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『まて』をやめました 9

このお話は、日記がキーワードになっている。

私には書けない、細かい描写の日記が気になりますね。あくまでもクラウディアさんが書いた日記です。



あの混沌とした訪問から5日後、再度訪問を許されて通されたのは、前回とは違い涼やかな風が通る屋外、離宮の庭園だった。

花も咲いている中、緑が多い箇所にパラソルが立てられ、そこに用意されたお菓子とお茶。

前回は薬草茶が出されたが、今回は普通に紅茶だった。

いや、違う。普通よりもおいしい。柑橘のフルーティーで爽やかなフレーバーティー。しかも最高級の茶葉を使っている。

レティシア様のお気に入りだという。


今回は、お父様は仕事の都合でお城の中にはいるのだけど離宮までは来れなかった。その代わりにジェイクが付いてきてくれた。

ジェイクは、ヴィクター殿下とは勿論顔見知りだ。クラウディア以上に会う機会があったらしい。しかし、惚気は聞いてもらえなかったらしく、クラウディアが登城する日を殿下はいつも見張っていたらしい。


しかし、ジェイクはヴィンセント侯爵のやり方とエドワードのクラウディアを蔑ろにするのを見てヴィンセント侯爵家で一括りにして嫌悪感があったらしく、最近までレティシア様にも好意を持っていなかったらしい。

最近とは、勿論、クラウディアを治療してもらうまでだって。


そして私は今回も邂逅一番に、人生二度目のスライディング☆土下座で謝りました。

たぶん前のクラウディアはしたことないはず。


いくらヴィクター殿下を焚きつけるためとはいえ、あまりにも不敬な態度だった。

幼馴染の誼で許されても、周りが黙っていないだろう。

家に帰って冷静になればなるほど、青ざめてお父様に迷惑がかかってしまったらどうしようと不安になった。お父様もやりすぎなところもあったが返って物事がうまくはこんだようだし、それにこのくらいで揺らぐザリエル伯爵家ではないと優しく慰められ、お母様もジェイクも笑って許してくれた。


うわ~~ん、なんて優しい家族なのぉ。


ただ、もうこんなのはやめてくれとは言われたけどね。

はい、二度目はないです、ハイ。


まあ、何でも飛びぬけて突拍子もないことがあると、なんだかんだと落ち着くものだ、と思う。

今回は、本当に落ち着くところに落ち着いてよかった。

雨降って地固まるじゃないけど、ヴィクター殿下とレティシア様の仲が良好になってよかった。

ヴィクター殿下に至っては、恥ずか死ぬような長年の恋煩いの拗らせ具合を想い人に暴露され開き直ったのかデレデレの溺愛具合だ。

今でもヴィクター殿下のレティシア様の見つめる眼差しは熱いし、レティシア様は、恥じらってるし・・・、うはっ!頬を染めて恥じらう女神様。色気が半端ない。美しいオーラで、ここがただの庭園じゃなく天界と錯覚しそう。

わたしの頑張りは無駄じゃなかった。



って、やっぱり私、キューピットだったんじゃない?


あっ、ヴィクター殿下が睨むから口に出すのはやめとこ。

なんでかな?周りのみんなに心の中を読まれてる気がする。


「お前は、顔に出すぎなんだよ。」


また読まれた私は、ヴィクター殿下の声にむぅっとなってしまう。


「まあまあ、姉様の素直なところは美点です。

淑女の仮面をかぶらないといけない貴族社会の中において、気を許していると言うことなのでしょう?」


弟であるはずのジェイクがまるで年上のように慰めてくる。

うっ、うれしいけど、なんだか解せない。

わたしが姉のはずなのに・・・


「それにしても、記憶がないのは本当にしてもマナーはある程度できるんだな?」


4人ともがテーブルに着き、よくできた侍女が素早く新しいお茶を入れてくれる。

それに舌鼓を打ちながら話を向けてきた。

お茶を嗜む仕種といい、改めて挨拶をしたあの体幹を使うカーテシーも頭じゃなく体が覚えていた。


「そうよ。」


いや~、役者だったなぁ。


体の記憶にくわえて、お城に上がる作法はきちんとおしえられた。そして、やろうと思えばできる。

日本人の常識的に、“郷に入っては郷に従え”という様に割と周りに習うような性格だったようだ。

実際に私の思考的にも、偉い人の前で無様なことや失礼なことがないようにとかなりヒヤヒヤだ。あの時は頑張ったんだから!

今回、『記憶がない』という免罪符を使えるたった一回のチャンスだと思って頑張った。

その成果が今回のお招きにつながった。


聖女様のレティシア様から()()()()人なんていままでいなかったらしい。


次期王妃という立場から、お茶会などを主催することもあるらしいけど、それはあくまでも王室からの招待であって王城の決まった箇所で行われるらしい

今回は、聖女レティシア様のプライベートである離宮に招かれたのだ。

しかも来客用に決まった応接室でない、完全プライベートな庭園。

本当は、室内のサロンを用意していたのだが、私たちが来ることを聞いたヴィクターが久しぶりに手合わせをしたいと言って外になったのだ。


そう、手合わせ!


自宅以外で剣を振るうのは今までしなかったらしいが、幼い頃は城の広場でよくしていたそうだ。

そして私も目覚めてから、自宅で運動がてらジェイクと手合わせをしている。


ザリエル家は外交一家で、他国に行くことがおおい。

それこそ、未開の地や敵地に交渉に向かうこともあるくらいだ。

お父様本人はもとより、家族全員、使用人に至るまで全員剣術と護身術は習っている。

家族は、万が一攫われて交渉に使われることがないように代々剣術を習い、みんなそれなりの腕前だ。

それはクラウディアも例外なく、幼少から自家の護衛メイドに遊びなから刃物の扱いを習った。ボール遊びより早くに習ったとか?

冗談でしょ?って、アハハッと笑いながら聞いたらみんな揃えて事実だと真顔で言われたときに響いた私の乾いた笑い。儚げなお母様の見事な剣捌きを見せられ唖然とした。

さらには、ものは試しと言われて渡された細身の剣を握った感触がしっくりきてびっくりした。

私についている護衛メイドは、クレアといい。幼少から剣術を教えてくれた人だそうだ。

そのクレアに言われるがまま剣を振るうと、あら不思議。

細身の剣をしならせて、体が覚えているのか腕や肩から腰から背中、足に至るまで無駄なく体が動く。華奢で可憐なお嬢様にしか見えないクラウディアが、クレアが繰り出す剣に難なく対応する。

頭で考えるよりも、体の方が先に動いてしまう。

正しく体が記憶していて、勝手に動くと言うのが正解だった。

それから、時間があると剣を振るい、体的にも精神的にも健康になった。


話は逸れたが、レティシア様はもちろん、ヴィクター殿下にも許されたからこうして親しくさせてもらえているのだ。


「さすがにあれは・・・驚いた・・・。もう、終わったことだからこれっきりで言わんが・・・・・・、まぁ、なんだ、・・・ありがとう。」


ヴィクター殿下は、まっすぐな瞳で少し照れて感謝を口にした。


「わたくしからも改めて言わせて、

本当にありがとう。」


そしてレティシア様からもお礼を言われ、さらに頭まで下げられた。


「いえいえ、いいんです。

記憶がないからこそできることだったし、私も日記というよりなんだか恋愛小説を読んでるみたいでしかも未完成の。早く結末が見たいなぁって思っちゃってしたことです。」


そう未完成の恋愛小説のように、クラウディアの目から見て両片思いに見えていた。

書かれているレティシア様とは、王城でのお茶会で会うことしかないが、周りの人々からの忠告や嫌味、それに少ししか交わしていない言葉からレティシア様は、ヴィクター殿下のこと好きなんじゃない?って思っていた。そしてヴィクター殿下に至っては言わずもがな、気持ち悪いくらい好きなんだとわかる。

もうなんでこの二人がすれ違ってるのか、ヴィクター殿下が100%悪い。

ヴィクター殿下が変わればすべてうまくいくのになぁ・・・

で、終わっていた。


そこで私がいい起爆剤になって、物語を進めた。

勿論、現実異世界だから、こちらの思惑通りに動くとは限らない。

でもその道筋を敷くことはできる。そこで転換期となるスパイスを振ることで物語が進むのだ。

その後はどう転ぶか、それは神ぞ知る。


今回は偶々うまくいった。

それは否めない。

下手をすれば、私が咎められるだけならともかく、ザリエル伯爵家に迷惑をかけるし、二人の仲がこじれると言うこともあったかもしれない。

でも私には、勝機があった。

それはこの日記だ。

これを見てもらえさえすれば、きっとわかってもらえると思った。

ほんの少しでも歩み寄りをしてもらえば、きっといい分岐点になるはずだと確信していたから・・・


「結果善ければすべて善とは言いますが、たまたまヴィクター殿下がいらしたから好転したと聞いています。

姉様の駆動力は良かったと思いますが、万が一間違えば騎士殿につまみ出されていたのですよ。」


うむぅ~。

そう言ってジェイクの視線の先には、今日も背筋ピーンの姿勢でレティシア様の後ろに控えているのは女性騎士様。

赤と橙のまだらな髪を首の後ろで一つに細いリボンで括る騎士様。

20代半ばと思われるその人はきりっとした鋭い目を持つ。女性らしい体を隠すような騎士服に身を包み、騎士らしく腰には細い剣を下げている。


「あらっ、ミリアムはそんなことしないわよ。」


そう言って朗らかに笑うレティシア様だが、日記を見せた始めのあの室内の殺気。その最大の出どころはその騎士様からだったですよ。

レティシア様ににっこりと微笑む騎士様。

何か思うところがあるのか、ヴィクター殿下は乾いた笑い声を漏らし、それを横目に思わずため息の様な、大きな息が漏れた。


はぁ~・・・


「どうした?」


声をかけてきたのはヴィクター殿下だが、隣で同じような顔をしてこちらを見るレティシア様。

さらにはジェイクも。


「いいえ、ん~、なんていうか、こうお二人が仲良くなったし、私の方もそろそろどうにかならないかなぁと思いまして・・・」


私のこと。

つまりは私とエドワード様の婚約解消についてだ。


お母様に話したその日の夜には、お父様に話して、その手続きに現状を侯爵家に手紙を送った。

体は少しずつ回復しているが、記憶がなく今まで学んだことをわすれて、貴族令嬢として表舞台に出ることが困難なため、婚約を白紙にしたい旨。

しかし侯爵様もエドワード様も辺境伯様の領地へ視察へ行かれていると返事をもらい保留のままとなっている。

お父様は、辺境伯領と聞いて何か気が付いたようだけど、しばらく時間がかかるかもといわれた。


相手がいないと話もできない。

しかし、私にはやりたいことがある。

そのためにも早く婚約を解消したいのに・・・


「ああ、あれかぁ。」



「・・・・・・」


ヴィクター殿下は、眉を寄せしかめっ面でレティシア様は、悲しげな顔をする。

結局あの日持ってきた日記は、レティシア様にかしだしていた。一応今日3冊ほど持参しているが、他のはもういいと言われてしまった。

そんな、恋愛小説を中抜けで読むなんて面白さが半減だろうになぁ。

まぁ目の前で、リアル恋愛小説の続きを囁かれているのだろうし、見たくなったら言ってくださいね、と言って引き下がった。

日記には、ヴィクター殿下の惚気が書いてあったがそれは全体のごく一部。殿下に会った日だけ書かれている内容のだから、多くて月一くらいの割合。

日記に主に書かれているのは、エドワードへの賛美と会った日の様子が事細かに、それこそ飲んだ紅茶の銘柄、飲むスピード、何口で飲んだか、咽喉仏の動き、座ったソファーの位置、沈み具合など・・・はっきり言って変態かと思うようなことばかりが書かれていた。

まあ、会っても会話らしい会話をしていないから鑑賞するしかなくって、それを細部にわたるまで書き記したという恋心からくるものなんだろうな。

もちろんそこには、エドワードが何を言ったか書かれている。

エドワードのしゃべる言葉は、少ないからおそらく本当にすべてを書かれているんだろうなぁ。


なにせ、エドワードと挨拶しか交わさなかったという日も多々あったくらいだから。

挨拶以外は、ほとんど相槌だ。

んで、向こうから話しかけられるのは、ほぼ苦言。

もっと静かに、もっと大人しく、お城や外にむやみに出歩くな、お茶会では存在感を消しておけというような内容だったなぁ。

そういえば、最近のは夜会へのエスコートができないから参加をやめるように言われていたな。

一緒に出ても、ファーストダンスを踊ることなく会場の端に連れていかれ、そこから一歩も動くな喋るな気配を消して迎えに来るまでいるようにとかもあった。

かなりひどい内容だ。

それを恐らくは見ているんだろうな、レティシア様も殿下も・・・


今の私は、それに傷つくとかない。

けど前のクラウディアは、言う通りにしていればエドワードから褒めてもらえると思っていたのに、実際は違った。

私は、前のクラウディアが主人公の読みものとして見ていて歯がゆい気持ちでいたから、さっさとエドワードとおさらばしたいのよね。


二人は読んでどんな感想を抱いたのかな?




読んで下さりありがとうございます。

もしよろしければ、ブクマ、☆評価を戴けると嬉しいです

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