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おにぎり日和   作者: ひろゆき


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30/41

 五食目  ーー  まぁ、たまには、ね  ーー (2)

 せっかくフレンチトーストができて嬉しかったのに、まったく。

            2



 フレンチトーストが予想よりも上手く焼けたことに、自然と僕の顔は綻ぶ。

 しかし、すぐさま引き締めた。

「ほら、姉ちゃんの分」

 と、完成したフレンチトーストを差し出した。

 これで自分の分に集中できる。

「ーーあ、それと、もう一つお願いがあるんだけど」

 このまま離れてくれるんだと、安堵感に浸ろうとしていると、姉の一言に襲われる。

 無視だ。まだ自分の分が残っているのだから。

「実はさ、明日の月曜、二人分の弁当を作ってほしいんだけど」

「ーーハァッ」

 やけに大人しげに喋ってくると思っていると、突然の頼みごとに、フライパンにバターを入れた手が止まり、声がもれた。

 顔を上げると、姉が申し訳なさそうに首を傾げている。

「この前ね、あんたが作った弁当を見てた人がさ、すごい褒めてくれたんだよね。それですごい羨ましいって」

「……まさか、自分が作ったって言ったのか?」

「ーー当然でしょっ」

 恥ずかしがることもなく、平然と言い切る姉。フライパンにパンを入れた手がまた止まると、呆れてかぶりを振った。

「よく、そんな嘘がつけるな」

 姉の心境が掴めず、溜め息をこぼした。

「でさ、一昨日言われたんだよね。「自分のも作ってほしいな」って。ま、そりゃね、あんたのことをまったく考えてないわけじゃないわよ。大変だろうなって」

 そこで僕が文句を言うと察したのか、姉は空いた右手を見せて宥めるように制する。

 僕の気持ちなんて、一切気にしていないくせに。

「でもさ、せっかく頼んでくれたのを断るのも悪いじゃん」

 そこで姉は急にしおらしくなり、急にオドオドとしてしまう。何か隠しているようにも見えた。

「ーー彼氏か?」

 瞬時に閃き、一言放った。すると、姉は動きを止め、「まぁ」と濁しながら首を傾げる。

 何を恥ずかしがっているのか……。

「だったら、余計自分で作れよ」

「いや、それは無理よ。それはあんたもわかってるでしょ」

「だから知るか。大体、僕が作ってるのはおにぎりであって、おかずは作ってないだろ」

「まぁまぁ。そんなに怒らずに。わかってるよ、大変だってのは。だから、私も相談するの、迷っていたんだから」

 パンをひっくり返す。

 しまった。動揺のせいか、タイミングが遅く少し焦げてしまった。

 憎らしくなり姉を睨むと、姉は「ね、ね」と片手で手刀を切っている。

 迷っていた。なるほど、そこで合点がいく。

 昨日の朝、僕が寝すごし、おにぎりを作らなくても大して怒鳴らなかった理由を察した。

 このことがあったから、後ろめたさがあったのだろう。下手に僕を逆なでして、機嫌を損ねるのを避けようとしたんだ。だからしおらしくしていたのか。

 だからって素直に聞き入れはしない。

「だったら、余計自分で作れ。大体、自分で作らない罪悪感はないのかよ。それにバレたらどうすんのさ」

「あ、それは大丈夫。ちゃんとごまかしておくから」

 こいつには背徳心はないのか、と呆れてしまう。

「ね。だからお願い。一回でいいからさ。そうすればあとは上手くごまかしておくから」

「ーー嫌だね」

 焼き終えたフレンチトーストを皿に移しながら、即座に断った。

 その考え方は絶対に違うだろ。

 いいのか? 本当に?

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