表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おにぎり日和   作者: ひろゆき
3/41

 一食目  ーー  どういうことだよ、これは?  ーー (2)

 不安しかない。

 今さらながら、冗談なのか、と聞きたくなる。

             2



 あれは冗談だったのか?

 本気で言っているのならば、僕らにとっては由々しき問題である。

「ちょっと、どうするのよ、あれ」

 夜中の十二時を回ろうとしていたころ、気がかりになってリビングのソファーにいた僕に、パジャマ姿で乗り込んできた姉が、開口一番に怒鳴ってきた。

「んなこと僕に言われたって、仕方ないだろ」

 ソファーに座ってスマホをいじっていた僕。突然の怒鳴り声に驚き、体を逸らすが声が上擦ってしまう。

 僕の反論なんて意にも介さず、姉は憤慨しながら向かいのソファーに腰かけ、腕を組んだ。

「まさかお母さん、本気じゃないでしょうね」

「わかんないさ。ちょっと疲れてあんなこと言ったのかもしれないし」

「まったく、お父さんも全然話に乗ってくんないし」

「父さんは仕方ないさ。関係ないもん。仕事でも食堂に行ってんだから」

「だから、ムカつくのよっ」

 別に父親を擁護するつもりではなくても、怒りの矛先を父親に向ける姉を制する。

 無論、眉間にシワを寄せ、聞く耳を持ってはいないのだが。

 このままでは僕までが被害を被りそうだ。ってか、なんで文句を言いに来たんだ?

「でも、母さんなんで急にあんなことを言い出したんだろ」

 ソファーに凭れ、最大の疑問をもらした。逃げるようにして。

「それがわからないから、苦労してんでしょ」

 同じようにうなだれる姉。やはり見当がつかない。

「お母さん、言ってたけど、あんた何か変なこと言った?」

「別に言ってねぇよ。それ言うなら姉ちゃんだってーー」

「私はそんな酷いこと言ってないわよ。ちょっと相談しただけ」

 僕が咎めようとすると、すぐさま言葉を被せて否定する。

 ダメだ。まったく罪悪感は抱いていないらしい。

「それにそんなのかなり前のことよ。それでもちゃんと次の日にはお弁当作ってくれてたわよ」

「……だよな」

 やはり見当がなく、互いに頭を抱えて唸り声だけが木霊する。

「ーーで、明日あんたどうするの?」

 そこで幾分姉は神妙な口調となり、僕を真剣に見て聞いてくる。

 僕は手を頭の後ろで組み、天井を眺め、

「まぁ、まだ本気かもわからないけど、最悪の場合はコンビニかな。うちの学校の校売、数が少ないくせに倍率高いからなぁ」

 学校の一角にある売店を思い浮かべた。

 お茶を買いに行ったとき、パンを買うのに生徒が群がっていたのが頭によぎってしまう。

 あのなかに入って競争するのは疲れそうで、頬を歪めた。

 一度かぶりを振り、現実に戻った。

「ハハッ。まだあそこそうなんだ。変わってないんだ。まぁ、確かに売店に並んで昼休みが短くなるのが嫌でお弁当、って子も多かったしね」

 姉も僕と同じ高校の卒業生である。だから昼休みの状況を理解しており、僕の苦労も伝わり、昔を懐かしむように笑う。

「姉ちゃんはいいじゃないか。会社に食堂はあるんだろ?」

「そんな勝手な。そんなことないわよ」

「いいじゃんか。給料もらってんだからさ」

 ちょっと嫌味である。すぐさま姉は眉をひそめる。

「それはあんたがバイトをしないからでしょ。それに私にだって交際費ってのがあんの。いろいろと忙しいの」

 忙しいって、飲みに行ってるだけだろ。

 とは、決して口には出せないので、声を押し殺した。

 ましてや今、バイトをしていないのは事実。そこを突かれると文句は言えない。

「まぁ、明日の朝になったら大丈夫だろ、多分。疲れてたんだって」

 ここは話を逸らしておこう。多少強引ではあるのだが。

「……だといいんだけどね」

 まだ不安が残っているのか、唇を尖らせて釈然としない姉。それは僕も同じなので頷き、天井を仰いだ。

 冗談であってくれ、と。

 明日、明日はどうすればいいんだ?

 最悪の場合も考えなければ……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ