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『まて』をやめました 7

もっと暴走します。

クラウディアさんはもう止まりません。

自称キューピッドな暴走クラウディアさんです。



ドキドキ・・・


胸の鼓動の音が周りに聞こえているのではないかと思うほど緊張の時間だった。

日記を見てもらうなんてと、お父様たちはみんな反対されたけど、口頭で伝えても絶対伝わらない。

一種の賭けだった。


昔の私よ、貴方の文才は素晴らしい。


目の前で静かに長い睫で影を作った美しい瞳が文字を辿って動いている。その文字を追っていたその瞳が突如大きく見開いた。

そしてみるみる頬が赤くなり、白魚のような細い手が口を覆い、小さく嘘っ・・・と声が出た。

瞬きの回数が増えて、ますます赤くなり清涼な青い髪の間から見える小さな耳まで赤く色づいていた。


私の予想は当たった。


レティシア様の大きな瞳はうるんで日記の一文を繰り返してみているようだった。


「このヴィクターという方は王弟殿下と聞きました。

偶にしか会っていなかったようですが、あえばレティシア様のことを惚気られていたみたいで・・・」


レティシア様に見てほしかったのは、ヴィクターの惚気、しかも本人に一切それを言えないというヘタレな男の惚気だ。


クラウディアはエドワードの、ヴィクターはレティシア様のお互い好きなところを語り合っていたようだ。

このヴィクターという王弟殿下は、クラウディアとは幼馴染で一時期婚約者候補でもあったらしい。

しかし、クラウディアがエドワード様と婚約してからは、一定距離を置くようになった。

そしてクラウディアから遅れること数ヶ月後、今度はヴィクターがレティシア様と正式に婚約した。

お互いに婚約者ができるまではジェイクも交えて兄妹の様に交流をしていたというのに、婚約が決まってからはクラウディアだけは外されてしまった。

ヴィクターは、レティシア様の事が好きな癖に超絶美人なレティシア様を前に何も言えず、そっけない態度しかしていない。しかし心では、とても好意を寄せていた。しかし、5歳のやんちゃな男の子は、好きな女の子に好きという術を知らない。

そして、それはそのまま年月が流れて拗れたままになっていた。


なのに!

なのにだ!

幼馴染のクラウディアには、レティシア様の好きなところが口から息をするようにスラスラ紡がれる。

そして、クラウディアも普段聞いてもらえないエドワード様の話をヴィクターなら聞いてくれることからあえば、お互いに吟遊詩人も真っ青なほど賛美して謳いあげるのだ。


クラウディアは隙さえあれば、誰彼構わずエドワードを賛美したい、しているのだが、ヴィクターは思春期の男の子らしく、恥ずかしさから誰にも言えずに寧ろぶっきらぼうに接していた。

周りはヴィクターの恋心など、ほとんどの人が知らない。

ヴィクターの周囲は、レティシア様のことを疎ましく思っているのではないかと勘違いしていた。そんな態度は5歳から変わらずで、レティシア様自身も、そう思って歩み寄りを諦めている節もあるという。

周りがその状態を黙っていない。その矛先が、良くも悪くもクラウディアに向けられていた。


ヴィクターとクラウディアは、少ないが偶に父について登城したときに会うことがある。それは必ず密室にならない、護衛騎士も侍女もいる中であってお互いにヴィンセント姉弟について熱く語り合っているだけなのだが、何故か恋敵だと誤解されていた。

クラウディアは兎も角、ヴィクターの想い人はクラウディアだと。


同席している騎士や侍女にきけばわかりそうなものなのにと聞いたら、お城勤めの騎士や侍女はそこで見聞きしたことを安易に漏らしたりはしないとのこと。


だから余計な誤解が生じていた。


そして今回、毒を盛ったお茶会の家人は聖女への崇拝が厚い家系らしく、それが原因とみられる。

あと他にもあるらしいが、おおよその大部分を占める理由としては其処だろうと言われた。


でっ、今回その誤解を解きたいと思った。


何せお城から帰った日の日記には、これでもかとヴィクターのレティシア様の惚気を聞かされた。その内容が事細かに記されておりまるで恋愛小説を読んでいるかのような甘酸っぱい青春の一コマのような記述がされているのだ。

もう、前のクラウディアすごい!

あんた、文才あるよ!

これ見たら、どれほどヴィクターがレティシア様のことを愛しているか、備にわかるだろう。


それを読んだレティシア様の現在が顔を真っ赤にしている状態である。


「えっ、そんな・・・」


愛らしいその一言に尽きるくらい。

所在なさそうに後ろにいる女性騎士に視線を送るが、騎士様も困惑気味だ。

恥ずかしそうにする姿の愛らしいこと。

抱きしめたい衝動に駆られ悶える。


「あの、よければその日記お貸しします。他にもあるので、また持ってきましょうか?」


「あっ、えっ、でも・・・」


さすがに人の日記を手元に持っておくのは・・・と小さくつぶやいているが、それでも内容にかなり興味深々な様子。

今日は一冊だけ持ってきた。

何せ入室のときに、荷物検査があってあんな何十冊もの日記帳を持ってくるのはさすがに嵩張るし、読んでもらえるかどうかもわからなかったからだ。

他のも似たり寄ったりだけど、自分のことを書かれているなら内容が気になるだろう。


ヴィクターの内容は、全部惚気だけどね・・・



「クラウディアが来ているって本当か!!!」


日記帳を胸に抱いて、それじゃぁ・・・とレティシア様の出した小さな声をかき消すような大きな声と共にバッターンと開いた扉。


開かれた扉から眩しい光が・・・ってか、チカチカする。


キンキラキンのエフェクトをまき散らす男が一人。

着ている服も、宝〇歌〇団の男役王子様の衣装のようなキンキラキンだし、男の頭もキンキラキン、もひとつおまけに瞳もキンキラキンだわ。

何処の成金じゃ?


「ヴィクター殿下!」


部屋のみんなが同じようにビシッと立ち上がり礼をする。

その中をキンキラキンが中に入ってくる。


私はポッカーンっとまたまた呆けて見入ってしまった。


背は高い方、体もがっしりしているほう?

華美な服装で分かりにくいけど貧弱そうではない。

みんなは、このキンキラキンをヴィクターって言ったけどクラウディアと同じ年だよね?

でもさぁ、顔つきが、なんていうか・・・


「老け顔?キンキラキンだけど・・・」


思わず漏れた私の声を室内皆さん、もれなく拾ったらしい。隣のお父様は苦渋の顔、レティシア様の後ろの女性騎士は、笑うのを堪えているのか肩が震えている。

そして勿論、私の前まで躊躇なくやってきた老け顔キンキラキンの他称ヴィクター殿下も聞き取ったらしい。というか、正しく聞いたよね。


「・・・はぁ?久しぶりに会ってそれか?

心配してたってのに・・・お前は相変わらずだなぁ。」


よく考えると、本当に王弟殿下なら結構な暴言だというのにニヤニヤと笑うキンキラキン。

あっ、笑うと結構幼いかも?

あんな暴言を笑ってながすなんて、・・・・・・(マゾ)かな?


「・・・なんか、失礼なこと考えていただろ?」


何やら感じ取ったのか、胡乱な目でこちらを見る。

そんな表情をすると老けて見えるよ。

まあ、老けて見えると言ってもおじさんっぽいってことじゃなくって、なんていうのか20代の役職についた人みたいな?責任感が顔に滲み出てる人っていうのかな?

あっ、顔の造形は良いよ。美形だよ。

でも美形の中の美形が同じ室内にいると、普通の美形は、普通の人になっちゃうよね?


というか私は、この人が本当にヴィクター殿下なら聞きたいんだけど?


「えっと、貴方がヘタレのヴィクター、殿下?・・・ですか?」


「・・・おい、何言ってんだ?」


何とか忘れずに敬称だけは付けたぞ。

目の前でピシッと固まるキンキラキンヴィクター殿下。


「私、言いたいことあるんだ、です。」


にっこりと笑ってすぅっと一呼吸置く。

隣のお父様は、やばいって顔してるけど、会ったら言うって言ってたし、今言ってもイイよね?


「男なら、好きなら好きって言いなさいよ!このっ、ヘタレ!!!

あんたのせいで毒盛られたでしょうが!!!!!」


言いたいのはこれだけ。

まったく、人を巻き込みやがって。


目の前のヘタレキンキラ老け顔ヴィクター殿下は、ポッカーンとおまぬけな顔で固まってる。


「私、毒の影響で記憶がなくなったんです。貴族のマナーっていうのも、家族の顔さえも覚えていません。日記を見ながら日々、確認してるんです。

んで、今、レティシア様に日記を見てもらっていたんですよ。

ほらっ、私がお城に来るたびにレティシア様について惚気られているっているあれを。

殿下って、レティシア様が初恋なんですね。なのに5歳のときに失敗しちゃって拗らせたまま、クラウディアにしか恋心を話せなかったんですね。

まったく、どうしようもないヘタレなんだから。

ねっ、だから、レティシア様にバレちゃったんだから観念して拗らせた初恋をどうにかしたらどうですか?」


さっきと、うってかわってなるべく笑顔で、なるべく落ち着いた声を心掛けて中々失礼な内容をぶっちゃける。

だって記憶がないんだもん。っで、まるっとすべて許してもらおうとする私の本音が丸見えの言葉にハクハクと何も言葉が出てこない様子のヴィクター殿下。

何か言うのをあきらめた殿下は、ギギギッと音がしそうな動作でレティシア様の方を向く。

レティシア様が赤い顔で両手で胸に抱かえるように持っている本。

件の日記帳とわかったのだろう。


ぶわわわっと一気に顔が、いや首まで赤くなるヴィクター殿下。


「こうなったら腹を括りましょう!

男でしょ!!!」


思わずバシッと壮麗な衣装の背中をたたいてしまった。


「クラウディアっ!」


本日何度目かの、一番本気なお父様の叱責が飛んできます。


そんなに強くたたいたつもりもないのだけど、なぜかたたらを踏み前のめりに倒れこんだヴィクター様のそこが偶々レティシア様の前で・・・


くぅぅぅぅぅっ!


なんだ。

顔を上げた二人が同じように真っ赤な顔をしてさぁ。

すっぱっ!

甘酸っぱい!!!

初恋は檸檬味っていうやつ?

もう、見つめ合っちゃって・・・

抱きしめちゃえっ!


ワクワクして見守っていたのがバレたのか、ギュンっと振り向いたヴィクター殿下の顔は、赤い顔だけど甘い要素はどこにもなくって、


「お前っ!」


地を這うような声で怒った形相のそれは鬼のごとく?

あれっ、怒らせちゃった?


私キューピットだと思っていたのに・・・


後は言葉を為していない怒鳴り声のヴィクター殿下をとりなしたのは、チョンと殿下の袖をかわいらしく摘まんで引っ張ったレティシア様でした。




やっぱり女神様だわ。





読んで下さりありがとうございます。

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