五食目 ーー まぁ、たまには、ね ーー (7)
面倒な日がようやく終わってくれる。
7
福原の寛大な態度には感謝しかなかった。
僕がおにぎりを作っていることに驚く福原に、厚かましいけれど一つ、頼みごとをした。
できれば、このことは秘密にしてほしいと。
確かに母親が作る弁当とは違う雰囲気が出ていても、やはりバレたくはない。
特に藤田にバレるのは恐れてしまう。福原は肯定的になってくれても、奴は違う。
より拍車をかけて茶化してくるのは明白である。
ここは黙っていてくれ、福原に懇願すると、快く頷いてくれた。「心配しすぎだよ」と、笑いながらも。
普段より多めに弁当を作る面倒な日であり、想定外の出来事に肝を冷やした日でもあった。
そんな日がようやく終わろうとしていた。
帰って来た姉の反応を残して。
「あんた、やってくれたわね」
リビングに入ってきた姉は、開口一番、ソファーに座る僕に怒鳴ってきた。
叱責されるのは覚悟していたので、まったく響きはしなかった。
いや、むしろ待っていたのかもしれず、無視をしてテレビを見続けた。
「何? 変なものでも入れてたの?」
いつものように本を見ていた母親が入ってきた。中身を知らないからだ。
「ーーそう。今日、おにぎりじゃなくて、サンドイッチだったのよ」
そうだ。絶対困っただろ。
「ーーへぇ。あぁ、それで今朝はご飯が炊いていなかったのね」
「ほんと、困ったわよ。こっちはおにぎりだって思っていたんだからさ」
乱暴に椅子に荷物を置く様子から、かなり苛立っているのだろう。
当然だな。それが目的でそうしたのだから。
「ーー引かれたか?」
わざと癇に障る言い方をしてやった。すると、姉がこちらに振り向いた。
「驚かれちゃったわよ。おにぎり以外もできるんだって」
ーーん? と僕は呆気に取られてまばたきをしてしまう。
すぐに叱責の攻撃が降り注ぐと思っていたのに、向けられたのは姉の満面の笑みであった。
「ありがとっ」
あれ? 僕はなんのために、今日サンドイッチを作ったんだ?
それは姉を困らせて、プレッシャーを与えるためだ。
きっと、食べるときは「大変だった」とか、「どう作った?」などと会話の流れになるはず。
そうなれば、作っていないのだから、上手く返事ができないはず。それなのに、なんで?
ここはむしろ、おにぎりにして、手を加えた方がよかったのか? 僕が失敗してしまったのか?
なんで、礼を言われたんだ?
「あんた、そこまでできるんだったら、ちゃんとおかずも作ってみたら?」
姉の喜ぶ様子に母親が提案する。
「そうよ。なんだったら、またサンドイッチでもいいわよ。美味しかったし。今度はパンの種類を変えてくれてさ」
なんだ、それは。
母親に便乗して姉がたたみかける。
僕は絶句してしまう。
今のはリクエストなのか? 困らせるためにやったのに、なんで逆に喜ばれるんだ? 僕の選択は間違っていたのか?
しかも、悪い予感がしてしまう。何か苦しみが延々と続いてしまいそうな、そんな絶望感が……。
目に見えないからより恐ろしい……。
姉の反応には嫌な予感しかしない。
絶対にいいことはないはず……。




