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おにぎり日和   作者: ひろゆき


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40/41

 六食目  ーー  おにぎりを握ること  ーー (5)

 今日ばかりは、反省点を書いてしまう。

 今日ばかりは、だけど。

           5



 肉を初めて利用したことは、成功したと自信を持てる。

 自分の油断から疑われ、不甲斐ない結果になってはしまったが。

 福原がいなければ、きっと白状してしまい、藤田に散々茶化され笑われていただろう。

 これだけは絶対にバレないようにしなければ。

 午後の休み時間、頬杖を突きながら、ノートと睨み合っていた。

 大きさは○

 焼き加減はもう少し強くてもいい。

 味つけは……。

 と、ノートの隅に書き加えていた。

 普段はそうはしないけど、今日は自分でも気に入ったので、反省点を踏まえてつい書き出してしまった。

 ノートはまったく関係のない現代文ではあるが。

 ふと、教室の窓の外を眺めた。空は晴れていても、風が強いらしく、グランドの隅に植えられた木々の葉が強く揺れていた。

 ノートを突いていたシャーペンが止まる。

 もう少し、ショウガを入れてもいいか。あとは、醤油のタレを焼肉のタレに変えて焼いても……。

 新たに書き加えようとしていると、どこかからか視線を感じてしまい、手が止まる。

 誰かにバレた、と顔を上げて辺りを見渡す。教室では多くの生徒が席を立ち、仲のいい者と喋っている。

 ざわめきが壁となって守られていた。ただ一人、福原を除いて。

 ゆっくりと右へ視線を動かすと、隣の席で頬杖をつき突き、こちらを楽しそうに笑っていた。

「……その、さっきはありがと。助かった」

 まだ落ち着かない。何か弱みを掴まれているみたいで息が詰まる。

 それでも、昼休みは福原の機転がなければ、僕は終わっていたので礼を言った。

 あくまで平静を装い。

「あ、それはいいの。それより何、それ? なんか楽しそうに見えたけど」

 と強引に首を伸ばして、ノートを覗き込んできた。

「ーーん? これって…… 味…… って、もしかしておにぎりの反省?」

 ノートの隅に気づいた福原は、目を輝かせる。

「まぁ、今回だけだけど、なんかその……」

 もう福原に隠し事をしても意味がないはずなのに、途中で言葉に詰まってしまう。

 上手く説明できなくて、椅子に深く凭れた。

「もしかして、肉巻きおにぎり、あんまり好きじゃなかった?」

「あ、違う、違う。それはすごく助かったよ。ただちょっと……」

 すぐに手を振って否定した。福原の助言には本当に助かっている。

「物足りなかったんだよな」

 ペン回しをしながら呟いた。この表現が一番しっくりときて、つい唸ってしまう。

「ーー物足りないって、味のこと?」

「わかんないんだ。それでちょっと書き出していたんだ」

 ペン先でノートに書いた部分を指した。

 ペン先に力を入れたまま、宙を見上げてしまう。閑散とした教室の天井が視界に入るだけで、名案は浮かんでくれない。

「だったら、やっぱり弁当箱を変えてみたらどうかな?」

「ーー弁当箱?」

 キョトンとして福原を見ると、コクンと頷かれる。

「弁当箱って言っても、いろいろあるんだよ。楕円形だったり、四角だったり、二段式になっていたり。それこそ、材質が違っていたりしてさ」

 福原は手で丸を作ったり、楕円を作ったりしてみせた。

「そうしたらさ、同じものでも、見た目の雰囲気が変わるかもしんないよ。それだったら、谷口くんの言ってる“物足りなさ”が埋まるかもしんないよ」

「……そうなのかな?」

 どうもしっくりとせず、腕を組んで首を傾げてしまう。唇を噛み、頬を尖らせながら。

「ねぇ、谷口くんって今日、暇?」

 自ら混沌の深みに足が奪われていきそうになっていると、意図の掴めない問いが耳に入ってくる。

 一瞬、迷いそうな視線が福原を捉える。

 呆然とする僕に、福原はニコッと笑う。

「もし、暇だったら、一緒に弁当箱を見に行かない? 私の知ってる雑貨店ってさ、いろんな形の弁当箱が置いてあるの。カワイイやつとか。それ、見に行ってみない?」

「ーーえっ?」

 その笑顔は女神のような、慈愛に満ちており、心がざわめいてしまう。

 あれ、動揺してる? 驚いてる?

 あれ? あれ?

 ……えっ?

「ね、どうする?」

 ここ最近、おにぎりを作っていて抱いていたのは空虚感。

 確かに僕は料理することは嫌いじゃない。むしろ好きである。

 でも何か気持ち悪さもあった。

 それは面倒臭さとは違う。 

 姉の分を作らなければいけない苦労も当然ある。でも、やっぱり好きだから作ってしまう。

 そんな矛盾した苦しさに悩んでしまう。

 やはりしっくりくる表現は“物足りない”のである。

 それを誰かに話すことも相談することもできなかった。

 恥ずかしいから。

 バレたくないから、ずっと黙っておくべきだと考えた。

 それが当然だと考え、無意識のうちに辛いと感じていたのかもしれない。

 でも。

 悪いことばかりじゃないみたいだ。

「ーーね、どうする?」

「ーー行くっ」 

 悪いことばかりじゃないな、うん。

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