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6.だからはずれスキルじゃダメだと言ったんだ

覚悟していた痛みは無かった。


そのことを不思議に思って目を開いけば、俺の目の前を鮮血が舞っていた。

飛び散る鮮血の向こう、俺を見て安心したように微笑む血濡のアリアの姿があった。



「……アリア?……」


『よかった』


唇だけそう動かして、アリアがゆっくりその場に崩れ落ちていく。



「アリア!!」


咄嗟に放ったスキルの力で油断していたダークウルフの首を切り落とし、抱き留めたアリアに治癒魔法を施した。


すぐさま事態に気づいたローザとレイラがこちらに駆け付けようとしてくれるが、いつの間にか俺とアリアはダークウルフの群れに囲まれていたようで容易に近づく事が叶わない。


必死に左手で治癒を施しながら、死に物狂いで右手で剣を振るいダークウルフの攻撃からアリアを守った。



傷が深すぎたのだろう。

治癒の力では術が発動している間のみ一時的に血が止まるが、手を止めれば再び鮮血が溢れだす。



「だから言ったんだ! 俺じゃ賢者トレーユの代わりなんて務まらないって!!」


トレーユなら、きっとすぐさまアリアの傷を癒して見せるのだろう。

しかし、やはりはずれスキル持ちの俺ではアリアの血を止めることすら出来ない。


自分の愚かさが嫌で嫌で涙が止まらない。

こんな小細工せずにちゃんとアリアに話せばよかったんだ。

どうあがいたって俺なんかでは、お前と一緒に行くことは叶わないのだと。


俺のスキルがはずれだって事は、誰よりも俺が一番よく分かってたくせに!


分かっていたのに。

真実を告げる事から逃げた俺の愚かさが、こんなにも深くアリアを傷つけた。


自分が許せなくて、涙が溢れて止まらない。



そんな俺にアリアが言った。


「そうだよ、ハクタカは誰の代わりにもならないよ。だってハクタカは私の一番大切な人だもん。ハクタカの代わりなんていない。……ねぇ、ハクタカは自分のスキルの事、いつもはずれスキルだっていうけど、誰もそんな風に思ってないよ。ハクタカはね、凄いんだよ。だって、凍ってしまったと思っていた私の心を何度も何度も暖かくしてくれたんだもん。私が保証する。……ハクタカ……大好き」


俺の頬に触れようとしたアリアの手が途中でパタリと落ちた。


「アリア? アリア!!」


重ねて治癒を施すが、徐々にアリアの脈が落ちていく。


残ったスキルの使用回数はあと一回。

あと一回で一体何が出来ると言うのだろう……。



そう思った時だった。





『大丈夫だ。絶対に皆、オレが守って見せる』


あの日魔物の群れに囲まれて負傷者多数の絶体絶命の状況の中、そう言った親父の声を不意に思い出した。



あの時、親父以外の皆が助かったのは奇跡だったと思っていた。

しかし、今考えてみると色々おかしい。


どうして深手を負った人々が助かって、然したる致命傷を負ったようにも見えなかった親父だけが死んだのか。



もしかして……。

自らの命と引き換えに仲間を守り切るスキルの効果だったのではないか?!



そう思えば全てに納得がいった。


俺のスキルを知っている王都の皆は、その事を知っていながら、俺がマネせぬよう敢えてその事を言わなかったのだろう。

そして、親父に恩義を感じ、息子の俺にずっと色々と特別な便宜を図ってくれていたのだろう。



「アリア、俺が……俺が絶対にお前のこと守って見せるから」







親父が最期に使ったのと同じスキルを発動した瞬間、アリアの傷口が淡く光った。

あっという間に肌が綺麗に傷跡を残す事も無く再生し、アリアの可愛らしい頬と唇に赤みが戻る。


それと同時に、無防備に背を向けた俺に襲い掛かるダークウルフの爪や牙は、俺の肌に引っかき傷一つ付けることが出来なくなった。


剣を抜き、無造作にダークウルフの首を片っ端から無感動に切り落としてまわる。

あちらからの攻撃を気にしなくて良ければ、ダークウルフもただの怯えた子犬と変わりはなかった。



その屍が二十を超えた頃だっただろうか。

気が付けば俺とアリアを囲んでいた群れの大半は死に絶えて、わずかに残った個体はどこか遠くに逃げ失せたようだった。





「アリア! ハクタカ!! 無事か?!」


遠くからローザとレイラが走り寄って来てくれた。


ほっとしてローザの腕にアリアを託した瞬間、俺は意識が遠のいて行くのを感じた。

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