一食目 ーー どういうことだよ、これは? ーー (3)
いつもの朝。
あくびを出さずに起きられれば、問題なんてない。
それがいつものことであるんだから。
3
スマホのアラームがけたたましく叫び声を上げる。
眉間にこれでもか、と深いシワを彫ってようやく目を開けた。
何度も瞬きを繰り返し、霞んでいた視界が晴れていくと、ようやくベッドから上体を起こした。
大きく背伸びをすると、つられてあくびも出てしまう。
「……眠い……」
そこでようやくベッドから起き上がった。まったく、嫌なルーティンである。
いつになれば、あくびを出さずにすむ日がくるんだ、と自身を罵りながらリビングに出てきたときである。
もう父親は起きていて、テーブルで新聞を読んでいる。
コーヒーの香りが鼻を突いた。
トーストに塗られたバターの香りもしている。
なんだ、ちゃんと作ってあるじゃん。
父親は自分で料理をする人物じゃない。そんな父親の朝ご飯を作るのは、母親しかいない。
「ーーえっ?」
安堵から鼻頭を擦ろうとしたとき、足が止まった。
弁当が……。
「ーーないじゃんっ」
唖然として言葉を失っていた僕の後ろで、叫び声を上げたのは姉。一瞬、目の前が真っ白になりかけていると、破裂しそうな声に息が詰まった。
「ちょっ、お母さん、お弁当はっ」
鬼気迫る声で詰める姉。さすがに姉も出勤前で髪も容姿もしっかりとしていた。
「だから、言ったでしょ昨日。今日からあんたたちのお弁当は自分土なんとかしなさいって」
「ーー嘘でしょっ」
「ーー冗談だろっ」
姉と僕の声が不協和音として重なり響く。
キッチンに立つ母親は気にせず、僕らの朝ご飯の用意をしていた。
弁当は作らないと言っているのに、キッチンに立っているのである。しかもエプロン姿で。
朝ご飯を作ってくれている。じゃぁ、なんで弁当は作ってくれないんだ……?
「ほら、立っていないで、早く食べてちょうだいよ」
途方に暮れる僕を急かす母親。温厚な口調にも有無を言わさないという雰囲気に従うしかない。
「ちょっと、朝作ってくれるんだったら、ついでにお弁当もさ」
それでも姉は食い迫るが、母親は聞こうともしない。無視をしつつコーヒーを入れていた。
「さぁ、早くっ」
「もうっ」
低く唸るだけが最低限の抵抗でしかなかった。
弁当は?
あれはただの冗談でしかないんだろ。
本当に用意していないなんて、信じることができない。