『まて』をやめました 5
クラウディアさん、暴走します
「ねえ、このヴィクターって誰?」
日記に何度か出てくる新たな登場人物から、お城の離宮に住むエドワード様の双子の姉、レティシア様に会う決心がついた。
レティシア様は、次期国王となるヴィクター王弟殿下の婚約者として王城の敷地内で10歳から暮らしている。それだけでなく聖女として、厳重な警備をしけるという理由からもそうなったらしい。
離宮、城から出るのは、3月に一回の神殿での祷りの儀式のときだけという。
今回クラウディアの治療に、伯爵家を訪れたのは神殿の帰り。
偶々、レティシア様の耳にもクラウディアが昏睡状態との知らせが入ったから、お見舞いをかねての訪問となった。本当に運がよく治療してもらえたのだ。
こんなことはめったにないことで、今回は、本当に本当に本当にクラウディアの運がよかったのだ。
あれかな?我慢し続けた10年分の徳の貯金を切り崩してのラッキーだったのかな?
普段はめっちゃ厳重警備の離宮に住まうレティシアは、一応来客を許可されている。
先触れだけで離宮を訪れていいのは、国王、王妃、宰相と、エドワード、そして、ヴィクター殿下。
それ以外の人は、先触れと申請書を出す必要がある。それで本人の許諾があれば会うことができるのだけどね。
聖女様の手元にいくまで、かなりの確率で侍従女官たちの審査で弾かれるという。
今回クラウディアは、父ザリエル伯爵の名前で申請書を出した。
名目は、クラウディアが回復したことへのお礼とした。さらには、クラウディアがレティシアへお礼状を添え、そこに体の回復は進んでいるが記憶がなくなり不安な状態で生活していると、しおらしいことを書いておいた。
それが効をなしたか、それとも元より高位貴族のザリエル家の名前か、早々と許可が出て申請からわずか5日で面会の日を迎えた。普通なら早くても10日はかかるらしい。異例の早さだって。
お父様曰く、最大の障壁である宰相が地方視察に現在エドワードをつれて王都を留守にしているからだろうとほくそ笑んでいた。
さてさてそんな中、向かった離宮の面会用の一室は、登録された術者以外の魔力を無効化し、刃物や毒物などあきらかに危害を加えるであろう物を弾く結界が施された部屋だった。
離宮での面会は、基本この面会用応接室。
その部屋は、悪意を持って入室するだけで雷に撃たれたような衝撃もあるらしい。
そう扉の前で説明されて、物々しい雰囲気で開かれた室内は、白い壁に銀と藍の色模様の清涼な空気だった。
室内中央の大きなソファーにゆったりと座る清水のようにまっすぐ流れる青い髪の女神がいた。
絶世の美女という言葉が陳腐なものに感じるほどの美の極みの女性。
白磁のようなすべらかな頬、ほんのり桃色に色づいているが発光してるかのごとくまぶしく、シルバーグレイの瞳は、玲瓏としていながらも温かみがあり輝きに見詰められると吸い込まれるのではないかと思うほど美しい。細くしなやかな体には、清楚な薄っすらと水色をしたドレスを身に着け華美な装飾がなくともそれだけで人目を惹く華やかさがあった。
神が作りたもうた、極上、最上、至高の美。
それがそこにあった。
扉を開けたらお辞儀をして声がかかるまで頭を上げないようにと、言われていたのにも関わらず、開いた瞬間に目に飛び込んできた女神に呆けてしまった。
頭を下げることもせず、間抜けにも口を開き目は食い入るように女神から逸らすことができない状態で突っ立ていた。
「・・・クラウディア!」
それをお辞儀した状態で気が付いた、お父様に小声で鋭く叱責されて我に返った。
しかし、その姿から目を離すことができない。目を離した瞬間に天上に舞い戻ってしまうのではないかと不安になる。
そして、無意識にその場で両膝をつき手を胸の前で組んでお祈りをするかのような格好をとっていた。
「女神様・・・どうかこのまま消えないでください・・・」
隣でお父様が頭を下げたまま、器用に額に手をやり渋面を作ったが、この時のクラウディアは女神の降臨という僥倖に酔いしれていた。
女神に声を掛けられるまで・・・
「女神ではないのだけど・・・、本当に記憶がないのね?」
表情を困惑色に染め、凛となる鈴のような澄んだ声。
この世の何よりも綺麗な声に魂が昇華するかとおもった。
実際に意識は、昇華してしまったみたいだ。
クラウディア、女神のような聖女との邂逅で鼻血を出し一時気を失った。
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