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第2章 「都市伝説を愛する少女」

 適当な喫茶店で話を聞くと、少女と俺が探しているのは同じ店のようだった。

「少し前の私は、都市伝説や怪談を真似て人を驚かせる、悪趣味なイタズラをして遊んでいたんです。口裂け女の真似をして夜道に立ったり、パーティーグッズのお面を犬に被せて人面犬に仕立て上げたり…」

 成程、確かに悪趣味だ。

「でも、あのラーメン屋さんに諭されて、キッパリ足を洗いました。その事で、御礼が言いたくて…」

 彼女は単なる客ではなく、恩義を感じて探しているようだ。

 俺にしたって、あのラーメン屋の大将に会わなかったら、急性アルコール中毒で倒れていたかも知れないからな。

「だけど…調べたら驚くべき事が分かったんです。あのラーメン屋さんは10年前の火事で全焼して、この世に無いんですよ。」

「な、何だって?!」

 少女が差し出したのは、縮小版をコピーしたと思しき新聞記事。

 そこには花火工場の爆発事故と、ラーメン屋の延焼が報じられていた。

 店名は箸袋と同じ「紀州亭」で、住所もピッタリ符合する。

「店主と思わしき男性1人の、死亡確認…」

 活字を読み上げる俺の声が、知らないうちに震えていた。

 あの気さくなラーメン屋の親父が、この世の人では無かったという事は…

「俺と君は、幽霊のラーメンを食べたのかよ?」

「ええ、恐らくは…」

 豚骨仕立ての醤油スープの濃厚な風味も、黄色くて細い麺の喉越しも、ありありと思い出す事が出来る。

 あれが全て、幽霊の作った幻だったなんて…

「幻のラーメン屋か…あのラーメンは、もう食えないのか…」

 こうして執着している俺は、ある意味では幽霊のラーメンに憑かれているのかも知れないな。

「出来るかも知れません。私のブログに来た情報を試してみたら…」

 話を聞いてみると、この少女は都市伝説や怪談を収集して考察するブログの管理運営をしているらしい。

「『都市伝説収集基地』管理人、鳳駆露亜(ほうくろあ)…変わった名前だなぁ…」

 少女から受け取った名刺を読み上げ、俺は思わずボヤいてしまった。

「フォークロアをもじって鳳駆露亜。良いハンドルネームと思ったんですけどね。滝谷明(たきだにあきら)さん…不動産屋さんなんですか!事故物件絡みの怪談をお伺いしたいですが、それは次の機会に致しますね。」

 向こうはハンドルネームだが、俺の名刺は仕事用で本名が書いてあるから、些か不公平の感がある。

 それでも、堺県立御子柴高等学校1年生と書かれた生徒手帳を見せて貰ったから、一応信頼は出来たが。

 この時に彼女の本名も聞いたが、未成年の個人情報を無闇と口にするのは好ましくないので、ハンドルネームの露亜(ろあ)で呼ばせて貰う事にしよう。


 翌週の土曜日。

 準備を整えた俺達は、南海本線の各停電車に揺られていた。

「私のブログに、タイムスリップした女の子の報告があったんですよ。電車の中で居眠りしたら、別の時代に来てたんですって。元の時代を強くイメージしながら舟を漕ぐ事で、また帰って来れたとか。」

 露亜の秘策というのは、わざと電車内で寝落ちして、意図的にタイムスリップを起こす事らしい。

「火事で焼ける半年前。あの店は『堺タイムズ』の取材を受けていました。この日を強く思い浮かべていれば、きっと行けるはずです。」

 そう言って彼女が取り出したのは、古い地方新聞の切り抜きだった。

「この切り抜き記事を後生大事に持っていれば、この時代に行けるだって?そんな無茶な…」

「僅かな可能性でも賭けたいと思ったから、滝谷さんも乗ったんでしょ?」

 言われてみれば、返す言葉がない。

 でなければ、寝落ちし易いように徹夜などしないだろう。

 花の金曜日だというのにワザと残業して、帰宅したら深夜放送とネットゲームでひたすら夜更かしして。

 俺も随分と酔狂だよな。

「まあ、ダメ元でやってみるか…」

 俺の呟きに返事はない。

 寝付きが良いのか、露亜は既に夢見心地で舟を漕いでいた。

 スゥスゥという可愛らしい寝息を聞いていると、俺まで眠くなってくる。

 車内で頭を突き合わせて眠る俺達は、他の乗客からどう見えてんだろうな…

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― 新着の感想 ―
[一言] まさに幻のラーメン屋。 なんかこういう美味しいラーメンと出会う時って、 無性にラーメン食べたい時には、見つからず 作中のようにへべれけ状態の時に出会ったりしますよね。
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