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7.謝る必要なんてない、寧ろ俺は嬉しいのだが?

「……ハクタカ! ……ハクタカ!!」


アリアに揺すって起こされ目が覚めて……

目が覚めた事に驚いた。


生きている?


死ぬ前に見る走馬灯のようなものかと思ったが、アリアに飛びつかれた瞬間、額と額を強くぶつけ、物凄く痛かった事で夢ではないと気づいた。



「ごめんなさい……ごめんなさい……」


アリアはそう言って泣いていた。

訳が分からず傍に立っていたローザを見上げれば


「アリアが『生贄』のスキルで、ハクタカを治したんだ。代償は……ハクタカ、お前のスキルだ」


「俺のスキル??」


いつもの様にスキルを使おうとして、これまで普通にやっていたそれを、どうやっていいのか全く分からなくなっている事に気づいて、俺はそれが本当の事だと気づいた。





「ごめんなさい……」


「アリアが気にすることじゃない。もともとはずれスキルだ。助けてくれてありがとう」


泣き崩れるアリアの頭を撫でながらそう真実と本心を告げるのだが、アリアの涙は止まらない。


「アリアは全く悪くない。俺が撒いた種だ。俺は……」


自らの愚かさを悔やみギリッと奥歯を噛んで、俺は言った。


「俺はこのパーティーを離れる為、死んだ振りをしようとしてわざと攻撃を避けなかったんだ……」



パン!


そんな音がして左の頬を痛みが走った。


顔を上げればレイラが泣いていて、俺はレイラに平手打ちをされた事に気づいた。


「俺が馬鹿な事やったせいで、アリアに大けがさせた。アリア、本当に……本当にすまなかった」


ようやくそれだけ言って大粒の涙をボロボロと零す俺を見て、アリアはその綺麗な目に涙を沢山浮かべたまま、ぼんやり俺の顔を見ていた。


ローザは


「ハクタカは最後までお人よしが過ぎる」


そう言って目を逸らしたまま、全てを飲み込むと、それ以上何も言わないでいてくれた。







いくら元が『はずれ』だったとは言え、スキルが全く無くなった以上、いくらアリアが強く望もうと、俺がこのパーティーと共に行動する事は不可能だった。



「もともと王都を離れ、田舎でスローライフを謳歌する予定だったんだ」


そう言ってヘラッと笑って見せれば、新たに仲間として加わったトレーユが俺の代わりにアリア達を命に代えても守ると誓ってくれた。



「それじゃ、みんな元気でな!」


俺はそれだけ告げ精一杯笑って街の門を出ると、振り返らず歩き出した。

ギルマスは新しい働き先を紹介してくれると言ってくれたが、当初の予定通り俺はそれを断った。

アリアの後ろ髪を引くような事があってはいけないと、行く先は誰にも告げなかった。







スキル無しの何の取り柄もない俺が、知り合いもいない田舎の閉鎖的なコミュニティーに溶け込むのは思いの他大変だった。


それでも村の仕事を地道に手伝ったりしていくうちに、何とか少しずつ認めてもらう事が出来た。



かつて夢見た、助けた不遇な美少女との悠々自適なスローライフとは程遠く、独り身のまま忙しく駆け回る毎日だ。

しかし、余計な事を考えず泥のように眠れる分、忙しいのも単純な肉体労働に駆り出されることも悪い事ではないと思えた。



そんな時、勇者パーティーが魔王を倒したとの噂が流れてきた。

俺がパーティーを離れ、一年と少しが経った頃のことだった。





アリアは王都で皆と幸せに暮らせているのだろうか。


きっと沢山悲しい事、苦しい事があっただろう。

それが全て帳消しになるくらいの幸せが、この先アリアにありますように。


アリアの瞳と同じ琥珀色の月が輝く夜、俺は柄にもなく一人そんな風に思わず月に向かって祈るのだった。







初雪の降る夜の事だった。


俺は仕事からの帰り道、誰かが倒れているのを見つけた。


慌てて駆け寄れば、それは少し癖のあるやや赤みが強い栗色の長い髪をした女の子だった。



「アリア?!」


驚いて腕の中に抱き上げれば、長いまつげがゆっくり震え、小動物を思わせるクリッと大きなアンバーの瞳が真っすぐに俺を見た。



「…………」


アリアは俺の名を呼ぼうと口を開いたが、それが出来ず、何度も苦し気に口を閉じたり開いたりしていた。



長い沈黙の後、アリアは言った。


「ごめんなさい。あなたの事知っているはずなのに、あなたの事何も思い出せないの。……私ね、魔王を倒す時に、一番大切な思い出を贄に使ってしまったの。そうでないとローザとレイラとトレーユを、この世界を守る事が出来なかったから。だから……私は、きっとその記憶の中にいたあなたの事が分からない」


「そうか……」


見ればアリアは、あの日買ってやった綺麗な色の糸で守りの護符がまれた組紐も、可愛らしい石のついた髪飾りも、ブローチも、あれだけ大切そうに受け取ってくれた物全て、何一つ持ってはいなかった。


「ごめんなさい……」


小さく呟くアリアを思わずきつく抱きしめれば、驚いたアリアが俺の腕の中でピキッと固まった。


「謝る必要なんてないよ。俺は……俺は最期にアリアを守れるくらい、アリアが俺との思い出を大切に思っていてくれたことが嬉しいし、アリアを守れたことが誇らしいよ。……アリア、よく頑張ったな」


俺は、離れていた年月の分長くなったアリアの髪を労わるように撫でた。


するとアリアが俺が誰かも分からぬまま、それでも、その綺麗な瞳からポロっと涙を零しながら、かつて共に過ごした時のように、俺の腕にしどけなく寄りかかりながら愛らしく、無邪気に、そして少し大人になったぶん、俺の胸を締め付けるくらい綺麗に笑って見せたのだった。







俺の夢は田舎でスローライフを送ること!


そのはずだったのだが?



「ハクタカ、これを村長の所に届けてくれないか?」

「ハクタカ、そのついでに川の水量を確認しておいてくれ」

「ハクタカ遊ぼう」

「ねぇ、ハクタカ。ウチの猫が今朝からどこにもいないの」

「ちょうどよかった、ちょっと味をみてくれないかい?」



俺は相変わらずスローとはかけ離れた忙しい生活を送っている。


「相変わらずハクタカは人気者だね」


走り回る俺を見て、アリアが笑った。


人気者??

便利にこき使われてるの間違いなのだが?


訂正しようかと思ったが、アリアがあまりに楽しそうに笑っているからその勘違いに水を差すのはやめておいた。



スローライフはまだまだ叶いそうにないが、不遇な美少女を助けるという野望は達成したのでまぁ良しとしよう。



何の愁いもないように眩しく笑うアリアの胸元にはトパーズの首飾りがあった。

貴重性も低い石に穴を開け、そこに革ひもを通しただけの、実に簡素な物だ。

先日、俺がアリアに贈ったものだった。

最後まで読んで下さってありがとうございました。


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↑押された★の数だけ、アリアのポケットの中の飴の数(大切な物)が増えるとか増えないとか……

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― 新着の感想 ―
[一言] うんまあ心に傷持つ女の子をデロデロに甘やかせばこうなるのも仕方ない 最後は二人で只の人になってスローライフ グッドエンドだ
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