五食目 ーー まぁ、たまには、ね ーー (2)
せっかくフレンチトーストができて嬉しかったのに、まったく。
2
フレンチトーストが予想よりも上手く焼けたことに、自然と僕の顔は綻ぶ。
しかし、すぐさま引き締めた。
「ほら、姉ちゃんの分」
と、完成したフレンチトーストを差し出した。
これで自分の分に集中できる。
「ーーあ、それと、もう一つお願いがあるんだけど」
このまま離れてくれるんだと、安堵感に浸ろうとしていると、姉の一言に襲われる。
無視だ。まだ自分の分が残っているのだから。
「実はさ、明日の月曜、二人分の弁当を作ってほしいんだけど」
「ーーハァッ」
やけに大人しげに喋ってくると思っていると、突然の頼みごとに、フライパンにバターを入れた手が止まり、声がもれた。
顔を上げると、姉が申し訳なさそうに首を傾げている。
「この前ね、あんたが作った弁当を見てた人がさ、すごい褒めてくれたんだよね。それですごい羨ましいって」
「……まさか、自分が作ったって言ったのか?」
「ーー当然でしょっ」
恥ずかしがることもなく、平然と言い切る姉。フライパンにパンを入れた手がまた止まると、呆れてかぶりを振った。
「よく、そんな嘘がつけるな」
姉の心境が掴めず、溜め息をこぼした。
「でさ、一昨日言われたんだよね。「自分のも作ってほしいな」って。ま、そりゃね、あんたのことをまったく考えてないわけじゃないわよ。大変だろうなって」
そこで僕が文句を言うと察したのか、姉は空いた右手を見せて宥めるように制する。
僕の気持ちなんて、一切気にしていないくせに。
「でもさ、せっかく頼んでくれたのを断るのも悪いじゃん」
そこで姉は急にしおらしくなり、急にオドオドとしてしまう。何か隠しているようにも見えた。
「ーー彼氏か?」
瞬時に閃き、一言放った。すると、姉は動きを止め、「まぁ」と濁しながら首を傾げる。
何を恥ずかしがっているのか……。
「だったら、余計自分で作れよ」
「いや、それは無理よ。それはあんたもわかってるでしょ」
「だから知るか。大体、僕が作ってるのはおにぎりであって、おかずは作ってないだろ」
「まぁまぁ。そんなに怒らずに。わかってるよ、大変だってのは。だから、私も相談するの、迷っていたんだから」
パンをひっくり返す。
しまった。動揺のせいか、タイミングが遅く少し焦げてしまった。
憎らしくなり姉を睨むと、姉は「ね、ね」と片手で手刀を切っている。
迷っていた。なるほど、そこで合点がいく。
昨日の朝、僕が寝すごし、おにぎりを作らなくても大して怒鳴らなかった理由を察した。
このことがあったから、後ろめたさがあったのだろう。下手に僕を逆なでして、機嫌を損ねるのを避けようとしたんだ。だからしおらしくしていたのか。
だからって素直に聞き入れはしない。
「だったら、余計自分で作れ。大体、自分で作らない罪悪感はないのかよ。それにバレたらどうすんのさ」
「あ、それは大丈夫。ちゃんとごまかしておくから」
こいつには背徳心はないのか、と呆れてしまう。
「ね。だからお願い。一回でいいからさ。そうすればあとは上手くごまかしておくから」
「ーー嫌だね」
焼き終えたフレンチトーストを皿に移しながら、即座に断った。
その考え方は絶対に違うだろ。
いいのか? 本当に?




