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番外編4 父はずっと『まて』をしています


私は、クルーガー伯爵3番目の子供で二女として生を受けました。

上には姉と兄、下にも弟と妹がいてわたくしは、5人兄弟の真ん中も真ん中でした。幼いころは、レティのような人見知りの激しい子ですぐにお母様のスカートに隠れる大人しい子と周りに言われていたわ。それでも、5歳から始まった淑女教育で何とか様になったいったのよ。人前に出るときだけの張りぼてのようなものだけどね。

12歳にわたくしたち5歳~15歳の子供たちを集めて陛下のお披露目があったの。勿論、陛下はその頃まだ5歳のかわいらしい王太子殿下でしたわ。

うふふっ、妃殿下も覚えておいででしょ?陛下と王妃様の運命的な出会いでしたものね。

幼いお二人が会った瞬間に手をつながれて東屋に籠ってしまって、本当にかわいらしかったのよ。

あらあら、このお話はいいのですか?

わたくしの話?

そうですね、話を戻しますわね。

その時に、わたくしも運命的な出会いをしましたのよ。えっ、お父様にかですって?

うふふっ、あのね、運命的な出会いと思ったのはわたくしだけでしたのよ。

当時のザリエル伯爵子息にわたくしは恋をしてしまいましたの。

そうよ、クラウディアさんのお父様のザリエル伯爵。あの頃は、14歳の素敵な貴公子でしたわぁ。今も勿論素敵なかたですけど、あの頃はそれはもう、陛下の前で申し訳ございませんが少女たちの思い描く王子様そのもので・・・

誰にたいしても微笑を浮かべて優しい言葉を、身分の隔てなく声を掛けていましたわ。

わたくしにも声をかけてくださり、楽しい会話をしましたの。人見知りのわたくしが、初めて会う人と笑顔で話していたと、一緒にいた兄弟たちが驚いたくらいです。わたくしもあの時はわたくしがお姫様になった気分になったのよ。

あの方は、わたくしが緊張でうまく話せなくてもゆっくり待ってくださって内容もつまらないものなのに微笑んで・・・わたくしが花が好きと言ったら、王宮の花なのに手折ってくださったのよ。ああ勿論、事前に陛下の許可をもらっていたらしいわ。

わたくしにとっては、忘れられない一日になったの・・・・・・、あれはわたくしの初恋でした。

あら?お父様?

あの人は、前陛下の傍に侍って一時も離れなかったはずよ。記憶にないもの。

でもその後、すぐにヴィンセント侯爵家から婚約の打診があって・・・

わたくし自分で言うのもなんですけど、家族の中で一番かわいらしいと言われていて。絶世の美女と言われたおばあさまに瓜二つと評判でしたのよ。

幼いころはそんなこと気が付いていなかったけど、わたくしのお父様は野心が強い方だったみたいね。わたくしのこの見た目に、ヴィンセント侯爵家から婚約の申し出があったと言って堂々とわたくしに子息の心をとらえるようにと厳命されたわ。わたくしの気持ちなど二の次。歴代宰相一族の国王の右腕と呼ばれるヴィンセント家と縁ができれば、クルーガー伯爵も盛り立てられると思ったみたいね。クルーガー伯爵はね、可もなく不可もない、権力を持ち合わせない歴史が少しばかり長い一族なの。領地はあれど自慢するような特産物はないけどやせた土地ではないから作物はそれなりに育って領民もそれなりに暮らせてる。兄弟たちも王城で文官になれるけど重要な役職付にはつけない、でもそれなりに責任のいる職に置かれている。現在と違って昔は派閥がきっちりしていたのだけど、その頃から中立という名のどっちつかずでいたの。

このまま何もなければ、水面を漂う木の葉のように時代の流れに乗って延々と目立たずに家名が続くばかり。

だから、お父様は転機になる何かがほしかったのね。


あら?ここまでで随分話が長くなったわね。


そうそう、婚約期間はあの人は、それなりにきちんとした婚約者でしたのよ。

婚約の挨拶の時も、美しい人って言ってくださって。女神の様だとも言ってくださったのよ。

意外でしょう?

季節の折の手紙にも愛の言葉が綴られて贈り物も趣味が良く、わたくしの誕生日の贈り物も品があって素敵なものをもらっていたの。交流として会うときは、花束をいつもくださったわ。成人してからは、夜会のエスコートもお茶会も一緒に参加して、円満で仲の良い婚約者として世間に知られていたのよ。

もっとも、無口な人ですからね、話は弾むなんてことはなかったし、笑顔も社交で外に出るとき以外に見ることもなかったわ。でもあの人は、それでもわたくしが好きで婚約を申し込んで下さったと思っていたのよ。ときどき、不意打ちに紡がれる愛の言葉がとても嬉しかったわ。


真実を、知るまではね。




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