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おにぎり日和   作者: ひろゆき
7/41

 一食目  ーー  どういうことだよ、これは?  ーー (6)

 背徳感に体は突き動いてしまう。

 それは時間も何も関係なく。

           6



 弁当を自分で買うのは今日だけで済んでほしい、と昼休みが終わってからも願っていた。

 小腹が空いたのは、午後十時半をすぎたときである。こんな時間に何か食べることは体に悪いことは痛感していても、つい朝に買ったスナック菓子を食べようと思い立った。

 わかってはいても、背徳感がたまらない。

「ただいま、と」

 あとはお茶を、と棚からコップを出そうとしていると、姉が仕事から帰ってきた。

 リビングのソファーにバックを放ると、すでに開けていたスナック菓子を有無を言わずに食べ始めた。

 満足げにパリパリと食べる姉。

 ちょ、ちょっと待てっ。

 冷蔵庫からお茶を出そうとしていた僕の手が止まる。

「何勝手に食べてんのさ」

 目を丸くして声が上擦ってしまう。僕はまだ一つも食べていないんだぞ。

「まだ食べてないんだぞっ」

「あ、そう。いや、開いていたから、もういいと思って」

 怒鳴る僕を尻目に、姉は悪びれることなく、憎らしげに目を細めた。

 余計に憎らしい。

「あ、私もお茶ちょうだい」

 もちろん、僕は従うつもりはない。

 ……なのに人質を取られてしまっている。

 仕方がなく姉のコップを取り、お茶を入れてしまっていた。

「そういえば、結局あんたお昼どうしたの?」

「朝、コンビニでおにぎり買った。姉ちゃんは?」

「私も。まったく、面倒よね」

「あまりデカい声で言うなって。聞こえるんだから」

 お茶を受け取りながら嘆く姉。二階の部屋に母親がいるので、注意を促す。

 それなのに、ふざけて首を傾げる姉。ワザと言っているとしか見えず、呆れてしまう。

「でもほんと、母さん何が原因なんだろ?」

 ふと天井を見上げて呟いてしまう。

「やっぱ、なんか怒らすことでもあったのかな……」

「あんたがワガママ言うからでしょ」

「それはお互い様だろ」

 自分に非はない、という胸を張った態度に、思わず声が高ぶってしまう。

「まぁ、明日が元に戻ってればいいんだけど……」

 完全に無視されてしまう。まぁ、その通りではあるのだが。

 にしても、いつになればお菓子を返してくれるのか。

「今日が無理だったんなら、明日も無理なんじゃない。ほんと、ずっとだとキツいんだけど。 ……なんだったら、あんたが作ったらどう?」

「はぁ? なんだよ、急に」

 お菓子を諦めてお茶を飲んでいると、とんでもない提案に吹き出しそうになる。

「だって、そうじゃん。昔はよく料理してたじゃん」

「いつの話だよ」

 まぁ、料理自体は今も嫌いじゃない。でも、多少の興味がある程度である。今さらという気持ちである。

「いいじゃん。あんたちょっと調べて作ってみたら」

「また無茶苦茶だな。だったら、姉ちゃんも自分で作りなよ」

「私は無理」

 迷いもなく即答する姉に眉をひそめる。

「料理ぐらいしろよ。弁当ぐらいさ」

「ううん。やんない」

 半ば嫌味を込めているのだが、まったく懲りていない……。

 服従しているわけではない、絶対に。

 けど、

 悔しいけど、逆らえないのである。

 本当に悔しいけど。

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