがしかの感慨を感じる二人でもない。


 ダニエルはジョニーにここまでの道すがら、今回の仕事について簡単に説明をした。


 目的は危ない一味にひったくられたパソコンを取り戻すこと。シンプルにそれだけ伝えた。あまり細かい話をしても右から左に聞き流すに違いないので言うだけ時間の無駄だ。


「なぁ、今どこ向かってんの?」


 ホットドッグを食べ終えたジョニーが指に付いたケチャップを舐める。


「ホークのとこだ。情報屋の」

「ホーク?」


 ジョニーを見もせずダニエルはつっけんどんに言ったが、ジョニーの返しに思わず足を止めた。


「まさか忘れたのか? 何回かお前も顔合わせてるだろ」

「そうだっけ?」


 さっぱり思い出せないという顔のジョニーが本気でこれから行く場所のことを忘れているらしいのを知ったダニエルは呆れて肩を落とした。


 そうだった。基本的にこいつは人の名前や職業を覚えない。覚えられないのかそもそも覚える気がないのかは分からないが大事なのはそこじゃない。


「無精髭、四角眼鏡、茶髪ロング、インテリ顔で黒目。あと大体アロハシャツ」

「なるほど。アイツか」


 ジョニーが覚えるのは『ツラ』だ。主に視覚情報。たまに匂いや音。非常に動物的である。


 無事にジョニーがホークのツラを思い出したのを確認したダニエルは再び歩き始める。それに付いてきたジョニーの頭の上に疑問符が浮かんだ。


「ツインなんちゃらって奴らのとこに行くんじゃねーの?」

「ツインスネークな」

「そう、それ」


 大通りの途中に現れた路地に入ったダニエルは、人気が無くなったところでライターを取り出してタバコに火を着ける。


「いいか? 俺は探偵、そして紳士でもある。だから出来るだけスマートな方法を選ぶ」

「お前が紳士? 紳士っていつバーゲンセールしたんだ? 俺も買っとけばよかったぜ」

「気にすんな。いくら値下げしたってお前じゃ手が届かん」

「そーかよ。なら安心だ」


 軽口を叩きながら金属バットの先で路地の壁に薄い線を引いているジョニーに、ダニエルはじゃあ聞くがと前置きして質問する。


「お前、ツインスネークの根城がどこか知ってるか?」

「知らねー。けどヘビタトゥーの奴をテキトーに捕まえて締め上げりゃ分かるだろ?」

「まあな。だがそうすると俺たちの素性も知られるし探し物をしてることもバレる」


 ヘビタトゥーを探して街を歩き回るのも面倒だしな。そう付け加えてダニエルはほぅと煙を吐き出した。


「バレるとマズイのか?」

「ああ不味い。ブツを隠される可能性が出てくるだろう? 余計な手間をかけなきゃならなくなるからな。それは出来るだけ避けたい」


 それ以前に、囲まれて袋にされてこの世からおさらばする可能性もあるがそれはこの際考慮しない。


「大事なのはコトを始める直前まで、俺たちは知ってるがアイツらは知らないって状況をキープする。その一点だ。あとはどうにでもなる」

「キシューをかけるってやつか」

「ま、簡単に言えばそういうことだな。その準備の1つとしてここに来た訳だ」


 路地裏の突き当たり。日の当たらない暗がりのコンクリート床が四角く切り取られている。


 縦横が大人の肩幅よりふた回りほど大きな穴の側面には金属製の無骨な梯子がかかっていた。情報屋ホークのホームへ繋がる入り口だ。


 何があるか分からない人間がここを降りて行こうとは、余程の冒険心が無ければ思わないだろう。


「暗くて底が見えねえな」


 目を細めて穴を覗いていたジョニーが呟く。タバコを小さな金属ケースに突っ込んで火を消し、ダニエルが笑って言った。


「飛び降りてもいいんだぞ。ちょっと足が痺れるだろうがな」

「……そうだなー。それが早くていいか」


 言うや否やバットを穴底に放り、ジョニーはなんの躊躇もなく縦穴に身を投じた。


 カランカラァンと金属が跳ねる音がして、呆気に取られて固まるダニエルを急かす声が穴底から飛んでくる。


「冗談のつもりだったんだがな……」


 飛ぶかフツー? と零したダニエルはタバコケースをスーツの内ポケットに仕舞い、それから行儀良く梯子を使ってジョニーを追いかけた。

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