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ある変人陰陽師曰く、  作者: 花咲泉
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琴明の仕事・後編

海を渡った大陸の、さらに西の西には果実酒に鉛を溶かして甘くしたり、長持ちさせたりすることがあるらしい。しかし、都の近くで造られたものならそんな必要がない。


何より鉛は身体に毒である。

もし、御門の飲み物に鉛が溶けていて鉛中毒を起こしたとしたら宮廷医が気づくだろう。

ともなれば、鉛を摂取した経路はこうだと考えられる。

「貴方方は蜜柑酒を陶器に注いでいたのではないですか?」

蜜柑は酸の性質をもつ。酸はものを溶かす。

「確かに陶器で飲んでいたが、それの何が問題なのだ?」

「陶器で果実酒や果実水を飲むと、陶器の色付けに使われる釉薬が液体に溶けだしてしまうことがあります。釉薬には鉛が含まれています。鉛は人の体に溜まりやすいのですが、鉛を好む物の怪がいるのです」


そんなのいるわけないが、ここで馬鹿正直に中毒について説明してしまうと陰陽師の仕事がなくなってしまうので嘘をつかせてもらう。

物の怪すなわち病、だと考えればあながち間違いでもない。

「それで、その物の怪を祓うにはどうすればいいのだ?」

「こちらはご存知ですか?」


響はそう言って懐から茶葉を取り出す。粉末にしていないが分かるだろうか。

「これは…茶でしょうか?」

「はい」

やはりその三はやりおる。一方その一は、

「茶?茶ってかなりの高級品ではなかったか?こんな草が?」

と失礼なことを言ってくれる。草だなんて。

健康志向の者にとってはお茶様様だというのに。

「茶には色々な効能がございます。この茶葉を差し上げますので湯を注ぎ、抽出したものを飲むようにしてください。ただ、就寝前に飲んでしまうと良い睡眠の妨げとなるので注意して下さい。茶葉は三回程使うことができますが、一晩経ったものは使わない方が好ましいです」

「あい分かった」

「しかし、このような高級品を頂いても宜しいのでしょうか?」


その一が言っていたように、茶葉は高い。

響は大貴族殿に出来た茶を差し上げるという約束で茶の苗を三つほど買ってもらい、自宅の庭で栽培することに成功したのだ。

よって、多少の大盤振る舞いだが人にあげることはできる。


「ええ、今回は特別です。もし気に入りましたら次回からは請求させていただきます」

当然だ。高いんだから。しかし、営業笑顔(スマイル)は忘れない。初対面での印象は今後に関わる。


「それは、ありがとうございます」

「あと、風呂に入ったり、体力が回復したら鍛錬をしたりして汗を流すようにして下さい」

「つまり、体に溜まった毒を出せば良いのですね」

「…はい。そういうことです」

(これは茶の利尿作用も含めて言っているのか?)

もしそうだとしたら、かなりの学がある。

そんな訳ないか、と思いつつ言葉を続ける。

「これから果実酒や果実汁など、酸いものを嗜むときは陶器製のものは避けてくださいね。」

「了解した。」

「ありがとうございました。」

「いいえ、お大事に。」



〇●〇



「ご苦労。解決したか?」

「はい。鉛中毒でした。」

「ほう。お前の前では陰陽師など不必要な存在だな。」

清星は意地の悪い顔をしてクククと笑う。


「おやめ下さい。陰陽師はこの国の民にとって、なくてはならない存在です。」

「だが、そなたの知識の前ではどんな不可解な事件も解決するではないか。」


確かに、響が琴明としてここで働きだしてからは他の陰陽師が解決出来なかった事件も順調に片付けてている。

しかし、知識があっても解決出来ないこともあるのだ。

「今までは知識があれば解決出来るようなことばかりでした。しかし、そうでない場合もございます。」

「どのような時だ?」

「例えば、心の病です。心が弱っている時は負の力が身体に蓄積していきます。改善するには心の病を克服するしかないのですが、個人の問題なので他人が関与すると悪影響を及ぼすやも知れません。」

「では、そなたは心の弱みにつけこむ負の力を物の怪だと考えているのだな。」

「はい。そういうことです。」


悔しいが、知識だけではどうにもならないときもある。今まで心の病に侵されて狂ってしまった人間を幾度となく見てきたが、その者たちの殆どは自ら命を絶ってしまった。そんな心の病を治すとまではいかなくとも、安らげることが出来るのが陰陽師であると響は考えている。



「さて、琴明殿、次の仕事だが、五星処(ごじょうどころ)に行ってきてくれ。」

「…承知致しました。」

「嫌そうだな。」


快活に笑いながら清星は木簡に筆を滑らせる。この許可証がなければ例え陰陽師であっても大星処には出入りすることが許されない。

何故なら、場所が場所だからだ。

そして、場所が場所であるために面倒臭い。


「普通は喜んで行くものだがな。」

「…ああいう雰囲気は好きではありません。」

「まあ、そう言うな。上手い話が舞い込んでくるかも知れぬぞ。お前ほどの実力があれば昇格も出来るだろう。」

(出世には興味が無いが、給料が上がるのは嬉しい)

「そうですね。昇格はしたいです。」

「なら頑張ってこい。行った、行った」

清星は書き終わった許可証を響に手渡すと畜生を追い払うような仕草をした。


(この人、良い人だけど何気に人使い粗いんだよなあ)

気乗りしないが仕方がない。目指せ昇給!

「行って参ります」

そうして響は内裏近くにある五星処に向かった。






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