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おにぎり日和   作者: ひろゆき


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29/41

 五食目  ーー  まぁ、たまには、ね  ーー (1)

 休みぐらい、おにぎりからちょっと遠ざかろう。

           五食目     


            1



 ある日曜日。

 この日ばかりは朝に早く起きて、おにぎりを作らなければ、という使命感はなく、午前十時前までゆっくりとベッドで眠っていた。

 気分的にはずっと寝ておきたかったけど、体がそれを望んでいないらしく、急に腹の虫がグゥッと鳴ったのである。

 スマホよりもたちの悪いアラームが無理矢理急かすので、起きずにはいられない。

 重たい頭を抱えて部屋を出ると、目を擦りながら一階へと降り、顔を洗って歯を磨くけど、まだ眠い。

 小腹が空いたのを解決しようと、リビングに向かうと、母親はソファーに座り、テレビを見ていた。

「やっと、起きてきた。休みだからって、ゆっくりしすぎでしょ」

「別にいいじゃん。休みなんだし」

 Tシャツにスウェットのパンツと、パジャマと変わらないラフな格好を見て、顔をしかめる母親に、僕はぞんざいに吐き捨てる。

「朝ご飯は、どうするの?」

 平日の朝ならば出勤、通学のため、家族一同がリビングに集まるけど、休みの日はバラバラで、母親も休みの日の朝食はいつも用意はしていない。

 休日は各々が自分でやっていた。だから、父親も姉もまだ起きていない。

「あぁ、いい。なんか自分でやる」

 習慣的に母親を制しすると、「ーーそ」と再びテレビと向き合った。

 キッチンに入り、何にするべきか、と冷蔵庫を開く。

 冷蔵庫を開くことがもう日課になってしまったな、と冷気を頬に受けながら嘲笑したくなる。

 休みの日なので、簡単にパンとコーヒーでもいいか、とリンゴジャムに手を伸ばしたところで、ふと手が止まった。

 リンゴジャムに触れていた手があらぬ方向に変わる。



 コンロにフライパンを置くと、用意したボールに卵を割り入れる。

 ほんと、卵の使用頻度も多いな、と自分を茶化しながら。

 そこに牛乳、グラニュー糖を入れてかき混ぜる。

 混ざると一度バットに移し替え、そこに食パンを入れて卵を浸す。

 片面に染み込むと裏返し、反対側もしっかりと浸す。

 これを一晩漬けておくってのも聞くけど、今日はいい。

 パンに卵を浸している間に、フライパンにバターを入れて火を点ける。

 じわじわとバターが溶け、フライパンに火が通ると、バターの香ばしさが鼻を刺激する。

 そこにパンを入れる。

 ジュゥッと心地よい焼ける音が胸を熱くさせる。

「……フレンチトースト? あんたも好きね。朝からちゃんとして」

 パンが焼ける音、卵の匂いに母親が顔を向け、感心した。

「うん。ちょっと気になったから」

 返事をしながらパンをひっくり返す。うん。ちょうどいい色合いに焼けている。

 まだ卵が残っているので、もう1枚をバットに入れようとしたきである。

「何? なんかいい匂いするけど」

 リビングにまるで匂いを嗅ぎつけた獣みたいに、姉が起きてきた。

 姉も仕事が休みなので、僕と変わらずスウェットと、ラフな格好をしていた。

「あ、フレンチトースト? いい匂い」

 キッチンのそばに来ると、フライパンを覗いて目を細める姉。そこで僕は警戒心を強めた。

「ね、私のもお願い。ちょうどお腹減っていたし」

 やっぱり、と半ば呆れてしまう。予想どおりの反応を見せる姉に対して。

 無言のままちらりと睨んでみると、悪びれることなく、満面の笑みを献上されてしまう。

 まったく、これでは獲物を横取りするハイエナだ。そう。“ハイ恵那”である。

 イラつく笑顔を睨み、奥歯を噛み締めながら、内心毒づいた。まさにそのとおりだ、と。

 焼き終えたパンを皿に移す。本当なら、これは僕のものであるけど、姉に横から茶々を入れられるのは嫌だ。

 これを渡してさっさと退いてもらおう。

 焼き上がったパンに、バターを一欠片乗せる。ほんのりと茶色に焼けたパンの上で、熱によって溶けていくバター。それがまたパンに染み込んでいく。

 仕上げとしてそこに粉砂糖を振りかければ完成である。うん。

 まさか、休みの日まで奪われるのか……。

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