『まて』をやめました 12
真実はいつも一つ!
◇
すらりとした令嬢にしては、長身で身につけたドレスも趣よく明るい黄色ながら派手すぎない、落ち着いてみえた。髪は淑女らしくゆるく巻き、それに羽根と金細工の髪飾りですっきりと纏めている。落ち着きを伴った華やかな装い、本人の雰囲気がそうさせているとおもわれる。
「ごきげんよう、ミリアム様」
ミリアム様は、男爵令嬢。
しかし、私とは親しく会話ができる仲になった。
年上だけど趣味が合う。
話してみると共通会話が多く仲良しさんになったのだ。
気安く会話ができる、ミリアム様の登場に弱々しい振りを忘れて笑顔になってしまう。
「うふふっ、クラウディア様は相変わらずかわいらしいこと」
私の演技を忘れた単純な行動に、そう言って微笑まれるといつもの凛々しさとは違い妖艶な大人な笑みに胸がトキメく。
私は、手で座ることを促せば優雅にお辞儀をして座る。その動作も隙がなく洗練されたスマートなものだ。少し優美さが足りない気がするがそれも、ミリアム様を彩る美しさを損なうものではない。
やっぱり私は、元来美しいもの好きな性格なのだろう。
ミリアム様の微笑。
頬が赤くなっている自覚がある。
「ちょっと、わたくしが話してるのに何を勝手に入ってきてるのよ!」
サビーナ様はどこまでも、雰囲気クラッシャー。
ウフフッと微笑み合っていた私たちに遠慮もなくぶった切る金切り声。
「サビーナ様、こちら男爵令嬢の」
「高々、男爵家の分際でわたくしたちの間に入ってくるなんて無作法だわ。
これだからマナーのなっていない低俗な人とは付き合いたくないのよ!」
いやいや、どの口が言う?
無作法?身分的に同じ伯爵とは言え、私の方が上位なのに許可もなく話しかけたのは誰?
マナーがなっていない?勧めてもいない椅子に許可なく座るのはマナーがいいのかしら?
低俗?お茶が冷めたからって、人のカップを勝手に持ち出して作法もなく注がれたお茶は如何に?
何よりもミリアムは・・・
「サビーナ様、この方はっ」
「さぁクラウディア様、こんな無作法者は放っておいて早くお飲みください。折角入れ替えましたのにまた冷めてしまいますわ。って、ちょっと何するの!」
サビーナ様が再度私にカップを寄せようとするが、その手が届くより早くミリアム様の手がカップをソーサごと持ち上げた。
そして徐にいつの間にか出した銀色に光る細い棒状の10センチ位の串のようなものを一度クルッと指で回してからカップの中に入れた。
くるくる・・・ポチャンッ
カップの中身を数回混ぜて、持ち上げれば雫を大きく落として姿を現した。
そこには入れる前とは違い、黒ずんだ色をしていた。
「なっ、何なのよそれはっ!そんな汚いものをもっているなんて」
「これはっ!」
色の変わった銀色の串を見たサビーナ様は汚いものと言っているが、よく通る凛とした声でそれを遮った。
背筋を伸ばして立ち上がり、片方にはサビーナ様が入れたカップを持ちもう片方に色の変わった串を周りに見えるように持ち上げた。
「主を守るために常に持ち歩いている銀です。これは純度が高く僅かなものにも反応します。
何に反応したのか、お茶を淹れられたサビーナ様にはお分かりですね。」
長身のミリアム様が立ち上がりさらにはよく通る声で話せば、広い会場の客たちの注目はしっかり集まった。
そこでサビーナ様に問えば、回避不能。はっきりと答えなければ、疑惑を周りに植え付けることになる。
「なっ、はっ、何が、何よ!何を言ってるのよ!なんの権利があって高々男爵家のあなたがそんなこと言ってるのよ!」
やはりというか、案の定サビーナ様は口ごもりミリアム様を非難するばかりで明確に答えない。否と答えないそれがまわりにどう見えるのか、わかっているのかな?
カップがのったソーサーを静かにテーブルにおいたミリアム様は、素早く動くとサビーナ様の腕を掴み膨らんだ袖口を探り出した。
サビーナ様のドレスは膨らんだ袖が特徴なデザインだが、ミリアム様が触っている袖ぐりが反対に比べて歪に膨らんでいた。
たぶんよく観察しないとわからない。
「ちょっと、何を!キャッ、どこに手を入れて、っ!」
歪に膨らんだ袖口から手を入れているミリアム様。
遠くの席から何やら叫び声が聞こえる。多分サビーナ様の母親だろう。
さっきまでの娘の行動には何も声がなかったというのに、現金なものだ。勿論、そこはそつなくお母様の手腕で引き留めている。
此処まで来て邪魔をされては、困る。
真相をはっきりさせよう。
そうして、見つめる前でサビーナ様の袖口からは白い小さな紙包みが出てきた。
ミリアム様の長い指に摘ままれて姿を出した包み。
薄い粉末薬を包む紙によく似ている。
「サビーナ様、これは何ですか?」
包みを親指と人差し指でしっかりと摘まみサビーナ様の目の前に持ってきて敢て聞いたミリアム様。いや、ミリアム様の目はさっきまでの令嬢らしいところなど微塵もなく鋭い光を宿している。聞くというより尋問である。
「なっ、何よっ。知らないわよっ!貴方なんかにこたえる義理はないわ。」
「そうですか・・・義理はないですか?」
ミリアム様の圧に苦しみながらも、目の前にしっかりと晒されたというのにまだ逃げ道を作ろうと見苦しく足搔いている。ある意味根性あるなぁ。
こんな場面なのに、妙に感心して背後のクレアから呆れた様な空気が漂う。
「では、王妃様から依頼されております、事件の参考人として拘束をさせていただきます。」
そう冷ややかな目をサビーナ様に向ける。
その姿は、華やかなドレス姿だが私はいつも見慣れている厳格と清廉とした騎士服をまとっているときと変わらないミリアム様に見えた。
「えっ?はっ?王妃様?なんで?なんでそこに王妃様の名前が出てくるのよ!」
さすがに王妃様の名前を出されては、一気に顔色を変えた。青を通り越して蒼白だ。
なんで王妃様の名前が出るかって?
だって、ほら?
私って、ただの伯爵令嬢じゃないもの。
お母様はハイドランジア国現国王娘。つまり私は、ハイドランジア国の王様の孫にあたる。
お母様の実家から、私宛に心配する手紙が届いた。それは使者が来たついでに王様王妃様にも伝えられて本格捜査が秘密裏に行われていた。
そして罠を仕掛けてみましょうということになったのが、今回のお茶会なのだ。
私が最後に参加したお茶会に参加していた全員と、怪しまれないようにこちら側の派閥の信用ある家からも参加、更には毒にも薬にもならない証人となる中立な立場のその他という招待客で大規模お茶会の開催となったのだ。
犯人を内に入れては、危険とレティシア様もヴィクター殿下も反対をしたけど、親戚とはいえ他国の王室から苦言が寄せられたのだ。国としても動きがないと外交に支障が来たす。
安全面には、十分気を付けている。
伯爵家の護衛は勿論、メイドも執事、コックや庭師に至るまで武術に覚えがある者たちだ。私とお母様には、常に専属メイドが付き従い絶対に一人になることがないようにしている。さらには、王家から騎士団の数名を貸し出されていた。その最たる方が、ミリアム様なのだ。ミリアム様はレティシア様の命を受けて参加していた。
しかもミリアムさまはただの女騎士ではない。
「あんたなんて!ただの男爵令嬢でしょう!」
「いいえ、違います。」
サビーナ様は、王妃様の名前を出されても未だ威勢が落ちないのはミリアム様が男爵令嬢だから。
知らないとは恐ろしい。
記憶を無くした私でさえも知る機会はいくらでもあったというのに・・・
サビーナ様は、かなりの不勉強みたいだ。
そして我儘、身勝手という嫌われる貴族令嬢の見本のような人だわ。
私の嫌いなタイプ。
多分、昔から・・・・・・、憶えてないけど。
「ミリアム様は、聖騎士様ですわ。」
そして私が大好きなのは、外見も心も綺麗な人。キラキラとして人を引き付けるような美しさと強さのある人。
多分、その好みは今も昔も変わっていないと思う。
・・・・・・憶えてないけど。
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