五食目 ーー まぁ、たまには、ね ーー (6)
サンドイッチには自信があるのに、悔しいけれど、自慢ができない。
6
サンドイッチの仕上がりとしては、完璧だと自負していた。
しかし、朝はいつもより早く起きたせいで、午後の授業が始まったころから急激に睡魔に襲われてしまい、あくびを必死に耐えながら授業を受けていた。
こんなときは早く家に帰ってやろうと考えていたのに、最悪なことに今日は日直なのである。
放課後、残らなければいけなかった。
腹立たしいのは藤田だ。最後まで残ってくれるかと思いきや、「今日はバイトだから」とそそくさと帰ってしまいやがった。
まったくもって、薄情な奴である。
日誌を書き終え、苛立ちながらも帰ろうとしたとき、教室には僕以外、誰もいなかった。
みんなすでに帰ったのか、部活に行ったみたいだ。
「あれ? 谷口くん、まだ残っていたの?」
背伸びをして席を立とうかとしていると、教室の前の扉が開かれ、声をかけられた。
顔を向けると、驚いた様子の福原がいた。
やばい。忘れていた。福原のことを……。
「福原も残っていたのか? もう大野と帰ったと思ってた」
「うん。ちょっとね」
急に緊張してしまう。福原は息を呑む僕を眺めながら、こちらに進んでくる。
昨日、スーパーで会ったとき、唐突に弁当のことを疑われてしまい、声が詰まってしまった僕は、思わず逃げ出したのである。
そこでちゃんと話しておけば、まだ上手くごまかせたかもしれないのに、半ば強引に帰ってしまった。
まずかった。そんなことをすれば、余計に怪しまれるのは明白であったのを、そのときは理解できずにいた。その冷静さがなかった。
だからだろうか。普段の制服姿である福原。どこか企んでいるように見えてしまう。
「さっきのサンドイッチ、おいしそうだったね」
「えっ、あ、そう?」
「あれって、やっぱり谷口くんが作ったんだよね?」
「ーーっ」
思わず声が詰まってしまった。冷静になれ、平然としろ、と胸の奥で心が訴えても、気持ちとは裏腹に目を見開いてしまう。
完全に動揺してしまっている。
呆然とする僕をよそに、福原は僕の前の席に腰を下ろした。
「ーー違う?」
含み笑いを浮かべながら、福原は首を傾げる。
「な、な、なんでそう思ったのさ。そんなことーー」
「最初に会ったときに買っていたシラス。それに麦飯も買っていたよね。そしたら次の日に使っていたし、昨日もおかずになりそうな野菜とかを買っていたからさ。それに藤田くんに茶化されてるとき、彼女のことを言われて照れて嫌がるって様子じゃなかったし」
顔の横で指を突き立てて指摘する。
「それにさ、谷口くんって、おにぎりのことを話してるとき、ちょっと嬉しそうだったよ。気づいてた?」
まばたきが止まらない。止まってくらない。
「ーーえっ?」
バレてる、バレていた。
一気に緊張が爆発してしまい、顔を伏せてしまった。恥ずかしくて顔を上げられない。
「ーー違う?」
もう一度、福原の問いが降り注いだ。
それは姉に弁当を強要されているときよりも、圧迫感が強くて萎縮してしまう。
逆らえずに静かに頷いた。
認めずにはいられなかった。
「なんで? なんで黙ってたの?」
予想できた問いに、溜め息がこぼれてしまう。
「そりゃそうだろ…… 恥ずかしいじゃん……」
「ーー恥ずかしい?」
「……だってそうじゃん。男が自分の弁当を作って持ってきてるなんてさ」
しかも、興味本位でネットを見、それに感化されて手を加えてしまったなんて、赤面ものであり、口が裂けても言えない。
「……そうかなぁ? 私はそうは思わないけど?」
「そうか? バカらしくないか?」
想定外の反応に、思わず顔を上げた。すると不思議そうな表情の福原と目が合った。
「なんか、変じゃないか?」
「そうかな。私も自分で作ってるから、大変さもわかるし、それだけすごいなって思うよ」
自分がおにぎりを作っているとバレると、ケタケタと笑われ、大いに茶化されると怯えていた。
だから福原の反応に拍子抜けしてしまった。
バレている……。
バレていた……。




