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『まて』をさせられました 28



◆エドワード視点◆



それからしばらくは心を強く持ち、親睦で茶会をするときはなるべく顔を見ないようにした。

クラウディアの笑顔を見ると、ずっとその笑顔が頭から離れなくなるからだ。

それでもそのかわいらしい声に心が浮き立ち、眠れぬ夜を過ごすことになり理不尽だが少し黙ってもらうことにした。


徐々に会う回数も減らしていた時にその事件は起きた。



「さっきからお前は何をしに来ているっ!」


その日は珍しく父上の予定が全くない休みだった。

年老いた陛下の体力が落ちて政務が王太子に移行している最中忙しく休みが取れずいた。それを見て王太子から倒れられては困るからと、無理やり休まされたと後から聞いた。

しかしそれを知らなかった俺は、クラウディアが寂しさから一日に何度も来る手紙に、そのかわいらしい内容に心の中で喜んでいた。

しかし手紙を持ってくるザリエル家の使用人が、何度も出入りをする音に疲労の溜まった父上は苛立ちとうとう何度目かで訪ねてきた時に罵倒された。


相手がザリエル家のものと知って、父上の怒りは頂点に達したらしい。

俺に何も言わずに、執事に手紙を持たせ“貞淑な貴婦人のススメ”という50年以上も前の淑女教育に使われた書物を全巻クラウディアに渡したらしい。

しかも俺が、そこに描かれているような女性が好みの様な言葉を添えて。

それを見てからのクラウディアは変わってしまった。


あの溌溂としたガーベラの様な笑顔が見れなくなり、澄ました仮面の淑女の気持ちの籠らない笑顔になった。

確かに俺は、クラウディアのあの笑顔は危険だと危惧していた。


クラウディアに微笑まれた男どもがクラウディアに好意を抱くのは勿論、中には俺という婚約者がいるのに求婚したものもいたらしい。

だがあの笑顔を見れなくなるのは寂しく、ただあまり人の集まるところに(一人で)出歩くなということしか言っていなかった。

あの笑顔が封印されたが、それでも成長につれ彼女の容姿は最初に見た通り相変わらずのかわいらしさで、いや年々大人に成長する身体で妖艶さが加わり例えようのない魅力が溢れていた。

俺の目の届かないところで何かあれば、婚約関係にある俺にも纏わってくる。

だから余計なことと分かっていても、ついつい苦言が口から出てしまう。


友人の誕生日のお茶会?

令嬢だけでなく子息たちも集まる会だって?俺のいない時を狙っている男たちが群がったらどうする?プレゼントを渡して祝いを口にしたらすぐに帰るならいいが・・・

夜会に参加?

ダメだっ!そんな危険なところに、狼の群れに羊が自ら入っていくなんて危険すぎるっ!俺のエスコート?してもいいが、レティがいる時は一緒にいるようにしないと人見知りのレティは緊張して社交が上手くできない・・・仕方ない、端の方で大人しく静かにしていてくれ。


そうして年々口うるさく、でも会う回数は減らしてクラウディアに()()()()()()()()細心の注意を払っていた。

だと言うのに何故だ?

何が起こっている?


数か月前、いきなり父上から辺境伯の領地で起きている隣国とのいざこざを解決して来いと言われた。


「父上、辺境伯の案件は外交に絡むのでザリエル伯爵の管轄では?」


15歳になった時から俺は正式に宰相補佐官として職に就き、政務の事務処理や事前準備に奔走していた。

実際の政務にあたる前に、地方から上がってくる報告書とその添付された資料に間違いはないかなどから始まり、陛下への報告が必要かどうか他部署への報告がいるか共同でする案件なのかと考えることは多岐にわたっていた。

補佐官は10人おり、それぞれに秘書がついているが全員が優秀ならば問題はない。しかし中には高位貴族の縁故でねじ込まれたぼんくらがおり、そういうぼんくらには本来優秀な秘書が付くはずが、秘書も使い物にならないときたらそのしわ寄せが他に回された。

その中、俺は時期宰相筆頭として、秘書が3人ついていた。秘書たちに言わせると、仕事はできるのに感情が読めずに損をしていると言われた。そのフォロー要員と昔からの知り合いが着いた。まぁ、グイグイくる秘書たちだが仲良くやっている。

忙しい日々を送っていた。目も回るほど、本当に忙しかった・・・


そんな中、告げられたのが父上からの指令だった。


辺境伯の地で問題となっている隣国との問題。

小さいが、他国がかかわるので下手に刺激をして国際問題にされては困ると外務省に回したはず。

それをなぜ今?


「ふんっ、ザリエルは今それどこではないからな。

辺境伯は陛下の親戚筋にもあたる王族が降嫁したこともある由緒正しい家だ。

中央に報告したと言うのに、一切何もしないでは信頼関係が揺らぐ。幸い案件は些細なことだ、こっちからおまえが行って交渉して実績を作るのによいだろう。

あぁ、私も一緒に行くぞ。だが動くのはお前だ。時間がないから、このまま今日にも王都を発つ。着替えなどは、もうすぐ執事が持ってくるだろうからお前も今の仕事を片付けてすぐに出るようにしておけ。」


そう言われてしまった。

実際にしばらくしてから、見知った老執事が父上と俺の旅に必要な着替えと諸々を一切まとめて持ってきた。

その時の老執事の顔が何かを言いたげではあったが、出発まで時間がなく遣り掛けの書類を仕上げるに忙しく後回しにしていた。手が空いて見回した時には老執事は、いなくなっていた。

そしてちょっとのことだろうと辺境に旅立った俺は、まさか3か月も帰ることが出来なくなるとはこの時思いもよらなかった。





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