クズなふたり
「私の事嫌いだよね?」
そう、目の前の美少女は言った。
【クズな二人】
月島小夜子、彼女は今日も多くの女子に囲まれて笑っている。
その容姿は中2の頃から度々スカウトに絡まれる程度には・・・、特に控えめに言うつもりもないが、学校で一番美人だろう。
昨日もC組の大井が告ってフラれたらしい。
まぁ、俺はアイツが大嫌いだが。
さて、そんな嫌いなヤツの事をなぜわざわざ考えているのか?
時間の無駄だと知りつつ・・・。
ふぅ・・・。
思わずため息がこぼれる。
・・・ほんの少し時間をさかのぼって考える。
俺のこのモヤモヤはそこが起点になっているのだから。
◇ ◇ ◇ ◇
金曜日のうららかな朝。
1限の国語を終えて、さてソシャゲのイベントでも少しやっておくかとスマホを取り出した。
その時に事件は起きる。
(カツ・カツ・カツ・カツ・・・)
「相馬君、今日の放課後空いているかな?
ちょっと相談したい事があるの。」
あまりに突然、俺の席まで来た月島はそう話しかけてきた。
想定外の事が起きると、人は戸惑うものだという。
そういう仮定に立つと、その状況は想定の範囲内、という事だったのだろうか?
俺に何の相談があるのか、それはおいおい考えるとして、この時の対応や返事は慎重に考えねばならなかった。
クラスメイト(のおそらく全て)が見つめるような状況の中、あえて目立つ行動をこの女はとった。
それだけで俺の行動を随分制約しうる。そして、この女はそれを計算の上だとみていい。
今は高2の初夏、というかまぁ梅雨前だから初夏でもないのか。
後、約2年の学校生活。
それを捨てる気にさえなればこの事案も自分の好きなように取り扱えばいい。ぶっちゃけ追い払えればもっとも楽だ。
だが・・・
それほどの犠牲を払っていいのか?
これはもはや俺にとってかつてない大きな事案だった。
・・・
そう、ほんの数時間前を振り返る。
そして、どうせどう転んでも結果は目に見えてる。
悩むだけ無駄だと、ようやくそう結論付けてこの問題の発端へと目をやる。
俺はクズだがアイツもクズだ。
同じクズだから理解できる。
にこやかに笑っているその笑顔は作りもの。
決して出過ぎはせず、かといって引っ込み過ぎず。
常に周囲に気を配り。
つま先から髪の毛の先まで抜かりはない。
それは全てアイツ自身が周囲の評価を得るためだと分かってる。
だが、そんなことは皆ある程度やっていることだろう。
別に悪い事でも何でもない。
偽善者大いに結構。
俺だってまぁ適当に作っている部分が無い訳じゃない。
だが、それでもアイツだけはどうしてもダメだった。
あの作り物の笑顔だけは。
マジでゲロ吐きそう・・・。
◇ ◇ ◇ ◇
数少ない男友達、それから興味本位のただの同級生、彼らは休み時間のたびに俺のところに押しかけては『どういうこと?』と聞いてくるし、月島の方も女子から同じような扱いを受けていた。
全て計算の内だろう。
だがなぜこんな面倒事にしたのか?
それはすなわち、こうせねばならなかった理由と、それに比肩するだけの利益があるからだろう。
クラスにおける俺とアイツの立ち位置を考えた時、アイツは何の目的で俺に相談事を持ち掛けて来たのか?
それは消去法でいけば5本の指に収まるだろう。
ただ・・・そのどれであっても俺の未来は暗澹たるものだ。
それだけはすでに確定している。
胃に鉛どころか、プルトニウムが詰まったような気持ち悪さを抱えたまま、鞄にはできるだけ教科書を詰め込んで重くする。
気が重い時はなぜか重いものを持つと楽になる。
「じゃ。」
そう言って、ごく僅かばかりの友達に手を上げる。
「おう、明日ちゃんと報告しろよ。」
嫉妬が絡みついた視線をしかたなく受け止めつつ教室を出る。
・・・
彼女に指定された待ち合わせ場所、それはここからバスで20分ほども離れたところにあるカフェ。
そんな場所を待ち合わせに使う意図も不明だ。
本来、今日のあの流れなら、『人目につく場所』の方が理にかなっている。
『衆目』を集めておいての『人目に付かない遠くのカフェ』
俺の反応に依らず、自分の思った通りに事を運びたいだけなら、あんなに目立った演出は不要だっただろう。
・・・はぁ。
と幾度目かの大きなため息を吐き出す。
◇ ◇ ◇ ◇
カフェ『ナイトメア』
このネーミングセンス、今だけは評価したい。
まさに俺の今のこの気持ちそのままだ。
扉を開け、中に入ると既に彼女は席に座ってスマホを弄っている。
相変わらずとても綺麗な姿勢だし、髪、表情、服装、どこも一分一厘文句のつけようがない。
つかつかとその向かいまで行き、黙って座ることにした。
この品行方正を全方位塗り固めたコイツに付き合う気にはとてもなれなかった。
「アイスコーヒーで。」
「畏まりました。」
そして俺もスマホを出して弄る事にする。
呼んだのはコイツだし、用があるなら言えばいい。
「相馬君って私の事嫌いだよね?」
この最初の一言で俺への要件はほぼ決まったようなものだ。
「あぁ、嫌いだな。」
「じゃぁ、私と付き合ってほしいのだけど。」
全くかみ合わないと思われるこの会話だが、つまるところ理由はひとつだ。
ただ、この申し出を断るためには、まぁ低く見積もって後の2年はとても楽しくない学校生活を送る覚悟が必要と考えて間違いない。
高く見積もれば転校もやむなし。
それだけの事をコイツはやるだろう。
・・・あれから今日一日、ずっと考えていた。
そして・・・
「断る。」
たった今決めた。
どれだけ犠牲を払おうともコイツと『付き合ったふり』をすることなどとてもできそうにない。
思った通りね。
でも、クズなあなたは次の申し出を断れるかしら?
「何でも言うこと聞いてあげるけど。」
はぁ?
さすがに意味が分からん。
意味は分からん・・・が意図は分かる。
何処までが許容範囲か、そうでないかを既にコイツは定めている。
そしてそれだけの価値をこの話し合いに見出しているという事だ。
・・・よかろう。
今、この時点で俺は屍同然。
さぁ・・・蔑むがいい。
「パンツくれ」
そうきた?
大嫌いな私の、こんな布切れが欲しいと?
やや斜め下の計算外。
「いいよ。今脱いでこようか?」
・・・どうやら俺の見込みは相当に甘かったらしい。
前に座るコイツは、クズでなおかつ変態だった。
・・・いや?ほんとにそうなのか?
ありえない。さすがにあり得ないな。
という事は、単に試されてるだけだろう。
ならば・・・
「露出狂か?」
俺はずっとスマホを弄ったまま、あくまでも非礼に応じる。
「契約成立なら安いものね。」
どうやら、本気でくれるようだ。
どうしても大嫌いな俺とお付き合い(仮)がしたいらしい。
理由はいくつか考えたが、全く分からなくなってきた。
ようやく顔を上げて、目の前の美少女を見る。
( おや? )
いつもの仮面はすっかり剥がれ、素の顔がそこにあった。
なるほど、俺のクズさ加減をいまさら悟り、作る気も失せたか。
コイツの事は死ぬほど嫌いだが、パンツは嫌いではない、親の罪は子に及ばぬ。嫌いなコイツの罪はパンツには及ばない。
ただ、素の顔になったこの女、何か話したいんじゃなかろうか?
「一応理由。」
「相馬君はもう分ってるのよね?
私が実はクズで、学校のいい子ちゃんは全て嘘っぱちだって。」
なるほど、すべて隠すつもりはなくなった、という事か。
だがそれと仮の彼氏たれというのとどう繋がる?
「誰でも自分を作って生きてるだろ。
俺がお前を嫌いなのはたぶん、理由なんてない。」
「すぐわかる愛想笑いって、気持ち悪いよね。ゲロ吐きそう。」
はぁ?
今なんつったこの美少女?
・・・録音しておかなかった自分を悔やむ。
「そんなの皆してるだろ。」
「そうね。ただ、同じ愛想笑いでも気づかれない努力位はすべき。」
「まぁ、お前のは確かにぱっと見じゃ分からねぇな。」
「私は造った自分が一番大好きだからね。」
「で?」
他人の作り笑いが気持ち悪いから、俺と付き合ってる事にしたい、そんな訳はない。それこそ意味不明だ。
「あぁ。昨日大井が告ってきてね、断ったんだけど。
さすがに疲れた。
もうたくさん。」
案の定、告られるのがめんどくさいから付き合ってることにしたい、か。
だがそれなら俺じゃなくていいはずだし、代償がデカすぎるだろ。
やっぱりその部分だけが意味不明だ。
「大井の人の善さは本物だ。クズの俺が言うんだから間違いない。
しかも容姿だって十分イケメンだ。」
「そう、それ。
私達みたいなクズはさ、ああいう人種が一番気持ち悪いのよね。」
「ちょっとまて、俺はクズだが、イイ奴は普通に好きだぞ。」
「そ。
私はパス。」
仮の彼氏候補にイケメンはダメ、イイ奴はダメ、クズがイイ。
スゲー意味不明だ。
「で、クズな俺はパンツ1枚で仮の彼氏を引き受けるとしてだが、
要望は?勿論できる範囲でだ。」
「一つ訂正。仮のじゃない。彼氏ね。」
さすがに理解できん・・・。
まぁ、どう言おうが実質は『仮』に決まってる。
「当たり前のことを一つだけ聞く。
俺の事は嫌いで間違いないよな?」
うわ、さすがにこの質問はないわ。
クズは嫌いに決まってる。
『それ以外の部分』が欲しいだけ。
「もちろん。いい子ちゃんも無理だけど、クズも勘弁ね。」
「俺は結構頭が回るほうだと思ってたんだが、さすがに理解不能。
付き合うのは構わないが。」
「まぁ、馬鹿ほど利口だと勘違いするものだしね。
責めても仕方がないのだけれど。
私は造った私が好き、私の理想が私。
ただ、24時間それだとね、さすがに疲れるのよ。
去年1年間、自分を造りながらそれを見破れる人を探してた。
自分を好きであるためにも、息抜きは必要。
しかもあなたは私を嫌い。
私もあなたが嫌い。
これほどの条件、他にはないわ。」
この話を大井にすれば喜んで協力してくれるはずだと思っていたんだが、好かれることがそもそも嫌だったとは。
闇が深すぎる・・・この女。
ただ・・・まぁ、理由は分かったしどっちでもいいか。
今のコイツの話から、俺は今まで通り何もしなくていいという事だ。
ここに来るまで考えていた事態はほぼすべて回避されたと思っていい。
俺が彼氏でどれだけ歯止めがきくかなんて俺は知らんし、コイツもその事には頓着しないだろう。
なにせ、クズ仲間が欲しくてそこで息抜きがしたかっただけなんだからな。
「じゃ、そう言う事で。」
伝票は当然自分の分だけを手に立ち上がる。
「ちょっと待ってくれない?」
静かにそういう彼女。
「なにか?」
「一流のクズなら家まで送るものでは?」
「それを普通は紳士というんだが?」
「よこしまな心が無ければ紳士ね。私はゲロ吐きそうだけど。
相馬君の場合は違うでしょ?
私の家も分かり、ひょっとしたら送りオオカミにもなれる。
まさにクズの本懐だと思うのだけれど。
・・・そこまで頭は回らないの?」
「・・・そうだな。送ってくよ。」
いざという事態に陥ったとき、所在を知るという事は確かにひとつの武器だろう。
・・・
・・・
「ありがとう。ここよ。」
歩きながらでもわかる程、自分のテリトリーに入ると自身を作りこむこの女。マジで気持ち悪い。
「あぁ。それじゃ。」
「上がって行かないの?」
なに・・・?
この女は嫌いだが、部屋には興味がある。
本人がイイと言えば否やはないのだが・・・
「・・・ほんとクズね。本気にして。」
(こういう部分だけは周りに配慮した小声だ)
「いや、クズだから当たり前だろ。
お前は嫌いだが、部屋は見てみたいしな。」
「それじゃあ、ありがとう。」
作りこんだ笑顔のまま手を振るこの女。
「あぁ。」
・・・
着替えを済ませて横になる。
呼び出された時はどうなる事かと思っていたが、被害は最小限だったと思っていい。気が抜けると一気に睡魔が襲ってきて、そのままそれに身をゆだねた。
◇ ◇ ◇ ◇
(明けて土曜)
んぁーーー、良く寝た。
内容は忘れたが、夢見もよく寝起きも最高の気分だ。
なんか起きがけにいい匂いもするし。
・・・ん?
・・・いい匂い?
ガバッと体を起こし、そして固まる。
「おい。」
「なに?」
「なんでここにいる?」
「お母様にはちゃんと断った。」
・・・理解不能だ。
いや、そうか、昨日コイツは24時間と言った。
家でもあの仮面をずっとつけているという事だ。
仮面を外すための休憩場所・・・。
・・・『契約成立なら安いもの』・・・か。
なるほどな。
「契約書。」
「あぁ。・・・ほい。」
そう言ってポケットからまるでティッシュでも放るように『それ』を投げてよこす。
「白。」
「男って女に夢見すぎよね。」
「いや、俺は白が好きだが。」
「だから言ってるの。白が好き、綺麗なものが好き、
綺麗だと誤解している・・・あぁ、気持ち悪い。」
「クズだからな。気持ち悪いのは当たり前だ。」
この女、勝手にひとの本棚からラノベを抜き出して読んでいるのだが・・・もう3冊目?
いったいいつからここにいた?
・・・まぁ、いいか。
居ないものとして振る舞おう。
ここはコイツにとってのただの休憩場所なのだから。
・・・
長いこと遊んでいるソシャゲも、強さのインフレが加速してだんだん飽きてきている。特に今回のイベント・・・新SSレアカードの攻撃力は10倍だと?、ガチャ回せという無言の圧力。
止め時か・・・。
「ねぇ。」
おっと、素で居るのを忘れてた。
「ん?」
「おなかすいた。」
時計に目をやればいつの間にか12時を少し回っている。
たしかに腹が減ったな。土日も親は仕事で居ないし。
「台所は使っていいし、素材も冷蔵庫にあるぞ。」
「イヤ。」
ま、そうだよな。
空腹も我慢が出来ないほどではない。だが、腹が減ったと言われたまま我慢するのは普通に居心地が悪い。
それに、どうせ一つ作るも二つ作るも大して労力は変わらん、か。
よっこらせとベッドから降りて、台所へ向かう。
◇ ◇ ◇ ◇
想像以上。
なんて素敵なこの空間。
ここで毎週英気を養って、5日間『素敵な私』を続けるのだ。
心の中に溜まりに溜まった澱。
あれから5年・・・たまり続けてきた毒だ。
それがこんなにもすっきりと抜けていく。
素顔をさらして思う存分ダレていられるこの状況。
パンツ一枚で得られるなら安いものだ。
それに・・・
今まで読み漁りたく思っていても我慢を強いられてきたこのラノベ群。
一度はスマホで買おうかと思た事もあった。
だが、よくよく考えて断念した。
『購入履歴』などというものが残るのだから。
それを恥ずかしいと感じる自分がいるという事は、知られてはいけないという事。
はて、『腹が減った』と言ったら『作れ』と言うので『嫌だ』と言ったら出て行った。(笑)
アレがご飯など作れるはずもないから、コンビニまで行ったのだろう。
この近所なら歩いて7,8分、往復と買い物で20分程か。
・・・これからいつでも出来る事なんてしてる場合じゃないわね。
家探し! それしかないじゃない。(笑)
さっき放り投げてやった私のパンツは大事そうに枕の下に仕舞っていた。(笑)
脱いでしまえばただの布切れに、如何程の価値を見ているのか?
初見で下着を希望する、あれだけの逸材。(笑)
それ以外にもたっぷり隠していそう・・・
ガサゴソとベッドの下を漁るもめぼしいものは無し。
本棚はここへ来た時に確認している。エロい物はない。
はてはPCかと、立ち上げたまま放置されているノートのブラウザーを立ち上げて、履歴を見てみる。
・・・収穫なし。
なるほど、クズはクズでもなかなかのものね。
パッと見えるところに置かないところが得に。
次いで、フォルダーを開いて、『mpg、avi、jpg』で一括サーチ。
・・・エロ動画どころか、アイドル画像すらない。
上手に隠されているファイルや履歴を探すのは時間的に無理そうね。
ふ~~む。あとは何かないかしら・・・。
そう思っていると・・・
(トン・トン・トン・トン)
おっと、もうそんな時間か。
階段を上がる足音を聞きつけ、素早く元の位置に戻ると伏せてあった本を手にとる。
そして、素知らぬ顔を決め込んだ。
(カチャリ)
と、扉が開かれるとイイ匂いがする。ラーメンだ。
まさか作ったの?コイツが?食えるの?(笑)
黙ってどんぶりを二つ置いて、反対側に座るコイツ。
「いただきます。」
「インスタントな。」
ぱっと見インスタントには見えない。
野菜たっぷりの塩野菜ラーメンのようだ。
卵は何だろう・・・温玉かな。
プニュッと箸を刺すと、にゅるッと黄身が溶け出てくる。
いい具合に半熟だ。
スープを一口すする。
ん-、美味い。脂っこくないのがいい。油は敵だ。
スルスルと麺をすすると、これまた程よく固ゆでで旨い。
これは拾いものだ。彼氏兼賄い担当ね。
◇ ◇ ◇ ◇
「ごちそうさま。」
「おそまつさま。」
仮面は外しても一通りの礼儀を欠くつもりはないらしい。
どんぶりをトレーに乗せて部屋から出ようとノブに手を掛けた瞬間、机の上の違和感に気付く。
ぷはっ。(笑)
イヤ本当にクズだなコイツ。
気づいた事は悟られぬよう、下に降りて『丁寧』に使ったものを洗う事にした。
・・・
・・・
「3時ね。」
ぼそりとそう呟く。
冷蔵庫にはシュークリームが1箱あった。4個入り。
だが、言われて持ちに行くのは癪だ。
・・・どうしたものかと思っていると、静かに腰を上げるコイツ。
なんだ?トイレか?
・・・そして、間もなく・・・。
冷蔵庫に入っていたはずのシュークリームを二つ皿に乗せて持ってくる。
イヤ、オマエ。それは良いのか?オマエ的に。
俺はイイんだがな、俺は。家主だし。
「いただきます。」
「あぁ。いただきます。」
「これって、駅前のヤツだって知ってた?
お母さんきっと並んで買ったのよ?」
「それを勝手に食ってるオマエに俺は呆れるが。」
「お母様が、おやつにどうぞってね。
いい人ね。どこかの誰かさんとはえらい違い。」
「オマエ、イイ奴が嫌いなのでは?」
「あの世代ならいい人がいいに決まってる。
同世代のイイ奴なんて、嘘っぽくてゲロ吐きそうだけど。」
そういう疑心に満ちたその心は何処ではぐくまれたんだか俺は心配だ。
ていうか、美女の口から放たれる毒舌とは、これなかなかイイものだな。
・・・ていうか・・・。
「ていうかな。素のお前って可愛いな。」
「ヤメテ、そういうの。死ぬほど気持ち悪い。
今食べたシューが出そう」
「それそれ。クズの俺は人の嫌がることが好きなのよ。」
「アンタが惚れるようだと、この関係も終わりにしないとね。
せっかく見つけたオアシスなのに。」
「おお、そうしてくれるとありがたいな。
俺には一切のデメリットはないし。」
「遊びに行ったら押し倒された・・・って言ったらどうなるかしらね。」
「あぁ。当然俺は転校だな。
そんなことは昨日オマエに呼び出されたときから織り込み済みだ。
だから、イヤで嫌でいやでイヤでたまらなかったよ。ほんと。
どっち転んでも暗澹たる未来しか無かったからな。」
「その未来をすぐに提供できるのだけれど?」
「だな。そこは仕方が無いと諦めてる。」
「なかなか堂に入ったものね。アナタのクズ具合も。」
「ラノベ好きなら持ってっていいぞ?」
「家においておける位なら苦労しないわね。」
「そりゃそうか。大変だな、どうも。」
・・・
「さて、そろそろお暇しようかしら。」
「あぁ。」
「・・・帰りたいのだけれど?」
「帰れば? 所在は分かったし、得るものが無い。」
そこまで俺に言われてはしょうがないのだろう。
黙って部屋を出ていく。
・・・クズのクズたるゆえん・・・本物のクズとは・・・。
そんなつまらんことを考えて俺も部屋を出て後を追った。
・・・一言の会話も交わさないままコイツの家の前まで来る。
送ったという体をとらない以上、このまままっすぐ通り過ぎ、ぐるっと回って帰ることにする。
・・・
それにしても、まだ日も高いこの時間に一人で帰りたくないとはなんだかおかしくないか?いや、放っておけば一人で帰っただろうけど。それでも2度も送れと言ったのがどうにも気になった。
◇ ◇ ◇ ◇
ホント最低のクズね。送ってくれるなら素直にそうすれば・・・いやそうしないからクズなのよね。
もっとも、下心を隠して『送っていくよ』と言われるほど気味悪い事はないのだけど。
まぁ、なんにせよ、最後ちょっと気になる事を言っていたし、この位の距離感の方が長くもつはず。
◇ ◇ ◇ ◇
(明けて日曜日)
今朝もまた、同じ匂いで目が覚める。
またか。
いない体、いない体でやり過ごす、それが一番だ。
珈琲をセットし、着替えをもって下へ行く。
どうも昨日はだいぶ寝汗をかいたらしく、シャツが気持ち悪い。
・・・
部屋着から外着に着替えて戻ると、昨日と同じようにただ黙ってラノベを読んでいるコイツ。
こうして素で居る時はとても綺麗で、あえて昨日そう言ってみたら、心底気持ち悪がられた。
変な勘違いをされちゃ困るが、コイツの顔が良いのは誰だって分かっていることで、それゆえ普段の作り物の顔が気持ち悪いだけなのだ。
・・・
昨日でちょうど頃合いと、長く遊んだソシャゲに見切りをつけて、何かないかと探して回る。
と、しばらくして・・・
「ねぇ。これ新刊出てるみたいなんだけど。」
うん? と、ヤツに目をやれば確かに新刊が出たまま放置してあるタイトルを手に取っていた。
「5巻で急に意味不明になったからな、買いあぐねてる。」
「それ!! わっかる!!
でもさ、だからこその次でしょ?
良ラノベが、ちゃんとクソに落ちたのか、それを確かめないと。」
ほぼクソになったと分かっているタイトルの続編を買う、こんなクソなことがあるだろうか?
・・・いや、・・・ある。
そうだな、それを見極めねばなるまい。
あの、『うわ、やっぱり駄目だったわ!』というあの、『ものすごい毒をそれと分かっていて食わざるを得なかった』、そして『食った』という満足感は、おそらく真のクズしか味わえないもののはずだ。
「ソレの後がダメだと半ば分かっていて、なお読みたいのか?」
「当然でしょ?」
やっぱりこいつも同類か、そういう意味では。
どうとらえるかは分からないが、一つ頷いてまた新たなソシャゲを探す旅に出ることにした。
・・・
昼になり、また腹が減ったとのたまうヤツだったが、今日はどっこいカレーが煮てある。おバカな母親はすっかりコイツが真の彼女だと思っているようなのだ。
「お母様、料理上手じゃん。」
「カレーなんて、誰が煮ても一緒。」
「分かってないねぇ。ま、イイケド。」
・・・
「ごちそうさま。」
「あぁ。」
洗い物を済ませて、気になったことを伝えておくことにする。
「オマエ、だんだんしゃべりも崩れて来てるけど、普段ソレ出したら終いだぞ?」
「普段しっかりと自分を作りこむために、ここで思いっきり崩すのよ。
それより、ずっと本読んでたら肩凝ったんだけど?」
「クズの俺としては利しかないから、いくらでも揉むが。」
「ありがと。おねがい。」
そう言われては否やはない。コイツは断じて好きではないが、体は別だ。
両肩から、肩甲骨、背骨両脇のツボ・・・本人がいう程凝ってはいない。
しかしまぁ、女子とはなんと柔らかいものなのか。
ちょっと力を入れれば、どれだけでも指が入っていきそうだ。
「いっつ!」
「あ、悪い。」
「ん、いや・・・、気持ちいい・・・
誰かに・・・やって・・あげて・・・んの?」
「そんな事をするように見えたんなら驚きだな。」
「そう・・・だよ・ね。・・・ん・・・。」
ええい! 喋るな、艶めかしい。
しかしここで、『手が滑ったー』とか言って胸でも揉んでやれるものならいっぱしのクズ師範なんだがな、クズの上にカスな俺ではとても無理だ。
・・・
「んーー!
さてっと、帰ろうかな。」
「送ってくわ。」
「おっ、昨日よりクズ具合が上がったじゃん。」
・・・家を出て、歩く道すがらでも徐々にコイツの顔つきは変わっていく。そうまでして追い求める自分の美学・・・か。
ていうか、これだけ徹底できてれば、コイツってクズとは呼べないんじゃなかろうか?
「ありがとう。あがってく?」
「じゃ、ちょっとだけ。」
「・・・本当にブレないわね。」
「当たり前だ。」
「それじゃ。」
そう言っていつもの気持ち悪い笑顔で手を振る。
腹からこみ上げるそれを、何とかこらえてグッと飲みこむ。
・・・まずいな。家に居るときの素の状態が可愛い分だけ、あの作り笑いがますます気持ち悪くなってきた。
◇ ◇ ◇ ◇
・・・そしてあっという間にひと月余りが過ぎた・・・
夏休みに入った今も、コイツはこうして毎週家に来る。
せめて自室ではその仮面を外せないのか?
そう聞いてみたい気もするが、そんな事が出来るならここに来る必要はない。
「あっつい。」
「だからエアコン入れようと。」
「ここにいる時くらいは要らない。」
「熱中症とかなんなよ?」
「およ? そうしたら合法的に服脱がせられるじゃん。」
「クズを舐めてんじゃねぇ。たとえそうなっても服に手が掛けられる訳ねぇだろ。見殺しだ見殺し。」
「アンタさぁ、ホモ?」
「だったら今のこの現状はねぇな。」
「だよねぇ。でも、エロい物がなんもないのが訳わからない。
最初はさ、うまく隠してあるかと思ったんだよね。
ところが、存在してない。」
「俺のクズ具合、舐めて貰っちゃ困る。」
「まぁ・・・そうよね。うん。
・・・
ところで、マジあっついね。
プールでも行こうかな。」
「よし、いくか。」
「プッ。そこは即ノってくんのね。」
「俗物なめんなよ。」
「私、水着持ってきてないんだけど。」
「まぁ、そうだろうな。
当然、俺に買えって事だろ?」
「女子の水着って結構高いよ?」
「十分だ、問題ない。」
・・・
・・・そして駅前デパート。
いやしかし、これは相当根性いるな。
女子の水着エリア、こうも内圧が高いとは。
ここだけ10気圧はある。
「好きなの選んで。初めてのプールだから。」
コイツ、デパ内どころか、街が近づくと自然にいつものキモい顔になる。口調ももちろん。
今のも売り子さんがいるから当然だろう。
さて、女子の水着を選ぶなんてことはあるはずが無かったし、これからもあるはずがない。傍目から見ても完璧を求めるコイツ。
ピンクとか花柄とか甘い系は違うな。
白は好みだろうが透けるって話だ。
原色系、能動的な元気っ子には見られたくないだろう。
あくまでも綺麗で爽やかで、そう言うものを選んでおけば間違いない。
「これだ。これにする。」
出来るだけ手っ取り早く、それでも20分ほどかけて水着を決めた。
「すみません、これお願いします。」
「ありがとうございます。ご試着はよろしいですか?」
「良いんですか?」
「ええ。当店では出来る限り在庫品をお渡ししていますので。
そちらも人気商品ですから、大丈夫ですよ。」
そう言われて、彼女は試着室へと向かう。
と、なるとだ。この場に男一人、居心地が悪いなんてもんじゃない。
「とてもお綺麗な彼女さんですね。きっとお似合いですよ。」
これは、なんと受け答えすればいいんだ?
・・・未知の世界過ぎる。
そんな、長い長い苦痛の時間が過ぎ、彼女が水着を手に出てくる。
「大丈夫です。これでお願いします。」
・・・
・・・そしてそのまま屋上にあるプールへ。
「どう?」
「あぁ。」
どうと聞かれて、答えられる言葉などあろうはずがない。
故にそれをクズという。
しかし、外に出ればまたこの笑顔を張り付ける彼女は、これが苦痛なのではなかったのか?
まぁ、クズでカスで、その上ゲスな俺にとっては目の保養になるのだが。
・・・
土曜の今日は、晴天という事もあってかかなり混んでいた。
二人で軽く泳ぎ、ベンチが空くのを見計らって、プールから上がった。
そこらに掛けておいたタオルで場所を取り、飲み物を買いに自販機へ。
「ほい、ノンシュガーと普通のがある。」
「こっちで。」
当然のようにノンシュガーを選んだ。
「家の方が楽じゃないのか?」
「そうでもない。地が出せるだけでストレスは抜けるから。」
「ならいいか。こっちばっかり利益があっても後味が悪いしな。」
「男って本当に不憫な生き物よね。同情を禁じ得ないわ。」
「普通はその不憫な生き物の興味を引くためエロい水着を選ぶんだがな。」
「その割に、ずいぶんと考えたチョイスじゃない?
何でも着るって言ったはずなんだけど。」
「クズの極みって分からんだろ?」
「アナタ程度のクズにクズの何たるかを語られるのはとても不快だけど、知った気になってるのがむかつくから聞いてあげるわ。」
「エロい水着を選んで、イヤイヤ着られるのと、好みをある程度予想してそれなりに喜んで着てもらうのじゃ、顔が違う。
そしてお前は顔だけだ。」
「なるほどね。それなりに理屈はあっていそうに思える。」
「含んだ言い方だな。気に入らん。」
「ま、そっちがそう思っているならいいんじゃない?
所詮その程度のクズという事だしね。」
これをツンデレととらえるのかそうでないかは、その人次第だろう。
・・・
夕暮れの蒸し暑い中を二人で歩く。
当然そこに会話はない。
「ありがとう。今日は楽しかった。」
「あぁ、それじゃ。」
と言って帰ろうとする俺に自分が手に持っているトートバッグを差し出す。
「これ、お願いしますね。」
それはそうか。こんなもの持って帰る訳にはないか。
「あぁ。」
・・・
家に帰り、『それ』をどこに干そうかと思案する。
匂いがつくから干さないという選択はない。
俺のものと一緒にクローゼットにいれたら多分匂いが移る。
・・・俺の匂いがな。
仕方がなく、自分のものをすべて引っ張り出して机に放り投げ、クローゼットに掛けて干すことにした。
・・・
次の週もその次の週も、土曜は読書、日曜はプールというコースになった。ゲスな俺としては大歓迎だ。
そして、夏休みも明日で終わりという最後の日曜日。
いつものように、コイツはここに来たのだが、今日はプールの事は言い出さず、ゆっくり読書にふけっている。
ま、最後だしな。
「ん――――。」
ひときわ大きく伸びをする。
そして・・・
「じゃ、別れよっか。」
突然そう切り出してきた。
なるほど、息抜き期間は十分堪能した、という事だな。
俺としても、ここにいるときのコイツと、出かけている時のギャップがだんだん許容量をオーバーして来て、先週の日曜はとうとう吐いた。
プールの帰りしな、係員さんに『仲が良いね』と褒められたときのコイツの作り笑顔にとうとう耐えられなくなったのだった。
「あぁ、ちょうどいい頃合いだな。」
どこかで息を抜けよ、そうは思うが言葉にする気はない。
クズの俺が口にする様な言葉じゃないはずだ。
最後位は送ろうと、一緒に家を出るが、拒否するつもりはないらしい。
どうやらマジに一人で歩くことに抵抗があるようだ。
・・・
「ありがと。最後位寄っていく?」
「あぁ。それじゃ最後に。」
・・・当然いつものセリフが返って来るかと思いきや、そのまま玄関を開けるコイツ。
当然俺はついていく。
・・・階段を上がり・・・何の躊躇もなく部屋のドアを開ける。
その部屋を見た瞬間、胃から物が込み上げてくるのを何とか飲み下す。
コイツは・・・自分の部屋まで・・・
ここまで・・・仮面で覆って・・・
本当に大丈夫なのかよ?
「オマエらしい部屋だ。」
「『理想の私』の部屋だからね。」
それだけ言葉を交わして、彼女の家を後にする。
あの空間に入る事はとてもできそうになかったからだ。
◇ ◇ ◇ ◇
新学期、休み気分が抜けないまま皆が登校してくる。
さて、別れた事はあいつが伝えるのか、俺なのか・・・
まぁ、どっちでもいいから放っておくか。
休み中のあれこれを詮索されるのが何より面倒だと心配していたところだったが、これと言って全く絡みはなく、平穏無事だった。
そう、ありきたりなクズの日常はこうでなくてはならないはずだ。
・・・
・・・
新学期が始まって一週間、俺もアイツも全く変わったところはないし、別れた話も伝わった様子はない。
どうでもいいから放っておいている。
そう言えば、あのラノベの続き・・・買っていくか。
今のこの気分ならなかなか楽しく読んでゲロも吐けるだろう。
家に帰って、くっそつまらなくなった5巻の続き、6巻を読むことにする。どうでもいいからどうかこれで完結していてください。
お願いします。
もう読めません。
・・・
しかしどうしたことか、前巻でクソのようになったと思っていた展開が、小さなところで最初の頃と繋がっていて驚いた。
これは・・・素直に面白い。
いや、前巻のクソ具合も、この出来が前提なら『アリ』だ。
・・・だが、それはこれを読んだ人のみが得られる満足感。
何人の読者が前巻で読むことをやめただろうか。
アイツの押しが無ければ、これを読む事は無かったなぁ・・・
そう振り返る。
そして、久方ぶりに心地よい眠りについた。
◇ ◇ ◇ ◇
(明けて土曜日)
『冷ッ』とした感触に慌てて飛び起きる。
水が掛かったのだと、頬っぺたを触ろうと手を動かした瞬間、柔らかいものに触れた。
目の前では冷えたコーラを持ったアイツが笑っていた。
「起きがけに触るなんて、ホントにクズね。」
「なんで居んだ?」
「別れたとはいっても、来ないとは言ってない。」
そういう理屈・・・
なるほどな。
ここで気を抜くだけなら彼氏彼女である必要はないのか。
こりゃまた一本取られました!
ま、居ても居なくても変わらない。
・・・そう思っていると・・・
ゴロンと隣で横になるコイツ。
おいおいマジか!
何のサービスだ!
もう知らん!
勝手にしろ!
てか襲うぞ!
(いや・・・それが出来たらいっぱしのクズなんだが。)
とりあえず、空いた左手、これをどうしようかと空を彷徨わせていると。
(グイグイ、グイグイ、その背中とケツで俺を押してくる。)
「おい、狭めーよ。」
「嬉しいでしょ、この変態。」
たしかに嬉しいです。ごちそうさま。
・・・ん?
・・・様子が変だな。
・・・なんか話でもあるのか?
「話があるなら聞くぞ。クズ仲間だからな。」
「いろいろアリガト。」
何しおらしくなってんだ?コイツ。
抱きしめるぞ?
「クズでゲスだから、俺は利益しか得てねーよ。
それより、話し、あんだろ?」
「・・・ん。
近くにさ。いつも優しくしてくれるお兄さんがいたんだよね。
多分大学生くらいだったと思うんだけど。
アイス買ってくれたり、勉強見て貰ったり・・・。
すっごく可愛がってもらってさ。
小さいながらに『お嫁さんになったげるー』とか恥ずかしい事言ってたし。」
うわ。その滑り出しだけでオチまで想像ついたわ。
そりゃこうもなるか・・・。
「うん・・・。」
「ん?もう分った?聞かない?」
「聞く。」
「まぁ、小6の時そいつに悪戯されそうになったって言う、ありきたりなヤツですよ。」
「ひでぇ話だ。大体オマエ未だにPTSDじゃねぇか。」
「一太刀は浴びせてやったから、まぁ痛み分けね。」
「今も近くにいたりは・・・しねぇんだよな?」
「もちろん。額割ってやって、辺り近所中大騒ぎにして、警察沙汰にしてやって・・・引っ越してったわ。」
「自業自得だな。」
「それからかなぁ。『イイ人』を作ってる奴を見ると気持ち悪くなって。
作ってなくても優しそうなだけで気持ち悪く感じてさ。」
「なのに、自分であの姿を作ってるのはおかしくね?」
「完璧な私で完全武装して、寄せ付けないようにしてるのよ。
不思議とね。隙が無いと絡まれにくいものなのよね。」
「好かれるのが嫌、嫌われるのがイイってのも、難儀なもんだな。」
「アンタさ、外にいるときはゲロ吐きそうな顔してるけど、
ここにいるとデレデレだからね。それでもうやめようと思ったのよ。」
「実際最後吐いたしな。
それに、勘違いするなよ?
+1万と、-1万を足せばゼロだからな。
俺がお前に惚れる可能性は完全にゼロだ。」
「今が+1万っていうのがね、もうキモすぎ。」
「抱きしめるぞ、この野郎。」
「どうぞ、その勇気があるのなら。」
「おい。
俺がクズでカスでゲスだって忘れてねーか?
イイと言ったらホントにやるぞ?」
「あっ! ゴメン!」
そう言って、慌てて体を起こして離れるコイツ。
「クズ友達だからな、いつでも来ていいし、好きなだけいろ。
うかつなことを言わねー限り、何もしねーし。」
(ボフッ)
イイ事言ったはずなのに、いつも座ってたクッションが飛んできた。
「そういうデレは気持ち悪いから。」
「はいはい。」
長い夜のお供にでもなれば。