【スローライフ??編】8.ずっと一緒 (アリアside)
帰りは西の港町に向かい、そこから船で戻る事になった。
今回の事件が無くても、もともとトレーユ達はその予定だったのだろう。
街に着けば、以前旅した時にも使ったトレーユの船が既に停泊していた。
「アリア!」
魔王討伐の際に一緒に旅したミストラルが出迎えてくれ、再会を喜び合った。
ミストラルは伯爵家の三男で海軍に所属している。
切れ長で涼やかな目元と黒髪が印象的な青年で、王都では随分貴族令嬢から人気なのだと聞く。
しかし本人は、あの貴族令嬢達特有の、扇で表情を隠した笑い方やキツイ白粉の匂いが苦手なので、こうして王都を離れる任ばかり率先して引き受けているのだという。
その癖、本人は完璧な礼儀作法で、まるで貴族のお嬢様に対してするように私の手を取って小さく口付けて見せたものだから、言っていることとやっている事の差に二人して思わず笑ってしまった。
皆で夕食を取った後、先に自室に戻ったはずのハクタカの部屋の前を通ると灯りが消えていた。
疲れて早々に眠ってしまったのだろうか?
何となく気になってドアをノックするが返事はなく、思い切ってドアを開けてみればそこはものけの空だった。
何となく気になってその姿を探せば、ハクタカは甲板の上、他の乗組員達とお酒を飲んで何やら楽し気に笑い合っていた。
ハクタカは、やっぱりどこでもあっという間に人気者になってしまうのだなと思う。
何となく自分が入り込む余地などないような気がして、声をかけそびれたまま自室に戻ろうとした時だった。
「アリア、おいで」
私に気づいてくれたハクタカが、そう言ってハクタカの横のスペースを指して手招きしてくれた。
気づいてもらえた事が嬉しくて、よくしつけられた犬の様に駆け寄ってしまえば、やっぱりハクタカも同じ様に思ったのだろう。
「よしよし」
ハクタカはそう言いながら、やっぱり犬にするように目線を合わせて私の頭を撫でたのだった。
ハクタカの隣に座り、ハクタカの楽し気な笑い声と話声にどこか夢見心地で耳を傾け続けてから、一時間くらいがたった頃だっただろうか。
「アリア? 探したよ。夏とは言え、甲板は冷えるだろう? もう遅い時間だ、部屋に戻ろう」
私に気づいたミストラルが、そう言って脱いだ自身の上着を私の肩にかけると、私の手を引いて立ち上がらせた。
ミストラルの登場を機に、何人かは持ち場や寝に戻って行った。
しかし、何人かはまだその場に残る事に決めたようで
「おやすみ」
そうほろ酔いで私に向かって手を振った。
ハクタカを見れば、彼もまだ部屋に戻る気はないようで、まだ手にお酒の入ったカップを持ち片膝を立て座り込んだままだった。
何となく、またその事を寂しく思った時だった。
不意に私の手を掴んでハクタカが言った。
「行くな」
酔っているのだろうか?
触れられたハクタカの手が、いつもより熱い。
「アリア、ずっと一緒に居よう。もっとこっちにおいで」
そう言ってハクタカが、また私に向かってトパーズの瞳を柔らかに細めてその腕を広げて見せるから……。
気が付けば、私はミストラルの手を振り解いて、ハクタカの腕の中に飛び込んでしまった。
真っ赤になってしまっていたのが分かっていたから、しばらく顔を上げることが出来なかった。
そうしているうちに、回りが気を利かせてくれたのだろう。
気づけば甲板の上には私とハクタカだけになっていた。
長い事ハクタカは黙ったままだった。
酔いが回って眠ってしまったのかと思ってゆっくり顔を上げれば、真っすぐこちらを見ていたトパーズの瞳と至近距離から目が合った。
「ハクタカ?」
どうしたのかと思い名前を呼ぶが、ハクタカは堅く口元を引き結ぶばかりで何も答えない。
「……酔ってる?」
「酔ってない」
その質問にはきっぱりはっきり返されて困惑する。
じゃあどうしたと言うのだろう?
そう思って首を傾げた時だった。
ハクタカがゆっくり私の頬に触れた。
「アリア……」
ハクタカがいつもより少し低く掠れるような声で、唇が額に触れてしまいそうな至近距離で優しく、でも彼がくれた星型の蜂蜜の飴のように甘く甘く私の名前を呼ぶ。
「アリア……好きだよ。俺、アリアを守れるようもっと強くなるって誓うから。絶対もう逃げないって誓うから。だから……これからもずっと俺の傍に居てよ」
ハクタカの言葉が嬉し過ぎて、声を出してしまえば泣いてしまいそうだったから、代わりに思いが届くよう必死になって何度も何度も頷けば、そんな私の反応が可笑しかったのだろう。
ハクタカがまた優しく目を細めてクスッと笑い声を漏らした。
ところで……。
ハクタカの言った『好き』と、私のハクタカに感じている『好き』は果たして同じものなのだろうか?
ハクタカの言葉に思わず舞い上がってしまったが、ハクタカの言う『好き』と『傍に居て』欲しい気持ちは、これまでと何ら変わらない、飼っている犬に向けるようなものではないのだろうか??
そう思って勝手にまた落ち込みそうになった時だった。
ハクタカが頬に触れていた右手の親指で、そっと私の唇に触れた。
優しく顔を上げさせられ、やさしく視線を合わせられる。
『いい?』
声に出さず唇の動きだけでそう問われて、改めてハクタカの『好き』の言葉の意味を知った。
「うん」
消え入るような声でようやくそれだけ答えれば、その瞬間強く抱き寄せられ唇が重ねられた。
触れるだけ、吐息が重なるだけのキスなのにどうしていいのか全然分からなくて……。
私もずっとハクタカと一緒にいたいと思っているこの気持ちの、千分の一でも彼に伝わればいいなと思って、彷徨わせていた手で鏡の様にハクタカの左の頬に触れた。
すると、その思いが伝わったのか、ハクタカが初めて、いつもの大人びた表情を崩して子どもみたいに無邪気そうに笑ったのだった。
そんなハクタカの本来の笑顔が見れたことが嬉しくて、その胸に頬を寄せ
「ずっとずっと一緒にいてね」
そう言い、幸せが零れてしまわないように目を閉じた。
すると、ハクタカは
「あぁ、約束する」
そう言って、まるで二度と離れてしまわないようにとでも言うように強く強く私の背中を抱きしめてくれたのだった。
最後ハクタカside投稿予定です。
終わる終わる詐欺になってしまいすみません( ;∀;)




