5.俺だってこのパーティーに愛着が無いわけではないのだが?
魔王。
通常の魔物とは異なり、高い知能ととんでもない力を有したユニーク個体。
時に知能の高い魔物が側近として就くと、人の真似事をして軍やら何かを組織して集団で襲いかかってきたり、自分達の領土を拡大するために知能の無い下級の魔物を集団で差し向けてくるから厄介だ。
俺は親父が死んだ時の魔物襲来時の事を思い出し、思わずグッと拳を握りしめた。
「お爺ちゃん?」
アリアが心配そうに俺の顔を見てきたから、何でもないと笑って見せる。
俺だって……。
このパーティーに愛着がない訳ではない。
本当は俺だって、アリア達と共に親父の仇を討つため旅に出て、多くの人を守りたい。
でも、俺では無理なんだ。
日に七回のスキルでは足りない。
俺では、いざという時アリア達を守れないどころか、足手まといになってしまう。
トレーユと別れた翌日、取り逃がしたダークウルフの背を息を切らし見送りながらそう確信を深めた。
きっとトレーユなら、ダークウルフ程度に苦戦したりなんかしたりしない。
「お爺ちゃん怪我しなかった?」
駆け寄ってくるアリアの顔を見て考える。
アリアは優しい子だから、彼女が俺を追放する事など、きっと俺が死にでもしない限り無いのだろう。
だとしたら……。
俺がアリアにしてやれる事はただ一つ。
死んでこの席をトレーユに譲ることだ。
自殺を考えたわけではない。
『守護』の能力の一つに、殆ど知られてはいないが『仮死』というものがある。
オーバーキルの攻撃を受けた際、自動的に仮死状態となり即死を免れるというものだ。
それを上手く使えば。
そんな事を閃いたのだ。
きっとアリアは俺の死屍を越えて、トレーユと共にこの街を旅立っていくことが出来るだろう。
これもアリアの為だと、俺は浅はかにも、そんな馬鹿な事をやってのける事を一人勝手に決めた。
野営する時は、いつ何時モンスターに襲われるとも限らないので、俺は必ず一つ以上はスキルの使用回数を残すようにしている。
でも、その日の夜はアリアが強請るから全部使ってしまった。
「それは下手をしたらハクタカの命に係わるやってはいけない事だ!」
そして、それを知ったローザにアリアが叱られてしまった。
「俺がやりたくてやったんだ。アリアを叱らないでやってくれ」
珍しく強い語気でアリアを叱るローザの前に、俺の責任だと割って入れば
「ハクタカもハクタカだ! これは流石に度が過ぎている!!」
俺もまた一緒になって叱られてしまった。
俺だって本当は分かっている。
本当にダメな事だって。
でも俺がアリアといられるのも、今夜だけ。
俺と別れた後アリアは、このまだあどけなさを残した心優しき少女は、世界の為、己を犠牲にひたすらモンスターを屠って回るのだ。
だからせめて今夜は、アリアの望みを叶えられるだけ叶えてやりたかった。
短い夏の夜が終わり、東の空が白んで別れの朝が来た。
戦闘の途中。
オレはさも油断をした振りをして、構えていた盾を下げた。
目の前には昨日取り逃がし、背後から虎視眈々と俺をねらっていたダークウルフの牙があった。
ダークウルフはこの辺りでは珍しい強い力を持つ魔物だ。
何の防御も無く、無防備に晒した首筋を噛まれればオーバーキルで間違いなしだろう。
アリアはきっと泣くだろうな……。
最初はただ追放(解放)されたくて無責任に甘やかす事にしたというのに。
いつの間にか、ただ誰よりもアリアに笑って欲しくて、アリアに幸せになって欲しくて沢山沢山甘やかしてきた。
それなのに、最後は自分が泣かせてしまう事に胸が痛む。
そんなことを思いながら、俺はゆっくり目を閉じた。




