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【刺激的なスローライフ編】12.催眠

『強奪』のスキルが発動した瞬間、電光石火の勢いで体が何かに引っ張られるようにグンと前のめりに勝手に駆け出した。


カルルの腕を掴むや否やトレーユの背から引っ張り出し、雷撃が及ばないと思われる場所で自分の腕の中に庇う。


その次の瞬間、トレーユを轟音と共に激しい落雷が包んだ!!


……と思ったのだが?



何故か光が消えた後でも、警戒していたそれ(雷撃)は起こらなかった。


少し考えて。

落雷の魔法を唱えたのはニコラのただのハッタリで、実際には目眩しの魔法を使っただけだったのだと気づく。


考えて見れば、『雷撃』の使い手はそれこそ三百年に一人とも言われている。

ニコラがかつてギルマスと……、そして俺の父さんが所属していたパーティーで勤めていたのは攻撃役(アタッカー)ではなく、補助役(サポーター)であったと知っていた俺は、その事に気づけたはずなのに。

突然の、そして迫真のニコラの演技にまんまと騙された。


地味に悔しい。


……が、まぁ敵を欺くにはまず味方からというし。

何にせよトレーユに怪我がなくて良かった。


そんな事を考えながら、トレーユを無意識下でうっかり敵扱いしたことを申し訳なく思った時だった。


「その人に気安く触れるな!!」


トレーユが、そんな俺の反省とは対照的に、完全に敵意むき出しに俺を睨んだ。



カルルを奪還したはいいが、更に怒らせて(冷静さを失わせて)しまった。

完全に悪手じゃないか。

いったいこれからトレーユをどう説得するつもりだとニコラを見れば


「オレ達と勝負しろ。お前が勝ったら皆でお前の計画に協力してやる。でもオレ達が勝ったら、一つオレの言う事を聞いてもらう、どうだ?」


ニコラがトレーユにそんな提案を持ちかけた。



オレ『達』って……


「何でいちいち俺を巻き込むんだよ?!!」


俺にトレーユと戦う理由なんてないんだ。

やるならニコラ一人でやればいいじゃないか!


これ以上は流石に付き合いきれないとニコラに向かい背を向けた、その時だった。


「なぁ、ハクタカ。お前の夢は何だ?! いい加減思い出せ!」


突然、ニコラが俺の背に向かいそんな事を怒鳴った。


今度はどんな手で俺を丸め込もうというのだろうか?


もう疲れたから休ませてくれとの思いを込めニコラを振り向けば、ニコラがこれまでになく真剣な目で真っすぐ俺を見ていたから、俺は思わずたじろいだ。



「俺の夢?」


俺の夢はもちろん


「田舎でスローライフをする……」


「違う!!」


言い切る前にニコラがそう、俺に噛みつかんばかりに怒鳴った。


「お前の夢は『いつか父さんのようなすごい冒険者になる!』だ!!!」



ニコラの言葉に、思わずビクリと大きく肩が跳ねた。


ずっと忘れていたその夢を、脈絡なく突如暴かれ鼓動だけがどうしようもなく速くなる。


「『日に七回しか使えないスキルで強敵と渡り合うのは不可能だ』お前は、自分でそう悟ったのだと思ってるだろうがそうじゃない」


ニコラの思いがけない言葉が続く。


「オレは……お前までもが魔物と戦いで死んでしまうのは忍びなくて……お前が無謀な戦いに挑まぬよう、オレがお前にそう思い込むよう『催眠』をかけたんだ!!」


『催眠』

ニコラのスキル『クラウドコントロール(群集統制)』により扱える魔法の一つ。


ニコラは腕っぷしは強くはないが魔物の軍勢にそのスキルを使い、しばしば戦わずとも格下の魔物を大量に敗走させて見せるのだと、いつだったかギルマスから自慢げに聞いたことがあった。





『俺も行く! 一緒に連れて行ってくれ!!』


母さんの葬儀の後。

告別の為わざわざ遠方より戻って来たニコラにそう言った時、ニコラは俺に何と言って返したのだっただろうか。

そう思い返した時だった。


夕日を背に振り返ったニコラの、逆光で見えない陰に塗りつぶされた表情とパチンと指を弾く鋭い音が、俺の中で突如生々しく蘇った。





「魔物の脅威も去り『催眠』の効力は遠の昔に切れているはずなのに。……それなのに……ハクタカ、お前は何故未だに旅立とうとしないんだ?!」

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