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おにぎり日和   作者: ひろゆき


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37/41

 六食目  ーー  おにぎりを握ること  ーー (2)

 いつしか変な物足りなさがあった。

 それがずっと拭えない。

            2



 今日のおにぎりも、我ながら成功である、と自信を持っていたのに、なぜか胸にはモヤモヤが竦んでしまい拭えずにいた。

 今朝、おにぎりを握っているころから、この気持ち悪さに苛まれていた。

 実を言うとここ数日、おにぎりに物足りなさを抱いてしまっていた。この前のサンドイッチを作ったころから、より強く。

 なぜだろう、と悩みながらも、学校に着いていた。

 自分の席に着き、スマホを眺めてしまう。新たな発見がないものか、と期待しながら。

 ふと周りを見渡すと、教室には登校した生徒が増え、いくつかの集団に分かれて賑わっていた。

 藤田はまだ来ていないようだ。

 誰かにスマホを覗かれないようにしなければ、と用心してしまう。

 おにぎりと入力して検索すると、いろいろと興味深いレシピは出てくるけど、どうも気に入ったものは見当たらなかった。

 納得できずに「う~ん」と唸りながら顎を擦ってしまう。

 つい難しい表情になりながら。

「ーー新しいおかずの検索?」

「ーーっ」

 咄嗟の出来事に体がビクッとして、スマホが一瞬宙に舞う。慌てながもスマホを上手く掴む。

 床に落とさずに済んで胸を撫で下ろして、声のした方向に恐る恐る顔を向けた。

 すると、椅子の斜め後ろに立って、首を伸ばしていた福原の笑顔が迎えてくれた。

 驚愕から体が萎縮してしまう。

「……福原…… お前、何回脅かすんだよ」

「だって、本当に驚いて楽しいんだもん。谷口くんって」

 突然声をかけられるのは何回目だろうか? 話しかけられるのは嫌いじゃないが、心臓に悪い。

「ーーで、何かいいおかずでもあった?」

「ちょっ、ちょっ、待ってってば……」

 周りを気にせず話す福原に、僕は焦って制止するが声が詰まる。

「大丈夫、大丈夫。みんな、そんなに聞こえてないって」

 心配するのをよそに、福原は手を小さく振り、自分の席の椅子にこちらに向かって座った。

 一度辺りを見渡した。確かにみんなこちらを見ていなかった。

「それでどうしたの? やけに真剣だったけど」

 福原は僕のスマホを指差して聞いてきた。レシピサイトを観ていたのはすでにバレているみたいだ。

「あぁ、実はさ、最近おにぎりの具がさ、行き詰まりというか、ネタ切れというか。それで何か新しいのないかなって。それで探してた」

 福原にはもう隠す必要がないので、素直に話した。

「ちょっと飽きた、みたいな?」

「うん。そんな感じかな」

 福原の指摘に素直に頷いた。そうなのである。ちょっと飽きていたのである。

「何かいい方法でもある?」

 自分で弁当を作っているのは福原の方が先輩である。その経験を伝授してほしかった。

 福原は少し宙を眺めたあと、

「そんなに難しく考えなくてもいいじゃん」

「いや、そんなに簡単に言われてもさ。福原はないの? おかずに悩んだりすること」

「そりゃあるよ。たまに迷ったりすること。私の場合、基本に戻るというか。自分の好きなものを中心に考えたりするよ。好きなものだったら、すぐ浮かぶし、何より嬉しいじゃない。お弁当を開けて好きなものばっかり入っていたら」

 そこで福原は目を細め、嬉しそうに笑った。それこそ遠足の弁当を開けて喜ぶ子供みたいに。

「まぁねぇ。でも、僕の場合、おにぎりだし。具材が限られてくるんだよね」

 お手上げ、と机に寝そべって頬をつけ、うなだれた。

「ねぇ、谷口くんの好きなものってなんなの? そういえば」

 首を伸ばして聞いてくる福原に、僕は宙を眺めて考えてしまう。

「やっぱ、肉かな」

 これは前にも考えたことがあったな。だから今日はすぐに浮かんだ。

「肉って、範囲が広いな」

 漠然とした答えに、福原は苦笑する。

「それかさ、一層のこと、お弁当箱を変えてみるとかは?」

「ーー弁当箱?」

 椅子に凭れて言う福原。得意げな顔になる福原を見上げた。

「うん。いつもと雰囲気が変わって、気分も上がりそうじゃない? それに新しいのってなんか嬉しいでしょ」

「う~ん。そうなのかな? 僕はそんなにこだわりはないからなぁ」

「また、そんな寂しいこと言う。まぁ、ちょっと考えてみれば?」

 そうなのかなぁ……。

「あ、それとお肉が好きなら、おにぎりでもーー」

「なに、話してんだ、お前ら?」

 何かに気づいた福原の声を遮るように、弾んだ男の声が割り込んでくる。

 藤田である。

 聞かれた、と一瞬眉をひそめ、福原と目が合った。一番聞かれたくない奴が来た。

 僕の不安を察したのか、福原が小さく頷く。

「谷口くんの彼女のことで相談受けたたの」

「ーーぬあっ」

 とんでもない福原の発言に、うつぶせになっていた顔を上げ、福原を凝視した。

 福原は無垢な笑みでガードしている。

「なっ。お前、やっぱ彼女いるのかっ」

 藤田の叫喚が教室に響く。

 ややこしい奴に火がついてしまった。

 どうやってごまかすべきか……。

 忘れていた頭痛が一斉に襲ってきた。

 原点回帰。

 自分の好きなものを思い返すしかない。

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