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『まて』をやめました 39

もうすこし、もう少しなんです。







普通ならこんなこと出来やしない。触れたのは一瞬の筈だけどとても長く感じた。

手で触れた通り、柔らかくすべらかな頬。唇もだけど私の頬で頬ずりをしたくなる肌。

唇を頬から離して、至近距離からエドワード様を見ると茫然としている。


何が起こったか、わからないのかな?


そう思って、見ているとゆるゆると緩慢な動きで持ち上がる右手。

細く長い指だけど男らしく節くれている。

その指先が、私が触れた頬を触る。


焦点の合っていない目でいまだにぼ~っとしたまま。

って、あれ?もしかして軽く口づけたけど、唾がついちゃった?

気が付かないうちに、涎でも出てたのかしら?


そうかも?

だって仕方がないじゃない。こんなにお綺麗なほっぺに口づける機会はそうない。

多分これが最初で最後かな?

そうなるかもしれないのだ。もう少し堪能出来たらよかったんだけど、そこまでの度胸はない。

10年分の思い出にちょっと頬に口づけるくらいは許してほしい。

さすがにお口には、勇気がなかった。

それこそ、頬にも勢いでやった。

呪いを解くなんて、言い訳をして・・・


「・・・あの?」


それにしても呆けすぎではない?

声をかけるが、聞こえていないのかどこを見ているのか分からない瞳。

困って壁際まで下がって控えている、クレアに視線を向けるが何も答えてくれない。否、私の行動の顛末を自分で収拾しろという圧が向けられる。

目が、怖い・・・。


いいじゃない、折角の機会なんだし。

こんなチャンス無いんだよ。

10年間片思いをしていたんだよ──────綺麗な顔に。

ならさぁ、この綺麗な顔を暫く見ることは叶わない、もしかしたら最後になるかもしれないんだから、ちょ~~~~っと“思い出にほっぺにチュッ♥”くらいはゆるされると思いませんか?

私の瞬時に思いついた突貫な計画では、ショック療法───つまり普段ではありえないこと、ということで私が大胆にもキスをするということをして見た。

エドワード様と会っていた私は、話しかけはするけど必要以上に私から触れることはなかった。それでなくとも貴族で淑女教育をされているのだ、女性側から妄りに触れることは、はしたいことなのだからするはずはない。と、思われているだろう。

だからこそ、淑女ではありえない、女性側からの頬にとは言えどキスをしてみた。触れるだけの短いキスだけど、前世の記憶と戻った恋心のある私だから出来た大胆な行動。

そのショックによって、今まで以上に感情を引き出して感情を爆発させて本心を暴く予定だった。

んだけどなぁ~。

あっれぇ?おかしいなぁ。


こんなに放心させる予定ではなかった。


いくら貴族令嬢が男性に触れるは良くないと言えど、夜会では見目の良い男性に言い寄る婚約者のいない令嬢たちもいる。

婚約者がいても気にせずに、より良い条件の男性を求めるハンター的な人もいる。中には既婚夫人や未亡人など、一夜の楽しみとする人もいるくらいだ。

エドワード様は、稀に見る美丈夫だ。国一の美形男性。身分も次期侯爵と宰相の座が約束された優良物件。いくら予約済みと大きく翳していても、女性たちは群がる。

一晩のお相手、あわよくば第二夫人、愛人の立場を手に入れようとわらわらと群がる。

エドワード様なら、そんな経験の一つや二つあっても可笑しくない。頬に口づけくらいはされているだろうと思っていた。

女性たちは、時には大胆に暗がりに自ら誘い込むこともすると聞く。

ある夜会でローラと一緒に涼んでいたところ、とある未亡人が若い初心そうな男性を茂みに引き込みあれやこれやの声が漏れ聞こえて困ったところに遭遇した経験がある。二人して顔を真っ赤にして、そこから動けずに固まってしまって様子を見に来てくれたジェイクに助け出されるまで怯えていた。

その時ジェイクから、見目の良い男性にアプローチをかける大胆な女性もいることを教わった。私が家に引きこもっている間、お父様の職を継ぐつもりのジェイクはお父様について国内各地や他国も廻っている。その時に妻子持ちのお父様に迫る女性を見るだけでなく、幼い自身にも擦り寄る女性に遭遇してるらしい。驚いた私たちにそれも一人前になるための試練だと、躱す練習台と思っていると笑って語っていた。後日お母様にも聞いたところ、実際に何度も暗がりどころか、個室に連れ込まれそうになり貞操の危機に陥ったことがあったらしい。ジェイクにも常に従者が付き添っているので大事に至っていない。

だが、ファーストキスを香水臭い未亡人に奪われたことをお母様に聞いたときは、大いに同情した。

意外と乙女だからなぁ。初キス、大切にしたい派だったろうなぁ。


ジェイクでさえそんな経験があるんだから、エドワード様も頬にキスくらいで放心するなんて思わなかった。


絶対に「何をするんだっ!!!」って怒るとばかり思っていた。

そこから畳みかける予定だったのに・・・


これはどうして?


私が触れた頬に手を当てて放心のこの人。

この後、どうしたらいいのかなぁ?




我ながら、思い付きでするものではないとちょっとだけ後悔したけど、すべらかで柔らかな頬に口づけたことは後悔無いです。



ごちそうさまでした。




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