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おにぎり日和   作者: ひろゆき
6/41

 一食目  ーー  どういうことだよ、これは?  ーー (5)

 コンビニのおにぎりを買うなら、何にするかは決まっている。

 それは昔から変わらない。

            5



 朝はどうなるものか、と不安が少なからずあったけど、たまにはコンビニで買うのも悪くない、と多少の満足感もあった。

「あれ? お前、今日は弁当じゃないのか?」

 昼休み、ほのかな期待を持ちつつ、コンビニの小袋を机に出すと、前の席の椅子に座った友人、藤田陸人が物珍しそうに首を伸ばしてきた。

 小柄で、メガネをかけていて、細身なのだが、そこにある不思議さを持つ奴である。

 普段、こいつの席は離れているのだが、昼休みはここに来て弁当を食べていた。

「まぁね。たまにはいいかなって」

 まさか母親に拒否されたと言えるわけがない。ここは気分転換だとごまかしておこう。

 結局、何を買うべきか迷ってしまったが、定番の“梅”、“カツオ”、そして“ツナマヨ”の三種類にしておいた。

 数多くあったなかから定番を選んでしまう自分が情けなくもある。もっと冒険をするべきだっただろうか。

 あとは緑茶を買っておいた。もちろん、スナック菓子も。それは家で食べようとカバンに仕舞ってある。

「それって、あそこのコンビニか。だったら、あそこのワッフルも買えばよかったのに。あそこの美味いから」

 藤田は笑いつつ弁当を広げると、すぐに玉子焼きにはしを突き刺した。

「お前みたいなスイーツオタクじゃないし、買う気なんかないよ」

 藤田は相当な甘党で、いつも何かしらのスイーツを持っていることが多い。現に今も弁当の横にシュークリームが置かれている。

 ただ、それでもこいつは小柄で細い。そこが不思議である。どこで糖分を消費しているのか。

「太るか虫歯になるな、お前は」

 だからこそ、嫌味を献上してやった。

 さて、スイーツオタクは無視してご飯である。

 まずはカツオにする。そして梅。最後にツナマヨ。これだけは絶対に外せない。

 フィルムを剥がしながら、藤田の弁当を覗くと、胡麻のかかったご飯に唐揚げといったおかず。

「なぁ、お前って弁当のことで、親に文句言ったことあるか?」

 きっと、昨日までの当たり前の光景なのだろうけど、自分のこともあり、ふと聞いてみた。 

 突拍子のない問いに戸惑ったのか、藤田ははしをくわえて止まった。

「なんだよ、急に?」

「ん? うん、ちょっと気になってさ」

 やはり唐突すぎたか。だからといって、母親のことは黙っておくしかない。

「まぁ、そりゃあるよ。魚はいらないとか、煮物はいらない、とか」

 うん、だよな。

 そうした文句は僕もある。それぐらい普通だよな。

「で、それでどうなった?」

「別に。ただ、嫌なのは入らなくなっただけだよ」

 平然と答える藤田。奇妙なことを言う僕に、瞬きを繰り返している。

 ……だよな。だったら、母さんがおかしいのか、やっぱり……。

 釈然としないまま、おにぎりを口に運ぶ。

「わかってないんだよ。正直言えば、弁当なんて茶色ければいいんだよ」

「茶色?」

「ーーそ。揚げ物と肉な」

 はしを突き立て、自信満面な笑みで断言してみせた。

「何、言ってるんだよ。お前はおかずよりスイーツがメインだろ」

 皮肉と嫌味を込めたつもりで強く言ったのだが、藤田にはまったく響いておらず、それどころか「それもありか」という様子で強く頷いていた。

 これでは何を言っても打撃にはなりそうにない。諦めるしかないか。

 本当になぜ太らないのだ?

 もう聞く気も失せてしまい、またおにぎりを口に運ぶ。

 ふと手が止まった。

 最近、いつコンビニのおにぎりを食べただろうか。

 ……美味しいな。うん、最悪、ずっとこれでもいいかな。

 意外だったので、ちょっと驚いてしまった。

 弁当に対する、こだわりとか期待はある。

 でも、それは母親に対しての文句じゃないはず。

 これが原因じゃないでしょ?

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