一食目 ーー どういうことだよ、これは? ーー (5)
コンビニのおにぎりを買うなら、何にするかは決まっている。
それは昔から変わらない。
5
朝はどうなるものか、と不安が少なからずあったけど、たまにはコンビニで買うのも悪くない、と多少の満足感もあった。
「あれ? お前、今日は弁当じゃないのか?」
昼休み、ほのかな期待を持ちつつ、コンビニの小袋を机に出すと、前の席の椅子に座った友人、藤田陸人が物珍しそうに首を伸ばしてきた。
小柄で、メガネをかけていて、細身なのだが、そこにある不思議さを持つ奴である。
普段、こいつの席は離れているのだが、昼休みはここに来て弁当を食べていた。
「まぁね。たまにはいいかなって」
まさか母親に拒否されたと言えるわけがない。ここは気分転換だとごまかしておこう。
結局、何を買うべきか迷ってしまったが、定番の“梅”、“カツオ”、そして“ツナマヨ”の三種類にしておいた。
数多くあったなかから定番を選んでしまう自分が情けなくもある。もっと冒険をするべきだっただろうか。
あとは緑茶を買っておいた。もちろん、スナック菓子も。それは家で食べようとカバンに仕舞ってある。
「それって、あそこのコンビニか。だったら、あそこのワッフルも買えばよかったのに。あそこの美味いから」
藤田は笑いつつ弁当を広げると、すぐに玉子焼きにはしを突き刺した。
「お前みたいなスイーツオタクじゃないし、買う気なんかないよ」
藤田は相当な甘党で、いつも何かしらのスイーツを持っていることが多い。現に今も弁当の横にシュークリームが置かれている。
ただ、それでもこいつは小柄で細い。そこが不思議である。どこで糖分を消費しているのか。
「太るか虫歯になるな、お前は」
だからこそ、嫌味を献上してやった。
さて、スイーツオタクは無視してご飯である。
まずはカツオにする。そして梅。最後にツナマヨ。これだけは絶対に外せない。
フィルムを剥がしながら、藤田の弁当を覗くと、胡麻のかかったご飯に唐揚げといったおかず。
「なぁ、お前って弁当のことで、親に文句言ったことあるか?」
きっと、昨日までの当たり前の光景なのだろうけど、自分のこともあり、ふと聞いてみた。
突拍子のない問いに戸惑ったのか、藤田ははしをくわえて止まった。
「なんだよ、急に?」
「ん? うん、ちょっと気になってさ」
やはり唐突すぎたか。だからといって、母親のことは黙っておくしかない。
「まぁ、そりゃあるよ。魚はいらないとか、煮物はいらない、とか」
うん、だよな。
そうした文句は僕もある。それぐらい普通だよな。
「で、それでどうなった?」
「別に。ただ、嫌なのは入らなくなっただけだよ」
平然と答える藤田。奇妙なことを言う僕に、瞬きを繰り返している。
……だよな。だったら、母さんがおかしいのか、やっぱり……。
釈然としないまま、おにぎりを口に運ぶ。
「わかってないんだよ。正直言えば、弁当なんて茶色ければいいんだよ」
「茶色?」
「ーーそ。揚げ物と肉な」
はしを突き立て、自信満面な笑みで断言してみせた。
「何、言ってるんだよ。お前はおかずよりスイーツがメインだろ」
皮肉と嫌味を込めたつもりで強く言ったのだが、藤田にはまったく響いておらず、それどころか「それもありか」という様子で強く頷いていた。
これでは何を言っても打撃にはなりそうにない。諦めるしかないか。
本当になぜ太らないのだ?
もう聞く気も失せてしまい、またおにぎりを口に運ぶ。
ふと手が止まった。
最近、いつコンビニのおにぎりを食べただろうか。
……美味しいな。うん、最悪、ずっとこれでもいいかな。
意外だったので、ちょっと驚いてしまった。
弁当に対する、こだわりとか期待はある。
でも、それは母親に対しての文句じゃないはず。
これが原因じゃないでしょ?