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1.田舎でスローライフを送りたいのだが?

オレの夢は田舎でスローライフを送ること!




若い癖になにジジ臭いこと言っているのかって?


……そりゃ俺だって昔は


『いつか父さんの様に(すご)い冒険者になるんだ!』


そんな夢を見ていた。



俺のスキルは所謂(いわゆる)『ユニーク』と言われているもので、その名は『親の七光り』。

一日に七回のみ、親の持っていたスキルや力を自分のものとして使う事が出来る。



俺が小さい時、王都を魔物の群れから守って死んだ親父は王都で最強と(うた)われたパラディンだ。


だから子どもの時は、そんな親父の力を使えた俺は子ども達の中で正真正銘(しょうしんしょうめい)最強だった。



でも……。



日に七回しか使えないスキルで強敵と渡り合うのは不可能だ。

俺は大きくなってすぐ、そんな事を悟ってしまった。



そこで、夢破れた俺は十八になったら王都を離れ、田舎でスローライフを送ろうと決めた。

僧侶だった母も、八年前の流行り病で亡くしている。

両親に変わり俺の面倒を見てくれた街の皆には恩を感じてはいるが、王都自体に未練はない。



色んなスキルに特化した人間が多く集まる王都では大して役に立たない俺のスキルだが、田舎(いなか)に行けばそれなりに役立ち重宝(ちょうほう)されるのではないか。


そんな打算もあった。


上手く行けば最近流行(はや)っている芝居(しばい)のように、(おもむ)いた先の田舎で助けた不遇(ふぐう)な美少女達と悠々自適(ゆうゆうじてき)のスローライフ……

なんて美味しい展開も起こりうるかもしれない!



それ故、俺は楽しい都落(みやこお)ちの日を指折り数え待ち望んでいたのだが?



王都を離れる前に、親父の戦友であったギルドマスターのコネで国最強のギルドに無理矢理に席が用意されてしまった。


そして事もあろうに、ギルマスのゴリ押しにより、問答無用(もんどうむよう)で勇者パーティーに組み込まれることとなってしまう。



あり得ない。





「使えない奴め!!」


そう言われてパーティーをクビになった『はずれ』スキル持ちが、命を落としかねない事態になった際、偶発的にスキル発動の特定条件を満たし、むしろ『あたり』スキル持ちであると見いだされる。


そして縁の下の力持ちを失い落ちぶれていく旧パーティーより、後に戻って欲しいと懇願されるも


「今さら何を言っているんだ?」


とサラッと断って報復ざまぁを果たす。





最近そんな小説がここ王都で流行っているのは知っていたが、ギルマス、それの影響を受けて俺のはずれスキルを『あたり』認定するのがいくら何でも早すぎないか?


青田買いの時期尚早にも程がある。



小説は小説だ。

いくら期待されても、俺のスキルにまだ知らぬ発動条件何て無い。

命を落としかねない事態に遭遇しても、きっと俺のは『はずれ』スキルのままだというのに。



あぁ、俺の美少女達とのスローライフが……。





でもまぁ、そこまで焦ることもないかと気を取り直す。

切り替えの早い所が俺の数少ない長所の一つだ。



どうせすぐに小説の出だしの様に


「はずれスキル持ちの(くせ)に勇者パーティーに居座(いすわ)ろうなんておこがましい!」


とか何とか、どこかからクレーム(アシスト)が来て体良く追放(かいほう)してもらえるだろう。


そして俺はスキルの真の効果が発動される事も無く、無事当初の予定どおり生涯田舎でスローライフを送るのだ。




そう(たか)(くく)っていたのだが?





「……よろしく」


パーティーメンバーの僧侶と戦士に促され、渋々といった様子を隠さずにそう言った勇者は、俺より二つも年若い女の子だった。



少し(くせ)のあるやや赤みが強い栗色の猫っ毛に、リスか何かの小動物を思わせるクリっとした大きなアンバーの瞳。


彼女は名前をアリアと言った。



「気を悪くしないでやってくださいね。アリアは昔、別のパーティーにいた時、足手まといだからと森に置き去りにされて死にかけた事があって……。それ以来、あまり人と関わりたがらないの」


そうアリアの事情を教えてくれたのは、パーティーメンバーのレイラだ。



青みがかった長い黒髪に、母なる海を思わせるマリンブルーの瞳。


二十そこそこという年齢の割に落ち着いていてたおやかな雰囲気のする彼女の職業は僧侶で『再生』のスキルを持つ。

しかし、戦闘ではアリア達が強くて特にやる事が無い為、主にアリアの世話を焼いてやっているらしい。



「女の子を一人森に置き去りにした?」


レイラの話に、俺が思わず(まゆ)(しか)(けわ)しい顔をすれば


「アリアの事を置き去りにした奴等(やつら)はその後、無謀(むぼう)な戦いに(いど)み全滅したと聞いている。(ばち)が当たった訳だ。……だからそんなに怖い顔をするな、アリアが怖がるだろう?」


レイラと並びアリアを守るように立っていた、燃えるように赤い髪と(そろ)いの瞳をした背の高い女の人がそんな事を教えてくれた。



彼女の名前はローザ。


年もレイラと近く、女性らしい凹凸のある体つきをしている彼女は、意外にもタンク役もこなす『破壊』のスキルを持った戦士なのだそうだ。



俺が自己紹介を済ませ


「ハクタカだ、よろしく」


そう言って手を差し出せば、ローザもレイラも(やわ)らかく笑って


「こちらこそ」


そう言いながら握手(あくしゅ)を返してくれた。



おいおい、そこは


『何だと?! ギルマスの紹介だから期待したというのに、とんだはずれスキル持ちじゃないか!!』


と俺を罵倒(ばとう)しながら俺を追放するフラグを立てる絶好(ぜっこう)のチャンスだろうに。


何だよ、みんなそんなにテンプレ小説が好きなのか?


ビビらずとも俺が化けることなんてないんだぞ??

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