【お礼②】 流れ星に願いを込めて (アリアside)
村の子ども達とおしゃべりをしていた時のことだった。
「昨日の流れ星見た?」
一人の子のその言葉に
「見た!」
私以外の皆が目を輝かせながらそう返した。
何でもこの時期、この村では流れ星が多くみられるのだという。
そして、流れ星が消える前に願いをかければそれが叶うのだと、子ども達は嬉しそうに教えてくれた。
願い。
そう聞いた瞬間、何故かまず最初に思い浮かんだのはハクタカの顔だった。
ハクタカは王都でもそうだったが、若者の少ないこの村では更に人気者だ。
ハクタカから恋人がいるのだという話を聞かされた事は無いが、もし素敵な人が現れたら、ハクタカはやっぱり私を置いてその人の元に行ってしまうのだろうか……。
そんな事を考えてしまったせいだろうか。
その日の夜、私は寝付けず部屋の窓から空ばかり見ていた。
翌日、
「寒くて眠れなかったのか?」
私の目の下に出来たクマを見つけたのだろう。
ハクタカがそんな事を言った。
「えっと……。……流れ星。そう、昨日子ども達から流れ星を見たって話を聞いて探してたんだけど見つけられなくて……」
「流れ星? 上にばっかり気を取られて川に落ちたりするなよ??」
ハクタカにとって、私は相変わらず犬や小さな子どもの様に庇護し世話を焼いてやる存在に変わりないらしい。
ハクタカはそんな小さな子どもに注意するような事を言った。
ハクタカは優しい人だ。
だから、ハクタカには好きな人と結ばれて幸せになる権利があるって分かっているのに……。
『ハクタカとこれからもずっと一緒にいられますように』
そんな身勝手な願いをかけてしまいたくて、その日、私は日が沈むと同時に空ばかり見てしまった。
そんな翌日のことだった。
ハクタカは朝から何だか忙しそうにしていた。
どこかに出かける予定でもあるのか、何やら楽し気に準備をしている。
「どこか遠出するの? 手伝おうか?」
そう尋ねるも
「大したことじゃない」
そう言ってハクタカはそれ以上の事は自ら話してくれることはなかった。
もし、詳しく尋ねたら教えてくれたのかもしれない。
でも、リュックに詰めた中身を見たハクタカの目と口元が小さく甘やかな弧を描いたから……
『久しぶりに恋人に会いに行くんだ』
そう言われたら立ち直れないと思って、それ以上尋ねることが出来なかった。
「アリア、今からちょっと出かけられるか?」
夕方前になって、ハクタカがそんな事を言いだした。
「こんな遅い時間に?」
少し驚きつつも特に用事も無いので頷けば、ハクタカが嬉し気に、用意していたあのリュックを背負った。
自分を一緒に連れて行くという事は、恋人に会う為に用意していたのではなかったのだろうか?
急に軽くなった私の心とは対照的に、ハクタカが背負ったリュックは魔王討伐にでも出るつもりなのかと思うくらい重たげに、パンパンに膨れていた。
日が暮れる前に、二人でなだらかな山道をのんびり登って行く。
暖冬故なのか道に雪は無く、積もったフカフカの落ち葉を踏む感触と針葉樹のさわやかな匂いが、思わず歌いだしてしまいたくなるくらい心地良かった。
山頂に着けば、ハクタカが何やら焚火の準備を始めた。
私も小枝を集めて火にくべれる。
するとハクタカがリュックから大きな蓋付きの鍋と牛乳の入った瓶と、チーズの入った包みを取り出した。
ハクタカが鍋の蓋を開けると、そこには既に小さく刻んで煮込まれた野菜と鶏肉が入っていた。
ハクタカはそこに持っていた瓶の牛乳を全て入れると蓋を外したまま火にかけた。
ぐつぐつ煮たったタイミングでチーズを入れて蓋をし更に煮込む。
傾き始めていた日が、その色をオレンジに変えた頃。
ハクタカが鍋の蓋を開ければ、モワンと白い湯気が豪快に立ち上がって周囲が暖かで良い匂いに包まれた。
「おいしー!!」
お行儀悪くスプーンを加えたままそう言えば、ハクタカが嬉しそうに笑って私のお皿に軽く火であぶって温めたパンをのせた。
パンにシチューを搦める美味しさに身もだえれば、ハクタカが更にチーズをのせて蒸したジャガイモを私のお皿に追加してくる。
……ハクタカはどうも私の事を常に腹ペコだと思っている節がある。
そういうところが、村の子ども達から『お爺ちゃんみたい』だと言われる所以なのだろう。
そう思えば可笑しくなって思わずフフッと声に出して笑った時だった。
私の方を見ていたハクタカが鏡の様にフワッと破顔した。
……不意に繰り出してくるハクタカの甘い笑顔は本当に心臓に悪いと思う。
パッとハクタカから目を逸らした時だった。
「流れ星!」
紺碧の空を銀色に輝く星が一つ、煌めく光の尾を引きながら流れ落ちて行った。
「王都では毎年この時期流星群が見られるからな。もしかしたらと思ったんだけど、『あたり』だったみたいだな」
ハクタカがそう言って、いたずらが成功した子どもの様に笑った。
手早く後片付けを済ませたハクタカは、家にある一番厚手のラグを地面に敷くと、その上に私を座らせ、同じく家にある一番暖かい毛布を掛けてくれた。
「これがリュックが嵩張っていた原因かぁ」
毛布に移っていたハクタカの香りに思わずドギマギしてしまい、お礼を言うのも忘れ、目を泳がせながら思わずそんなどうでもいい事を言えば
「飴も沢山持ってきたからな。腹減ったら言えよ?」
そう言ってハクタカがまたカッコいいお兄さんの顔で、そんなお爺ちゃん見たいな事を言った。
どのくらい二人で夜空を眺めていたのだろうか。
「クシュン!」
ハクタカがくしゃみをした。
私に厚手の毛布を掛けてくれて、自身は薄いブランケットに包まっていたから冷えてしまったのだろう。
しばらく迷った末……。
勇気を出してハクタカにくっつき一緒に包まる様にハクタカと自分の肩に毛布を掛けた。
一人用の毛布に二人で入るのはやはり無理があり、はみ出てしまった足は寒かったが、くっついた肩と心は何だか泣きたくなるくらい幸せで暖かかった。
……とは言え、冬の夜の山は酷く冷える。
「クシュン!!」
今度は私がくしゃみをしてしまい、慌てたハクタカがすぐさま毛布を返してきた。
しばらく毛布の押し付け合いをした後で、
「それで、流れ星に願いは掛けられたのか?」
突然、ハクタカがそんな事を言った。
少し考えて、
「うん……」
下を向いたまま短くそう答える。
何度か流れ星を見ることは出来たが、星が流れ落ちるのは一瞬で、まだ願いをかけるまでには至っていなかった。
でも……。
そう言えばハクタカは自身が風邪を引く前に下山を決めるだろう。
自分勝手な願いをかけるよりも、ハクタカが風邪を引かない方がよっぽど大事だ。
そう思って諦めようと思った時だった。
「おいで」
思いがけない程優しい声で、ハクタカがそう言った。
驚いて顔を上げれば、『しょうがないヤツだな』と言う顔をして、ハクタカが座り込んだまま私に向かって手を広げている。
思わぬハクタカの行動にどうしてよいか分からず視線を彷徨わせた。
でもハクタカが抱きしめてくれるという誘惑には勝てず、おずおずと身を寄せれば……、ハクタカが私の事を後ろからギュッと抱きしめる様にして毛布の中に入れてくれた。
「それで、アリアの願いって何なんだ?」
まるで、耳元に口付けられるのではないかと思うくらいの距離でハクタカの優しい声が響く。
「な、内緒」
バクバクしている心臓を手で押さえつつ、なんとかそれだけ返せば、そんな私の気持ちなんて全く知らないハクタカがのんきそうに首を傾げた。
「二人で挑戦すれば、可能性が上がると思ったんだけどなー。まぁ、願いは口に出すと叶わないって言う人もいるしな」
ハクタカの言葉を聞いて思わず呆れてしまった。
自分の願いをかけれるという発想は無かったのだろうか。
ハクタカは本当にお人よしだなぁ。
そう思った時だった。
「あっ!!」
ハクタカが突然驚いた声を出した。
彼指さした方を見れば、これまでに見たことのないくらい沢山の星が一斉に降り注いでいる。
結局、
『この先、ハクタカが幸せでありますように』
私はお人よしのハクタカに代わり、繰り返し星に向かってそんな事を祈ったのだった。
沢山の★を本当にありがとうございました(ノД`)・゜・。
感謝の気持ちを還元すべく、二人の願いがいつか叶うようお星さまは二人の上に降り注がせてみました。
ハクタカの糖度は足りたでしょうか(/ω\)
大風呂敷を広げてしまい、増えて行く星の数に蚤の心臓をバクバクさせながら書いておりました。
次回、このお話のハクタカ視点upしますので、引き続き読んでいただければ幸いです。
そして、『のんびりお料理をしつつ流れ星を待つ=スローライフ(?)』みたいな感覚で書いてみましたが、私のスローライフの認識はあっていましたでしょうか???
「ずれてるなー」とか「読みたい方向はそっちじゃないんだよー」などお気づきの点がありましたら『感想』にて教えていただければ幸いです。
今回も読んで下さって本当にありがとうございました。
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