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おにぎり日和   作者: ひろゆき


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39/41

 六食目  ーー  おにぎりを握ること  ーー (4)

 う~む。

 変におかずにまで、手を出そうとしてしまっている。

           4



 強い視線がどうも痒かった。

 昼休み、いつものように弁当の横にスイーツを置いた藤田。僕のおにぎりを眺めて呟いていた。

 ちなみに、今日はプリンである。

「……やっぱ、上達してるよな」

 自分の弁当を開ける前に、藤田は珍しそうに僕の弁当を眺めて呟いた。

 今朝作った肉巻きおにぎりが二つ。

 そのまま弁当に入れるのではなく、まずはレタスを敷き詰めた上におにぎりを入れた。白ゴマをまぶして。

 あとは、それだけではとさらに思い、おにぎりができてからゆで卵を作っていた。

 それを四つに縦の輪切にして、二つを入れ、あとは冷蔵庫にあった、プチトマト、魚肉ソーセージを詰めておいた。

 残ったゆで卵などはどうなったのかは、聞かないでほしい。

 本当はプチトマトを入れるべきか迷っていたけど、見映えを気にして入れておいた。

「ほんと、お前の彼女すごくないか?」

 自分で作ったとは言えない。

 しかし、元々はおにぎりだけにしていたのに、最近は下手なりにも、“おかず”を作ったりしている。

 自分でも不思議ではある。そこまで作り込むのは、やはり最近おにぎりの具材に行き詰まっているからか、意識してしまっているのだろうか。

 見映えを変えれば、気分が変わるか、と。

「まぁ、そうなのかな」

 自分の出来に満足しているわけではなく、ついそんな返事をしてしまう。すると、藤田はキョトンとしてまばたきをしていた。

「お前、認めたな」

 すぐさま口角をつり上げ、不敵な笑みに僕は頬を歪めていく。

 別に認めてなんていない。ただ呆れて疲れただけである。

「何? また谷口くんのお弁当すごいの?」

 藤田の声に、大野が気づいて入ってくると、福原もこちらを向いた。

「やっとこいつ認めたぞ。彼女のこと」

「またその話? 好きだね、藤田くんも」

 興奮する藤田に対し、冷めた様子の大野。藤田にどこか呆れているように見えた。

 福原と苦笑しながらも、視線を僕の弁当に向けると、表情が明るくなった。

「あ、でもほんと、なんか今日のすごいね。なんか、“がんばった”感が伝わる」

 最初は冷めていた態度をしていたのに、おにぎりを見て大野の目に光が宿る。

「ねぇ、谷口くん、彼女に何かしてあげた? そのお礼でこれ?」

 呆れていたんじゃないか、とツッコミたくなる。

「……だから違うって……」

 正直、今となってはおにぎりを褒められるのは嬉しくなっていた。

 それでも、水を得た魚みたく、語尾を上げて盛り上がる藤田に、僕はうなだれた。

 ここは早く食べ切ってしまおうと、はしを掴む。

「でも確かに手が込んでるね。綺麗」

 弁当箱を奪い取ろうとすると、福原は言う。

 ふと頭を上げると、福原は屈託ない笑みを弾けさせた。

 事情を知る福原に言われると、胸が熱くなってしまう。

「これを朝にするんだから、大変だと思うもん」

「まぁ、そうだけど。でも思ったより簡単だった。肉を巻いて焼いてしまえばーー」

 一つの肉巻きおにぎりに箸を入れたとき、ふと手が止まる。

 一瞬、静寂が広がり、教室のざわめきが聞こえた。

 ーーん? と顔を上げると、藤田と大野の不可解な眼差しが僕に注がれていた。

 ただ一人、福原だけが「いいの?」と問いかけるような戸惑う眼差しを僕に注いでいる。

 二人に気づかれないように。

「あ、いや、多分だけどね」

 慌てて弁解するが目が泳いでしまう。

「ーーえっ? お前がこれーー」

「ーーそんな簡単じゃないよ。ちゃんとおにぎりの大きさも考えないといけないしさ」

「ーーそうなの、美里?」

「うん。だって、大きすぎると弁当箱に入らなくなったりもするし。だからダメだよ、簡単なんて言ったら」

 咄嗟に機転を利かせた福原。最初は何を言っているのか気づかなかったけど、福原の目配せに気づき、「あ、だな」と慌てて頷いた。

「大きさとかも、結構重要なんだよ。小さかったり少なかったりすると物足りないし、大きすぎると入らなかったり、蓋が閉められなかったりって」

「それをお前、やってるの? すげぇな」

「毎日スイーツを飽きないで食べる藤田くんには負けるけどね」

「あぁ~。それはわかる。私は怖くて食べられないもん」

 完全にごまかせたとは思っておらず、危うさを抱いていると、さらに福原が続けてくれた。

 藤田に意識が向くように。

 まだ疑って目をすぼめていた藤田。スイーツの話題が出て、視線を福原に移した。

「そうか? 俺は全然飽きないけど?」

「いや、そういう問題じゃないっ」

 あっけらかんと答える藤田に、大野は嘆く。

 話題は上手く藤田の好物であるスイーツに移り、ホッと胸を撫で下ろした。

 福原はそれをおかしそうに見ていた。鶏そぼろのご飯を食べながら。 

 ほんの一瞬の気の緩み。

 ちょっとだけ、油断してしまった……。

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