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【スローライフ??編】9.ずっと一緒 (ハクタカside)

「私達は西の港町から船に乗って王都まで戻る予定だ。ちょっと遠回りになるかもだけど、どうせ暇だろう? せっかくだからハクタカ達も乗って行きなよ」


カルルが、まるで自分の船の様にそう言うから、まぁ船旅もたまには悪くないかと思って軽い気持ちでそれに同意したのが全ての間違いだったと思う。


王都は海に面していたから、小さいころから海は俺の遊び場だった。

一方で今住んでいる村は海から離れた所にある。

流石に泳ぐには少し早いだろうが、久しぶりに船釣りをするのも悪くない。

夕飯は懐かしい魚料理にしよう。

そんな食い気()を出したのがいけなかったのだろう。





船と聞いて小さな漁船のようなものをイメージした俺は停泊していた船を見て、やらかしたと密かに頭を抱えた。

目の前に現れたのは、三本のマストがそびえたち、そこに張られた真っ白な帆が美しい、優美で豪華な帆船だったのだ。


小回りを重視したため、決して大きなものではないが、まぁ……トレーユの、仮にも見目麗しい第四王子様の船だもんなぁ……。



先に連絡を受けて待機していたのだろう。

中からはこれまたトレーユの部下と聞いて納得の、きちっと制服を着た一人の騎士が颯爽と降りてきて、トレーユと年寄りの魔導士の姿になったカルルに向かって恭しく頭を下げた。


騎士の名はミストラルと言って、以前魔王討伐の際にこの船の護衛を務めたこともあるのだと、カルルが小声で俺に教えてくれる。


ミストラルはこの辺りでは少し珍しい漆黒の髪と揃いの鋭い切れ長な目が印象的で、まるで人に懐かない黒猫に似ているなと思った時だった。


「アリア! 元気そうで安心したよ!」


ミストラルが突然アリアに向かって眩しく破顔した。

そして、ミストラルはそのままアリアの手を取ると、その手の甲に甘やかに口付け、さも自然に自身の胸にアリアの手を愛おし気に抱いて見せたのだった。







夕飯は希望していた通り魚だった。

魚ではあったのだが……

それは王子様が召し上がるに相応しい格式高い料理(ヤツ)だった。


「今さらだ。細かいマナーは気にしなくていい」


トレーユはそう言ってくれたし、カルルは


「へぇ? 驚いた。意外とちゃんとしてるじゃないか」


と、使うフォークを間違えなかった俺を嫌味ではなく褒めてくれたのだが……



「食った気がしねぇ」


船尾から船底で見つけた竿をコッソリ垂らしながらそう独り言を漏らせば、同意するように肩に乗っていたシューが子猫の様な声で鳴いた。



ちなみに、俺がある程度マナーを心得ていたのは決してお貴族様方とテーブルを囲むために教育を受けたからではない。

あくまで、給仕する側として仕事を習った事があるからだ。


一方で同席を許された、ミストラルは伯爵家の三男というだけあって当然マナーは完璧、アリアの椅子を引いてやる様も悔しいくらいに様になっていた。


そんな事を考えていると、今さらながら昼間ミストラルがアリアの手に口付けた光景を思い出し、胸がムカムカしてきた。


アリアが嬉しそうに、楽しそうに笑う事は何でも嬉しかったはずなのに。

ミストラルが気安くアリアに触れた事も、余りに親し気なあの男の立ち振る舞いも、それに気分を害するでもなく楽し気に笑っていたアリアにも腹が立って仕方がなかった。



「何だよ、アレ?!」


苛立ちのあまり握っていた釣竿を思わずへし折りそうになった時だった。


「そんなに怒気を振りまいていても釣れるものなのか?」


声がしたので振り返れば、水夫に化けたカルルが馬鹿に楽し気な顔をして立っていた。


「いや全く」


そう言ってフンとまた海の方を向けば


「さっさとこっち方面にも本気を出したらどうだ? 本気になれていない奴ほど後で辛い目を見るぞ?」


カルルがシューの頭を撫でながらそう言ってまたニヤリと嗤った。

カルルの言葉に同意するように、シューがブンブン尻尾を振るから、それが頭をバシバシはたいて地味に痛い。


「別にそこまで空腹という訳じゃないんでね」


いろいろ癪に触って、すっとぼけてそう返せば


「何でも卒なくこなす君も、なかなか可愛らしい(臆病な)ところがあるじゃないか」


そう嗤ってカルルが海中に向かって魔法で作ったのであろう、光る小さな星クズを撒いた。

何だろうと思って見れば、次の瞬間光につられた魚が針にかかったのが分かった。



久しぶりの大物を釣り上げる感覚に、一時むしゃくしゃしていた事も忘れ夢中になって糸を巻いたり逃げられないよう緩めたりを繰り返す。

しばらくすると、糸を引く勢いが弱まった瞬間があったから力を込めて竿を思い切り振り上げれば、宙を大きく立派な魚影が舞った。


甲板に上がった大きな魚のしっぽを持って、どうだとそれをカルルの目の前に突き出して見せれば


「ほんと、キミは色恋事以外は何でも器用にこなすよね!」


そう言ってカルルがまた俺の事をディスった。


そしてそんなはしゃいだカルルの声を聞きつけた船員たちが、何事かと少しずつ集まって来る。


カンテラの灯りの元、ナイフで手早く魚を捌けば、誰かが塩やら油やらを持って来てくれた。

シューに頼んで上手い事それを炙れば、周囲にうっかりいい匂いが立ち込め、それにつられた誰かが魚に合う酒を持ってきた。

すると他のつまみも持ち寄る者も現れて、気づけば甲板の上うっかり酒盛りが始まってしまった。



満天の星空の下、ほろ酔いの火照った体に心地よい潮風に目を細める。


夕飯を用意してくれたコックには心底申し訳ないが、残念ながら俺にはこの安い酒とシンプルに焼いた新鮮な魚の方が旨く感じるんだよなぁ。


正直な所、アリアもそうなんじゃないだろうか?

アリアにもコレを食わせてやりたいが、アリアはもう寝てしまっただろうか。


そう思った時だった。

甲板にアリアがひょっこり顔を出した。


「アリア!」


いい気分で手招きし隣に座らせ、詳しい説明も無しに魚を取り分けたものをアリアに持たせる。

するとそれを一口食べたアリアが


「美味しい!!」


と期待に外れず幸せそうに頬を抑えた。


いい気分になって、いつものようにアリアの頭を撫でる振りをして、アリアの長くなった髪に触れれば、カルルがやれやれと肩を竦めるのが見えた。



気のいい船員のくだらない話に腹を抱えて笑った時だった。


「アリア、探したよ。夏とは言え、甲板は冷えるだろう? もう遅い時間だ、部屋に戻ろう」


突然姿を現したミストラルが、そう言って脱いだ自身の上着をアリアの肩にかけると、躊躇うことなくアリアの手に触れ立ち上がらせた。


せっかく楽しくやっていたというのに。

忘れていたムカムカ感が一気に再燃する。



だがまぁ、ミストラルの言う事ももっともだ。

『お休み』

そう言って離れないとと思ったのに……



「行くな」


気が付けば思考とは反対に体が勝手に動いて、ミストラルに手を引かれ、背を向けようとしたアリアの手を強く掴んで強引に俺の胸元に引き込んだ。


そうなると酔いも手伝ってかもうどうにも自分を止められなくて、醜い嫉妬を露わにアリアを腕の中に隠したまま、アリアにかけられたヤツの上着を思い切り投げ返した。



一触即発。

そう感じた周囲がゴクッと固唾を飲んだその時だった。


「やれやれ」


そんな風に呆れ顔を装いつつミストラルがその口角をニヤッと上げて見せた。


この嗤い方……。


はっとして周りを見渡せば先ほどまでカルルが化けて居た水夫の姿はやはりどこにも無かった。



「……嵌めたな」


そうカルルを睨みつけ小さい声で言えば、


「お礼はまた今度でいいよ」


ミストラルの恰好をしたまま、カルルはヘラヘラッと嗤って手を振り他の皆を連れて船室へと引き上げていった。





さて、どうしたものか。

アリアのを離せぬまま途方に暮れ溜息をつけば、アリアが俺の腕の中で小さく藻掻いた後、子猫の様にスポっと顔を出した。


「ハクタカ?」


俺の醜い思いなど、気づきもしないのだろう。

いつもの通り愛らしい声で無邪気に名前を呼ばれ気まずく何も答えらえない。



「……酔ってる?」


そう尋ねられ


『あぁ、そうかも』


そう答えて逃げてしまおうかと思った時だ。


『本気になれていない奴ほど後で辛い目を見るぞ?』


そう言ったカルルの声と、アリアの手の甲に口付けたミストラルの姿が浮かんで来て


「酔ってない」


精一杯の勇気を振り絞ってそう答えた。



それが悪かった。

声に出してそう宣言してしまった瞬間、自分の気持ちを改めて自覚してしまい、思いが溢れてどうしようもなくなってしまうのが分かった。


その苦しい思いを少しでもいいからアリアに分かって欲しくて、でもアリアを怖がらせたりしないよう気を付けてゆっくりその頬に触れれば、アリアの頬に触れた指が、自分の意思を持ってしまったかのように勝手に動いた。


自分の親指がその汚れない唇を無遠慮になぞる様は信じられないくらい卑猥で


「アリア……好きだよ。俺、アリアを守れるようもっと強くなるって誓うから。絶対もう逃げないって誓うから。だから……これからもずっと俺の傍に居てよ」


醜い思いを隠したそんな綺麗事で、今はもうただ触れたいのだと懇願した。







いつか絶対カルルに、こんな場所で煽った制裁を科(お礼を)してやる。


触れ合うだけのキスをした後で、そんな事を努めて考え必死に理性を呼び戻していたら、アリアが不意に目を閉じ俺の胸にその身を預け言った。


「ずっとずっと一緒にいてね」



昔パーティーに居た時、同じような事をアリアから言われた時のほろ苦い記憶が蘇る。


その時の俺は色々な事から逃げてばかりいたから、アリアからそう言われた時、本当はそう言ってもらえたことが嬉しくて仕方がなかった癖にそれに応える事は出来なかった。


でも、今違う。


「あぁ、約束する」


改めて強くアリアの事を抱きしめそう誓えば、無意識なのだろうか?

アリアがほんの少し無邪気さを抑えたあの時より少し大人になった顔で綺麗に笑って見せてくれたから、俺はアリアに気づかれぬよう、こんなところで煽ったカルルを再度心の底から呪うのだった。

最後まで読んで下さって本当に本当にありがとうございました。


ハイファンタジーとは何か、スローライフとは何か、勉強不足のまま設定後付けして書き散らしてしまった事、大変反省しています(/ω\)

でも、このジャンルで書かせていただけたおかげで、初めて男性読者の方からもご感想いただけて

凄く勉強になりました。

お付き合い下さり本当にありがとうございました。



とりあえず完結にはしましたが、『続き書くならこんな風に書くといいよ』『ハイファンタジーはやっぱりヒーローが冒険に出てなんぼでしょ。もし書くなら別の話で仕切り直しなよ』『しつこい恋愛パート部分は余計』などなど、もしよろしければ引き続きアドバイスいただけばとっても嬉しいです。


最後になりましたが、沢山の評価、ブックマーク、そして誤字報告も本当にありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良い感じで閉幕したと思います。 [気になる点] 連載再開と思っていたら、後日談だったような感覚。読み手の好み次第になるので、良いか悪いかは言いきれない部分だと思います。 自分は最終回のとこ…
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