『まて』をさせられました 32
あとで加筆するかもです。
◆エドワード視点◆
久しぶりに会ったクラウディアは、光に当たるふわふわとしたミルクティ色の髪といい、驚きに見開く瞳といい輝いていた。
久しぶりに会うからいいのだ。俺が過去クラウディアに話した言葉を実感する。
かわいらしい表情豊かな顏。
俺を見るとまずは嬉しそうに笑みを浮かべる。その後思い出したように淑やかに上品な微笑みになる。
しかし今日は何かが違う。
キョトンとしたあと、こちらを初めて観察するように顔から体全体を順に追って眺めている。
いつものうっとりとする顔は見れない。
「姉様、ダメだ!こいつを見ちゃダメ。また呪いにかかるっ。」
俺の腕を掴んで邪魔をするジェイクがクラウディアへとんでもなく失礼なことを大きな声で警告する。
待て、呪いとはなんだ?
俺がクラウディアに呪いでもかけたとでもいうのか?
「ジェイク、いくら何でも言い過ぎよ。
ぷっくくっ、一応、お客様みたいだし、そんなことしちゃ、ダメでしょ?」
ジェイクの失礼な物言いに元より怒らせていた感情は再燃して、ムッと顔に出た。
そこに朗らかに笑いをうかべてジェイクを柔らかく窘めるクラウディアの楽し気な声が響く。
クスクス笑いながら、ジェイクしか見ていない。
俺がいるところでは他は全く目に入らない、いつもそうであったのに?
いつもとの違いに戸惑っているところへジェイクは俺の腕を用なしとばかりに放り投げクラウディアのもとへ行く。
クスクス笑い合い、頬を撫でるクラウディアとじゃれるようにすり寄るジェイク。愛らしい姉弟の姿だが、ちらりとこちらに目を向けたジェイク顔がこちらを嘲っているようで腹立たしい。
「まったく、君の弟はなんて失礼な・・・」
掴まれ引っ張られて寄れて皺になってしまったジャケットの襟をならしているとクラウディアと目が合った。
その瞳にいつもある、恋慕の熱がない?
いつもは恋い慕う心が隠されることもなく心地よく注がれていたのに?
何があった?
本当に何があったんだ?
驚く俺の前で、初めての挨拶だとかジェイクと何やら言って相談らしきことをしていたが話がついたのかすくっと立ち上がると俺の目の前まで綺麗な所作で進み出た。
相変わらず立ち姿も歩く姿も上品でありながらかわいらしい。
そして顔を背けることができない俺の真正面に来ると、ニコッと満面の笑みを浮かべる。
俺の大好きなガーベラのような微笑。
かわいらしいはずの笑顔なのに、背筋が震える。
何故か今この場から逃げ出したいという気持ちにさせる笑顔だった。
耳を塞ぎたい、顔を背けたい、今すぐここから立ち去りたい
何か良くないことが・・・
そう思っていた俺にますます笑みを深めて口を開き言葉を紡ぐクラウディア。
そして出された言葉は、
「貴方がエドワード様ですよね。挨拶は省略します。
私は、『まて』をもうやめます。」
なんと?
知っている言語、単語だが言われている意味がわからない。
『まて』とは、どういうことだ?
「・・・君は、一体、何を言ってるんだ?」
「えっと、だからですね。あの“貞淑な貴婦人のススメ”みたいな女性になれないんで・・・」
俺は周りから喜怒哀楽の表情があまり出ないと言われるが、それはあくまで喜哀楽で怒に関しては出ているらしい。それはそれは、通常よりも恐ろしく感じると言われた。
クラウディアに返した言葉は、低く地を這うようだと自分でも認めるほどだ。
その声に戸惑っているように見えるが、今までとは明らかに違うクラウディアに驚く。
キッと意を決したように俺に顔を向けると、今まで聞いたことのない声で話し出した。
サインをしろ?
それを問えばさらに怒涛のように言葉が紡がれるが、それは明らかに今までとは違う。
声に甘い要素は全くなく険のある声、怒りを声に態度に体全体から溢れ出る。
その中には聞き捨てならないことがある。
倒れた?意識が戻る?記憶がなくなったとはどういうことだ?
俺が驚いている間にも、クラウディアは続く。その中に彼女の言うところの『まて』の謎が分かった。
クラウディアを好きにならないようにと、していたことは彼女にとっては我慢を強いることばかりだった?
俺の姿、特に顔が好き。見れるだけで幸せといつも言っていたから、たまに会うだけでいいだろうと思っていた。
どうせ、好きなのは顔だけなのだから・・・
そう思っていた。
だが彼女の言葉には、俺がいかに我慢を強いていたか・・・
俺だって我慢していた。
好きにならないようにと、会わないように触れないように我慢していた。
そのせいでクラウディアへの気遣いを怠った?
俺の顔が見られれば良いのだろ?
顔だけだろ?と思っていたがちがったのか?
そう思うと胸に広がる苦い思い。
そして、彼女の俺への爆発された不満よりも何より溢れ出ている、頬を伝う涙が俺を後悔の海へと突き落とした。
涙を流すほど、苦しめていたのか、俺は・・・
襲い来る後悔に、ただ茫然と涙を流すクラウディアを見つめることしかできなかった。
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