一食目 ーー どういうことだよ、これは? ーー (6)
背徳感に体は突き動いてしまう。
それは時間も何も関係なく。
6
弁当を自分で買うのは今日だけで済んでほしい、と昼休みが終わってからも願っていた。
小腹が空いたのは、午後十時半をすぎたときである。こんな時間に何か食べることは体に悪いことは痛感していても、つい朝に買ったスナック菓子を食べようと思い立った。
わかってはいても、背徳感がたまらない。
「ただいま、と」
あとはお茶を、と棚からコップを出そうとしていると、姉が仕事から帰ってきた。
リビングのソファーにバックを放ると、すでに開けていたスナック菓子を有無を言わずに食べ始めた。
満足げにパリパリと食べる姉。
ちょ、ちょっと待てっ。
冷蔵庫からお茶を出そうとしていた僕の手が止まる。
「何勝手に食べてんのさ」
目を丸くして声が上擦ってしまう。僕はまだ一つも食べていないんだぞ。
「まだ食べてないんだぞっ」
「あ、そう。いや、開いていたから、もういいと思って」
怒鳴る僕を尻目に、姉は悪びれることなく、憎らしげに目を細めた。
余計に憎らしい。
「あ、私もお茶ちょうだい」
もちろん、僕は従うつもりはない。
……なのに人質を取られてしまっている。
仕方がなく姉のコップを取り、お茶を入れてしまっていた。
「そういえば、結局あんたお昼どうしたの?」
「朝、コンビニでおにぎり買った。姉ちゃんは?」
「私も。まったく、面倒よね」
「あまりデカい声で言うなって。聞こえるんだから」
お茶を受け取りながら嘆く姉。二階の部屋に母親がいるので、注意を促す。
それなのに、ふざけて首を傾げる姉。ワザと言っているとしか見えず、呆れてしまう。
「でもほんと、母さん何が原因なんだろ?」
ふと天井を見上げて呟いてしまう。
「やっぱ、なんか怒らすことでもあったのかな……」
「あんたがワガママ言うからでしょ」
「それはお互い様だろ」
自分に非はない、という胸を張った態度に、思わず声が高ぶってしまう。
「まぁ、明日が元に戻ってればいいんだけど……」
完全に無視されてしまう。まぁ、その通りではあるのだが。
にしても、いつになればお菓子を返してくれるのか。
「今日が無理だったんなら、明日も無理なんじゃない。ほんと、ずっとだとキツいんだけど。 ……なんだったら、あんたが作ったらどう?」
「はぁ? なんだよ、急に」
お菓子を諦めてお茶を飲んでいると、とんでもない提案に吹き出しそうになる。
「だって、そうじゃん。昔はよく料理してたじゃん」
「いつの話だよ」
まぁ、料理自体は今も嫌いじゃない。でも、多少の興味がある程度である。今さらという気持ちである。
「いいじゃん。あんたちょっと調べて作ってみたら」
「また無茶苦茶だな。だったら、姉ちゃんも自分で作りなよ」
「私は無理」
迷いもなく即答する姉に眉をひそめる。
「料理ぐらいしろよ。弁当ぐらいさ」
「ううん。やんない」
半ば嫌味を込めているのだが、まったく懲りていない……。
服従しているわけではない、絶対に。
けど、
悔しいけど、逆らえないのである。
本当に悔しいけど。