五食目 ーー まぁ、たまには、ね ーー (4)
嫌がらせ。
これは復讐か?
4
月曜日の朝。
僕を襲うのは苛立ち、焦り……。 不安……。
わからない。
ただわかっているのは一つ。
今日は姉の分だけでなく、彼氏の分まで作らなければいけない、というだけ。
だからこそ、苛立ちが際立ってしまう。昨日、僕はまったく承知なんてしていない。
姉が勝手に話を進めているだけである。
ここまでされると、拒むとどれだけの雷が落ちるのか、わからない。断れば何をされるか……。
考えるだけで背筋が凍ってしまう。眉間にシワを作った姉の顔が脳裏に浮かぶと、かぶりを振った。
わかった。わかりました。
だから作ってやる。だが素直に作ってなんかやらない。
姉を困らせるような弁当にしてやろう、と考えた。
頬を引きつらせ、キッチンを眺めた。そこに並べられた用具を眺めた。
ここに並べていたのは、いわゆるキャラ弁を作るためのお助けグッズであった。
以前見つけたとき、半ば反射的にいくつか買っていたのである。
もちろん、自分の弁当に使用するつもりはさらさらない。ただ興味が湧いて買っていたのである。
好奇心だけで買っていたのを利用しようと考えた。
姉はきっと彼氏の前で、初めて弁当を開くだろう。そのときもし、キャラ弁だったなら、どんな恥をかくだろうか。
つい鼻で笑ってしまう。
姉を懲らしめてやる。思いもよらない弁当を持たせることで。
そう。これは僕にとって姉への嫌がらせである。
これまで散々弁当を作らされたんだ。それぐらい、いいだろう。
昼休み。
僕の弁当を見た藤田は面喰らっていた。
「お前、今日の弁当はどうなってんだ?」
「どうなってるって、見てのとおりだよ」
嘆願の声をもらす藤田に僕は言い放つ。
「あ、ほんとだ。おにぎりじゃないんだ」
藤田の驚きの声に、隣にいた大野が首を伸ばしてきた。
「へぇ。今日はサンドイッチなんだ。なんで?」
ほしいオモチャを見つけた子供みたいに、目を輝かせる大野。
まぁな。と平静になって応えていても、僕の意識は大野の隣に移っていた。
隣にいる福原へと。
僕の不安を見透かしてか、藤田と大野の好奇の目と違い、福原だけが僕を見ていた。
何かを企んでいるような、不穏な眼差しで。
「あぁ、それで今日はお茶じゃなくて、カフェオレなんだね」
福原が何を喋るのかオドオドしていると、福原は当たり障りのないことを言ってくる。
「なんで、今日はおにぎりじゃないの?」
「なんでって、さぁ。なんでだろう」
ごまかしていても、福原の目が気になり、落ちつくことができない。
不安が噴き出そうである。
「ただの気まぐれなんじゃないの……」
「いや、小学生じゃないんだし。わざわざこんなの作るか?」
「ほんと。これなら、藤田くんの言うとおり、彼女いるのかも」
「ーーだろ。絶対にそう思うだろ」
藤田の呟きに、大野が声を弾ませる。すると、藤田は「だろ?」と大野を指差す。
「だから、それは違うって」
そこにおにぎりはない。
そう。おにぎりはない。




