ーー ごちそうさま ーー
おにぎりにまつわる話。
思いもよらないことから、ありふれた日常が変わってしまった物語も、今回が最終話になります。
よろしくお願いします。
ーー ごちそうさま ーー
今日は少しがんばってみようと思い、いつもより少し早くに起き、ご飯を炊いていた。
キッチンにはすでに弁当箱が二つ並べられている。
だがここに僕の弁当箱はない。
昨日のことである。
夕食時、あたかも「おかわり」と言い出す雰囲気で、姉にまた彼氏の分の弁当を作るよう強要されたのである。
もちろん僕は拒否した。しかし、すでに姉の耳には届かず、今にいたるのである。
だから今回も、いや今回こそ、姉にプレッシャーを与えるべく、ちょっと手を加えようとしていた。
まず炊きたてのご飯をボールに移し、そこに酢、砂糖を加えて、しゃもじで切るように混ぜていく。
全体的に混ざると、ご飯を冷まさなけばいけない。その間にほかの具材の準備をする。
用意したのはキュウリ、レタス、カニカマ、ツナ、あとはマヨネーズと。
キュウリは縦に細く切り、レタスも千切っておく。ツナは油を切って小皿でマヨネーズと混ぜておく。
そして、今回重要なのは“巻きす”である。今日はサラダ巻きにしたいので。
「……さ、始めるか」
ご飯が冷めてきたところで、パンッと手を叩いた。
巻きすの上に海苔を敷くと、そこにご飯を敷くが、ここで多くなると巻きにくいので難しい……。
さらにその上にレタスを重ねる。そして、手前にキュウリにカニカマ、ツナマヨを置く。
あとは巻いていくだけだけど、手が止まってしまう。
実は巻き寿司を作るのは初めてなので、意外にも緊張してしまう。
大丈夫、と自分に言い聞かせ、一気に手前から巻いていく。
思いのほか上手くいき、最後にギュッと形を整えた。
「あともう一本、と」
巻きすを剥がし、完成したサラダ巻きを眺め、ふと手が止まる。
同じように巻くのはちょっと……。
はて? これは僕の悪い癖なのか?
急に思い立ち、僕は冷蔵庫から卵を取り出し、フライパンをコンロに乗せた。
手早く薄焼き卵を作っていく。できるだけ焦げないように気をつけて。
もう一つはきんし巻きしようと浮かんだのである。
焼き上がった薄焼き卵を、海苔の代わりに巻きすに乗せる。このとき、巻きすに挟んで破れるのが嫌だったので、一応ラップをかましておく。
「あとはさっきと同じ要領でっと……」
完成したサラダ巻きにきんし巻き。
切り分けて皿に並べると、僕はつい腕を組んで眺めてしまう。自然と頬が緩んでしまう。
満足 でしかない。想像以上の完成度に。
あとは弁当箱に詰めるだけである。
そこで、姉が用意していた弁当箱に視線を落とした瞬間、綻んでいた表情が一気に険しくなる。
「……誰のために作っていたんだ、僕は……」
早く起こされている僕なのに、当の本人はまだ部屋で寝ている。この不条理にどうしても納得がいかない。 ……タバスコでも入れればよかったか……。
舌打ちをしながら、自分の弁当箱も用意した。
それは、これまで使用していた黒いものではなく、新たな弁当箱である。
木目調の新しい弁当箱。“わっぱ”と言うらしく、今日の巻き寿司には合いそうである。
真新しい弁当箱に、僕は笑顔を取り戻した。
この弁当箱は、福原に薦められた物であった。
先日、福原に誘われて向かった雑貨店で、「この弁当箱は?」と。
今日、それを初めて使うことになり、ちょっと嬉しくなっていた。
「うん。やっぱ、いいこともあるよな」
毎日、弁当を作ることは大変だ。いろいろとおかずを考えたり、栄養も考えたりしなければいけない。
朝も早く起きなければいけないし、下準備を考えれば、前日からしなければいけないかもしれない。
僕にはそんなことは無理だ。
自慢じゃないが僕にそんな自信はない。
だから“おにぎり”だけ、と逃げた。それだけなら、まだ自分でもできるか、と。
甘かった。
なめていた。
それでもかなり大変である。これから先も続けないといけないと考えると、難しいんだけど。
やはり僕は料理することが好きらしい。
苦しい、大変だと思うなかでも、それ以上に高ぶる気持ちが体を動かしていた。
楽しいんだ、と。
了
今回、何か食べ物にまつわる物語を作ってみたいな、という思いからこのような物語にしてみました。
できるかぎり、食べ物や食材を出せればいいな、と書いてみました。
今回は大きな事故や事件のようなものはなく、(貴樹にしてみれば、お弁当を作ってもらえないことは事件かもしれないですが)静かに流れる日常になれば、とこのような形になりました。
ちょっとした遊びとして、姉に振り回されるようにしました。
ただ、毎回のことなんですけど、今回はおにぎりの具材に悩んでしまいました。やっぱ、難しいですね。
最後まで呼んでいただき、ありがとうございました。
また今回は、この言葉で閉めさせてください。
ごちそうさまでした。




